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傍目には逃げ出したペットの猫を追う子供三人とそのお姉さん…いや母親か。
この世界だとアタシの歳でフィフスドル君くらいの子供がいてもおかしくはない。お城にいる人たちも結構な数が十六、七で結婚してたりと早婚が多かったし。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。二人に追いつかないと。
アタシは走りながら自問自答していた。はっきり言ってどっちつかずで揺れているのだ。万年筆を取り戻したいという思いもあれば、このまま見ず知らずの他人の手に渡って二度と手に入らない方がいいような気もする。
あの万年筆はアタシにとって呪われた聖遺物。有っても無くても心のどこかを満たし、そして苛む。
猫ナナシ君は衰えることなくどんどんと町の外れまで走って行く。と、言うよりもギヴェヌーの東西南北に設けられたウチの北門を通り抜け、結局は町の外に出てしまったのである。
やがて門を出たところで猫ナナシ君とチカちゃんは一端立ち止まった。そのおかげでアタシ達はようやく追いつけることができた。
身体が吸血鬼になった影響と言うのはとても大きく、昨日お城から逃げ出したのと同じくらいの全力疾走をしたというのに少し息が上がるくらいの事だった。服と靴が変わったのもありがたかった。
「ナナシ君、ホントにこっちなの~?」
「ソウ。インクノニオイスル」
「なるほど。やけに迷いなく進むと思ったらインクの匂いを追っていたのか。ただでさえ嗅覚の鋭い吸血鬼に猫の嗅覚を上乗せすればそれも可能という訳だ」
フィフスドル君は感心しながら呟いた。しかし、すぐに怪訝そうな顔つきになりとある疑問を口にする。
「…しかし、妙だな」
「え? 何が?」
「お前たちと入れ違いに店から出た客なのだろう? それにしては移動するのが早すぎる。僕たちが全力で追いかけて追い付けないということは、向こうも相当急いでいるのではないか?」
「ほう、気付いたか。中々に勘働きがいいのう、坊主」
「当然だ。それと坊主はやめろ」
「いずれにしても夜に急いで町から出るというのは少々きな臭い。儂らがそうであるようにな」
「…確かに」
「なんでもいいよ。架純さんの万年筆を買ったのがその人なんだから」
「チ、チカちゃん。そのことなんだけど、無理に…」
と、ぼそぼそと自信なさげに喋ったのがいけなかった。アタシの言葉ははりきっている彼女の声にあっけなく遮られてしまった。
「ナナシ君、出発! インクの匂いが風に流されない内に追いつくよ!」
「ワカッタ」
「あ、ちょっと」
二人は再び走り出す。町を出たからか吸血鬼の本領を発揮して全速力で向こうに見える森に向かって一目散だった。
月光の下、草原を駆け抜けるのは少し気持ちが良かった。吸血鬼になり、体質が変わったせいで走るのが億劫でなくなったというのがかなり大きい要素ではある。
するとローブ姿の誰かが北の森の中に消えていく様を一瞬だけ捉えることができた。夜目と遠目が利くようになっていたおかげで、あの店ですれ違った女の人であることはすぐに分かった。
ナナシ君の鼻は確かなようだ。そして同時に明かりも持たずに夜の森に消えていくその人に不信感と言うか、只ならぬ何かを感じ取っていた。
向こうも向こうで森に入って安心したのか、進むスピードが極端に落ちたようだった。
やがて同じように森の入り口に差し掛かると、ノリンさんが言った。
「相手の事が分からぬ。少し様子を見てから声を掛けた方が良かろう」
「そうだね~街の中ならいざ知らず、こんな人のいない所に来るってちょっと怪しいし」
「幸い、向こうはこちらには気が付いていないようだからな」
「うーん、何か悪い事しようとしてるみたい…」
「返してくれるかどうかさておき、話の出来る相手じゃと助かるがのう…」
アタシ達はそう言いながらこっそりとローブ姿の女性の跡をつけ、森の中に入っていった。
というか、正確に言うと連れていかれた。昨日と同じようにフィフスドル君とチカちゃんがアタシの手を取って空を飛んだからだ。これなら確かに足音は立たない。木々が軒並み背が高いので枝葉に紛れることも叶っていた。
