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エピソード3

貸与術師と知られていた秘密

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 ヤーリンはチラリと部屋全体を見回した。しかし他の八人は顔色一つ変えず、ワドワーレの次の言葉を待っていた。

「具体的にギルドから何て言われているかは知らないけどね、こっちだって伊達や酔狂でと『ワドルドーベ家』の幹部をやってる訳じゃない。お前らのギルドの動向なんてある程度の情報は入ってくるし、長年の勘で大よそのこととは分かる。そんな類の命令をギルドから受けていることは否定しないだろ?」

 全員が沈黙を肯定としていた。

 そしてその空気に耐え切れなくなったアルルが困った様な声を出す。

「な、なんでヲルカ君はウチらの事情を知ってるの?」
「少年がギルドの内情や性格を把握しているとは考えにくいし、状況証拠的に判断したというのが事実じゃなかろうか? いくらなんでもどこのギルドも女性を派遣し、その全員が積極的なアプローチを仕掛ければ作為的なものを感じても不思議じゃない」
「儂がやり過ぎたんじゃろうか?」
「ヲルカに何をしたんですか!?」

 ヤーリンはカウォンに向かって叫んだ。客観的に見て、この中で一番ヲルカ・ヲセットを誘惑しやすい立場と能力を有しているのはカウォンであろうことは皆思っている事だ。しかし、カウォン自身が彼を篭絡させるのは並大抵の事ではないと理解もしていた。

 カウォンは少々渋い顔になって言う。

「いずれにしてもよい状況ではない訳じゃな。ヲルカが儂らの思惑に完全に気が付いたなら、恐らくは激昂して今後は取りつく島もなくなってしまうかも知れんしのう…」
「付け加えるなら、ハヴァ君もそれを一番の懸念にしていた。このギルドの瓦解だけは絶対に避けなければならない、とね。だから他のギルドの妨害工作を企ててボク達が決裂し得る状況を作るべきではないと提言していたが…ボクの記憶が正しければ君が一番にそれを無下にしようとはしていなかったかな、ワドワーレ君」
「ああ、確かにね」
「にも拘らず今回のような申し出をしたという事は、考えが変わったと判断していいのかい?」
「その点に関しては、ね。だからこそ、ここにいる全員にオレしか知らないであろうことを一つ、情報として提供をしてやろうと思ってる」
「ほう?」

 全員が固唾を飲んだ。『ワドルドーベ家』しか知り得ない情報というのは、確かに興味がそそられるモノだった。

 だが、それは考えられる中で最も最悪の情報だった。

「ハニーはオレ達の目論見に気が付いているかも知れないんじゃなくて、完全に気が付いているぜ」
「「!?」」
「な、んで?」
「オレだけ特別任務を受けたって話はしただろ? その時にハニーから直接言われたよ。やっぱり、みんなであからさますぎたかな?」
「…」
「でも待って。それなのにヲルカ君は何の行動も起こさないで、普通にウィアードの調査に行ったって事は…」
「ヲル君はそれについては言及も対処も考えてないって事?」
「いや、対処は考えているよ。だから今朝、オレのところにきて言った。ハニーは…ヲルカ・ヲセットはこう思ってる」

 勿体ぶった態度につい全員が乗せられている。

 ゴクリ、と部屋の中に固唾の飲み込む音が響いた。そしてワドワーレは、やはりこの状況の面白さに耐え切れず嘲るように言った。

「十股したいってさ」
「…はい?」
「オレ達全員を侍らせたままでこの暮らしを続けたいらしい」

 そしてとうとう、ぷっと吹き出してはクククと堪えた笑いをし始めた。その様子を見て皆はようやく本来の調子を取り戻す。

 ラトネッカリが一つ咳ばらいをして、ワドワーレの戯れを簡潔にまとめる。

「ワドワーレ君。それはつまり少年はこのギルドの存続を願っている。そして僕らには今のところお咎めなしという解釈でいいのかな?」
「ま、そういうこったな」
「紛らわしい言い方をしないでください!」

 ヤーリンの怒号を受け、いよいよワドワーレは普段の彼女のソレに戻った。とぼけた様な態度を取り、椅子に腰を掛ける。

「それで…ワドルドーベ殿はどのような結論を?」
「最初に言っただろう。協力したいって」
「…ふむ」
「あ。それにこのギルドの名前だって決まってないんだから、いっそのこと『ヲルカハーレム』とかにしちゃう? みんなでヲルカに可愛がってもらう?」
「えー、どっちかというとアタシは可愛がりたいな」
「うむ。確かにそこに関しては我も同意見だ」
「何で受け入れてんのよ!? ウチなんてまだ一人とちゃんと付き合った事ないのに、複数なんて…」
「アルルさんも落ち着いてください!」

 何やらワドワーレの話術のせいか、少しずつ皆の調子が狂い始めてきていた。

 すると、こういう流れに水を差すのが得意なサーシャがやはり淡々と水を差してきた。

「残念ながら、『    』事件が解決した折に、既にこのギルドの名前はヲルカ君が決めています。報告が遅れましたが」
「おや、不肖ながら情報が確認できていないね。少年は何と?」
「『ジャックネイヴ』と命名しております」
「え…ダサくない?」
「そ、そうでしょうか?」

 どうやらサーシャとヲルカとの感性は似通っていたらしく、彼女は彼女でこの名前が気に入っていたらしい。

 ところで、そんなサーシャの様子をワドワーレはじっと見つめていた。あまりにも粘りつくようないやらしい視線だったので、挑発と分かっていたのに反応してしまった。

「ワドワーレさん。何でしょうか?」
「『ヲルカハーレム』って言ったら『残念』ながら他に決まってるって言ったよね、今。残念だったの? それともヲルカは独り占めしたい感じ?」
「なっ!?」

 理外の方角から突かれた攻撃にサーシャは珍しく取り乱した。そして普段の鉄仮面が嘘のように剥がれ落ち、顔を赤くして反論する。

「こ、言葉の綾です! 今のは!」

 そう言って取り繕うように慌ててサーシャは立ち上がった。しかもその時に勢い余ってテーブルの縁に思い切り足をぶつけている。いつもの格調高い彼女からは考えられないような行動に皆で固まっていた。

 サーシャは如何にもバツの悪そうな顔を、何とかコホンっという咳払いで誤魔化した。

「と、とにかく。このギルドの継続のために一時協力すると言う意見には賛成です」

 この『中立の家』で共に生活するうちにほんの少しずつ、自分たち十人の関係性や互いに対する偏見のようなモノが崩れてきているような気がすると、皆が同じことを思っている。

 そして、その原因は間違いなくヲルカであるということも全員が気が付いていた。
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