反対にノリンさんと猫ナナシ君はそのままの足で尾行をしていた。猫ナナシ君は猫なので当然だとしても、ノリンさんは落ち葉や枯れ木の上を歩いているというのにまるで物音がしていいない。目の前にいるのに気配がなくなっているかのようだった。幽霊の方が存在感があるのではないだろうか、と言うくらいに気配を消して先頭を歩いている。
するとノリンさんの動きがピタリと止まった。それに合わせてフィフスドル君とチカちゃんも静止する。三人でそっと地面に降りると木の影に身を隠しながら、前方の様子を伺った。
追っていたローブ姿の女性はここの森で誰かと待ち合わせをしていたらしい。見れば馬車が隠れるように停められており、更にその傍らには三人がやはり顔を隠して待ち構えていたのだ。
夜の森は風が吹かず、四人の会話がよく届いた。その声音で男性が二人、女性が二人だと知れた。
「お嬢、おっかえり」
「何か良さそうな物は買えましたか?」
「…ええ。運よく目ぼしいものが見つかりました」
「へえ。お前がポジティブに言うって事は、よほど良いモノがあったんだな。何を買ったんだ?」
「コレです…」
「それは…万年筆ですかい? 確かに中々ですね」
「確かに上等だな。後は包装だが…」
「贈答用の包みは戻ってからでもいいでしょう。それより一刻も早くここから離れますので馬車に乗ってください」
「すみませんねぇ。せっかちな姉で」
「兵は拙速を尊ぶ、という言葉を知らないのですか?」
「急いては事を仕損じる、って言葉があるからねぇ。何を規範にすればいいのやら」
「はっはっは。そんなお前らには、俺から臨機応変という素晴らしい言葉を送ろう…しかし今に限ってはユエの言う通り拙速にすべきだったな」
そう言った四人のうちの一人はフードを外すと、神懸った速さで弓に矢を当てがいアタシ達が身を隠していた木にそれを放ってきた。
カーンッ!
という矢が木に刺さる音が夜の森にこだました。アタシは口から心臓が飛び出そうな程に驚いた。
それを合図に四人は二手に別れた。男性二人がそれぞれ弓矢と槍を構えるとこちらを牽制しながら馬車の影に隠れた女性二人を庇うように立つ。
「気づいてるぜ。四人か五人いるだろう?」
「ギヴェヌーの町からウチのお嬢についてくるのは中々のもんだけど、相手が悪かったねぇ」
「そのまま引き返せば命だけは助けてやるが、どうする?」
「ええ? そりゃ勿体無い」
まさかの事態にアタシはすっかりと固まってしまった。どうしていいのか分からずにキョロキョロと皆の顔を見回すことしかできない。するとノリンさんが木陰から手を出して、声だけを飛ばした。
「逃げるか戦うかの次に話がしたい、という選択肢は入れられるかのう?」
そう尋ねると一瞬の間の後に愉快そうな笑い声が返ってきた。
「あっはっは。いいねぇ、ただの物取りから愉快な物取りに格上げだ。頭の後ろで手を組んで、全員が姿を見せるんならその選択肢を増やそう。どうだい?」
今度は全員がアタシの事を見た。危険を冒して話をするか、それとも相手の好意に甘んじて逃げるかはアタシ次第と目が物語っていた。正直、危ないことはしなくないし、みんな危険に晒すのも本意じゃない。
けれどアタシは少なくともあの弓を構えている人から悪意のようなものを感じることができなかった。だから意を決して話し合いを選択する。
相手の言う通り、アタシが頭の後ろで手を組んで姿を出すと皆は言いたい事がありそうな顔をしつつも従ってくれた。そうして現れたアタシ達五人を見て、向こうは少なからず驚いたような顔をした。
「おおっと。愉快な物取りが興味深い物取りになっちまったな。まさか子連れ猫連れとは」
「こ、子連れ…」
未婚なんです。それも婚約者に裏切られた未婚です。しかし、見た目的には仕方ないか。
「それで話し合いと言うのはどういう事なのかな?」
「じ、実はですね…」
アタシは混乱と興奮を何とか抑え、フードの女性を追ってきた経緯を話して聞かせた。しどろもどろだったのは否めないが、要所々々で皆がアタシの言葉をフォローしてくれたので何とか向こうにアタシ達の意図を伝えることが叶った。
話が終わる頃には、一応武器を構えるのは止めてもらえるくらいには落ち着いてもらえたようだった。
この世界だとアタシの歳でフィフスドル君くらいの子供がいてもおかしくはない。お城にいる人たちも結構な数が十六、七で結婚してたりと早婚が多かったし。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。二人に追いつかないと。
アタシは走りながら自問自答していた。はっきり言ってどっちつかずで揺れているのだ。万年筆を取り戻したいという思いもあれば、このまま見ず知らずの他人の手に渡って二度と手に入らない方がいいような気もする。
あの万年筆はアタシにとって呪われた聖遺物。有っても無くても心のどこかを満たし、そして苛む。
猫ナナシ君は衰えることなくどんどんと町の外れまで走って行く。と、言うよりもギヴェヌーの東西南北に設けられたウチの北門を通り抜け、結局は町の外に出てしまったのである。
やがて門を出たところで猫ナナシ君とチカちゃんは一端立ち止まった。そのおかげでアタシ達はようやく追いつけることができた。
身体が吸血鬼になった影響と言うのはとても大きく、昨日お城から逃げ出したのと同じくらいの全力疾走をしたというのに少し息が上がるくらいの事だった。服と靴が変わったのもありがたかった。
「ナナシ君、ホントにこっちなの~?」
「ソウ。インクノニオイスル」
「なるほど。やけに迷いなく進むと思ったらインクの匂いを追っていたのか。ただでさえ嗅覚の鋭い吸血鬼に猫の嗅覚を上乗せすればそれも可能という訳だ」
フィフスドル君は感心しながら呟いた。しかし、すぐに怪訝そうな顔つきになりとある疑問を口にする。
「…しかし、妙だな」
「え? 何が?」
「お前たちと入れ違いに店から出た客なのだろう? それにしては移動するのが早すぎる。僕たちが全力で追いかけて追い付けないということは、向こうも相当急いでいるのではないか?」
「ほう、気付いたか。中々に勘働きがいいのう、坊主」
「当然だ。それと坊主はやめろ」
「いずれにしても夜に急いで町から出るというのは少々きな臭い。儂らがそうであるようにな」
「…確かに」
「なんでもいいよ。架純さんの万年筆を買ったのがその人なんだから」
「チ、チカちゃん。そのことなんだけど、無理に…」
と、ぼそぼそと自信なさげに喋ったのがいけなかった。アタシの言葉ははりきっている彼女の声にあっけなく遮られてしまった。
「ナナシ君、出発! インクの匂いが風に流されない内に追いつくよ!」
「ワカッタ」
「あ、ちょっと」
二人は再び走り出す。町を出たからか吸血鬼の本領を発揮して全速力で向こうに見える森に向かって一目散だった。
月光の下、草原を駆け抜けるのは少し気持ちが良かった。吸血鬼になり、体質が変わったせいで走るのが億劫でなくなったというのがかなり大きい要素ではある。
するとローブ姿の誰かが北の森の中に消えていく様を一瞬だけ捉えることができた。夜目と遠目が利くようになっていたおかげで、あの店ですれ違った女の人であることはすぐに分かった。
ナナシ君の鼻は確かなようだ。そして同時に明かりも持たずに夜の森に消えていくその人に不信感と言うか、只ならぬ何かを感じ取っていた。
向こうも向こうで森に入って安心したのか、進むスピードが極端に落ちたようだった。
やがて同じように森の入り口に差し掛かると、ノリンさんが言った。
「相手の事が分からぬ。少し様子を見てから声を掛けた方が良かろう」
「そうだね~街の中ならいざ知らず、こんな人のいない所に来るってちょっと怪しいし」
「幸い、向こうはこちらには気が付いていないようだからな」
「うーん、何か悪い事しようとしてるみたい…」
「返してくれるかどうかさておき、話の出来る相手じゃと助かるがのう…」
アタシ達はそう言いながらこっそりとローブ姿の女性の跡をつけ、森の中に入っていった。
というか、正確に言うと連れていかれた。昨日と同じようにフィフスドル君とチカちゃんがアタシの手を取って空を飛んだからだ。これなら確かに足音は立たない。木々が軒並み背が高いので枝葉に紛れることも叶っていた。
反対にノリンさんと猫ナナシ君はそのままの足で尾行をしていた。猫ナナシ君は猫なので当然だとしても、ノリンさんは落ち葉や枯れ木の上を歩いているというのにまるで物音がしていいない。目の前にいるのに気配がなくなっているかのようだった。幽霊の方が存在感があるのではないだろうか、と言うくらいに気配を消して先頭を歩いている。
するとノリンさんの動きがピタリと止まった。それに合わせてフィフスドル君とチカちゃんも静止する。三人でそっと地面に降りると木の影に身を隠しながら、前方の様子を伺った。
追っていたローブ姿の女性はここの森で誰かと待ち合わせをしていたらしい。見れば馬車が隠れるように停められており、更にその傍らには三人がやはり顔を隠して待ち構えていたのだ。
夜の森は風が吹かず、四人の会話がよく届いた。その声音で男性が二人、女性が二人だと知れた。
「お嬢、おっかえり」
「何か良さそうな物は買えましたか?」
「…ええ。運よく目ぼしいものが見つかりました」
「へえ。お前がポジティブに言うって事は、よほど良いモノがあったんだな。何を買ったんだ?」
「コレです…」
「それは…万年筆ですかい? 確かに中々ですね」
「確かに上等だな。後は包装だが…」
「贈答用の包みは戻ってからでもいいでしょう。それより一刻も早くここから離れますので馬車に乗ってください」
「すみませんねぇ。せっかちな姉で」
「兵は拙速を尊ぶ、という言葉を知らないのですか?」
「急いては事を仕損じる、って言葉があるからねぇ。何を規範にすればいいのやら」
「はっはっは。そんなお前らには、俺から臨機応変という素晴らしい言葉を送ろう…しかし今に限ってはユエの言う通り拙速にすべきだったな」
そう言った四人のうちの一人はフードを外すと、神懸った速さで弓に矢を当てがいアタシ達が身を隠していた木にそれを放ってきた。
カーンッ!
という矢が木に刺さる音が夜の森にこだました。アタシは口から心臓が飛び出そうな程に驚いた。
それを合図に四人は二手に別れた。男性二人がそれぞれ弓矢と槍を構えるとこちらを牽制しながら馬車の影に隠れた女性二人を庇うように立つ。
「気づいてるぜ。四人か五人いるだろう?」
「ギヴェヌーの町からウチのお嬢についてくるのは中々のもんだけど、相手が悪かったねぇ」
「そのまま引き返せば命だけは助けてやるが、どうする?」
「ええ? そりゃ勿体無い」
まさかの事態にアタシはすっかりと固まってしまった。どうしていいのか分からずにキョロキョロと皆の顔を見回すことしかできない。するとノリンさんが木陰から手を出して、声だけを飛ばした。
「逃げるか戦うかの次に話がしたい、という選択肢は入れられるかのう?」
そう尋ねると一瞬の間の後に愉快そうな笑い声が返ってきた。
「あっはっは。いいねぇ、ただの物取りから愉快な物取りに格上げだ。頭の後ろで手を組んで、全員が姿を見せるんならその選択肢を増やそう。どうだい?」
今度は全員がアタシの事を見た。危険を冒して話をするか、それとも相手の好意に甘んじて逃げるかはアタシ次第と目が物語っていた。正直、危ないことはしなくないし、みんな危険に晒すのも本意じゃない。
けれどアタシは少なくともあの弓を構えている人から悪意のようなものを感じることができなかった。だから意を決して話し合いを選択する。
相手の言う通り、アタシが頭の後ろで手を組んで姿を出すと皆は言いたい事がありそうな顔をしつつも従ってくれた。そうして現れたアタシ達五人を見て、向こうは少なからず驚いたような顔をした。
「おおっと。愉快な物取りが興味深い物取りになっちまったな。まさか子連れ猫連れとは」
「こ、子連れ…」
未婚なんです。それも婚約者に裏切られた未婚です。しかし、見た目的には仕方ないか。
「それで話し合いと言うのはどういう事なのかな?」
「じ、実はですね…」
アタシは混乱と興奮を何とか抑え、フードの女性を追ってきた経緯を話して聞かせた。しどろもどろだったのは否めないが、要所々々で皆がアタシの言葉をフォローしてくれたので何とか向こうにアタシ達の意図を伝えることが叶った。
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