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エピソード3

貸与術師と連携攻撃

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 牛打ち坊はその体躯に偽りのない怪力が厄介だった。緑魔法で筋力を極限まで高めても力負けしてしまう。流石は妖怪と言ったところか。

 向こうもそれに気が付いているのかいないのか、消耗戦に持ち込む気が見て取れる。早めにケリをつけないと。

 そう思った矢先、牛打ち坊は燃え盛る小屋の木材を掴むと力任せに振り回し始めた。焼け焦げて脆くなっていた木材は牛打ち坊の握力に耐え切れなかったようで、けたたましい音を立てながら明後日の方向へと飛んでいく。

 動きが想定外過ぎて、俺は一瞬動きを鈍らせてしまった。

「ヤバイ!」

 しかも、よりにもよって燃えた木片が飛んでいった方向には遠巻きに戦いの様子を伺っていたイベント客がいた。寸でのところで木片は届かなかったものの牛打ち坊はただでさえ大きい口元を裂けんばかりに釣り上げた。

 ヱデンキア市民を狙うと俺の動きが鈍ると気が付かれたのだ。

 その予想は的中し、牛打ち坊は足元の小屋を振り上げるように払った。小屋どころかソレが建っていた地面の土まで抉れ、土砂ごとまき散らす。そして奴の策略通り、俺は戦うべきかイベント客を庇うかの選択を強いられてものの見事に焦ってしまった。

 隙を突かれ、牛打ち坊の太い腕が俺に向かって降り降ろされる。しかし、俺の身体は腕に潰されるよりも先に大きな白狼に咥えられていた。

「アルル!」
「ヲルカ君、大丈夫?」

 俺を優しく降ろしてくれたアルルが、同じように優しく尋ねてくる。助けてもらったのはありがたいが、俺よりもイベントに集まったお客さんが…!

 そんな懸念を胸に小屋が吹き飛ばされた方を見た。だがその先にいたのは大きな黒龍へと姿を変えたナグワーだった。爪と翼と尻尾とで小屋の残骸も土砂も全てを払いのけている。しかもおまけとばかりに牛打ち坊を威嚇するための咆哮までしている。なんか、アレだ。。

 決定打にはならならいがナグワーの圧倒的なフィジカルは牛打ち坊を物理的に抑え込めている。これは流石の一言に尽きる。

 けど問題は牛打ち坊だけじゃない。小屋に付けた火が木片と共にまき散らされ、公園のあちこちに飛び火してしまっている。消火作業も熟さないといよいよパニックになってしまうかも知れない。青魔法を使って水を出すことは可能だが、俺は戦いながらの消火するなんて真似ができるほど器用ではない。

 するとその時、ぽつりぽつりと雨が降り出したのが分かった。

 自然の雨じゃない。だってこのリーゼ記念公園の芝生の中だけを狙ったかのように振っているからだ。どう考えたって普通じゃない。

 そして雨音に交じって、遠くから響いてくる微かなメロディにも俺は気が付いた。

 これは歌だ。

 しかもこの声の主は…。

「カウォン!」

 見れば少し離れた場所でキーキアとコッコロに守られながらカウォンが歌を歌っていた。カウォンは野性魔術の他に、魔力を歌に乗せて発動する『詩魔法』という魔術のエキスパートでもある。

 今、響き渡っているこの歌は確か「雨唄」と言っただろうか。ベストアルバムに入っているのを聞いた事がある。熱心なファンじゃないから何とも言えないけど…。

 それよりも何よりも、この雨を見て俺の中には一つの妙案が思い浮かんでいた。

 俺は右腕を鎌鼬の鉤付きロープに貸与した。そしてそれを思い切りよく振るい、牛打ち坊へ何重にも巻き付ける。

「ナグワー! 離れて!!」
「了解!」

 命令した途端、ナグワーは空に向かって羽ばたいた。牛打ち坊はドラゴンを追いかけようと手を伸ばすが巻き付いたロープがそれを許さない。そう判断した瞬間、再び俺に狙いを定め直した。

 けれどもその隙をついてナグワーが飛び立ち際に堅い鱗に覆われた尻尾を奴の脳天に食らわせる。ダメージはなさそうだが、俺から注意を引き離すことには成功した。ナイスアシスト過ぎる。俺は思った事をそのまま口に出して叫んでいた。

「ナイスアシストッ!!」

 俺はここぞとばかりに思いついた妙案を実行する。

 カウォンが呼んでくれた雨雲。そして雨雲と言えば…雷だと相場が決まっている。

 鎌鼬に貸与した腕を通し、俺は雷獣を解き放つ。こいつは文字通り電気のエネルギーの塊。身体に取り込んだ時から力が大きすぎて扱い辛かったが、今は強力過ぎるくらいの威力があって丁度いいくらいの強敵だ。

 雷獣は右腕を介し、イタチと猫と狼を足したかのような姿で牙を剥いては牛打ち坊に襲い掛かる。今までとは違って目に見えて苦しみ、ダメージを受けている事が分かった。雨で身体が濡れている分、更に伝導率が増しているようだった。

 やはりウィアード相手にはウィアードを使うしか手立てがないのだ。

 やがて。

「グゥオオオオォォォ……!!」

 そんな断末魔の叫びと共に牛打ち坊は灰塵となり消え失せた。

 俺はというとその場で尻もちをつき、肩で息をしながら空を仰いでいた。お尻がぐっちょりと濡れてしまったが、そんな事はどうでもいいと思えるほどに疲労感が残る。想像以上に体力の消耗が激しい。やはり雷獣は、かなり使いどころに気をつけなければならないと思った。

 だがそんな反省ができたのも束の間。すぐにリーゼ記念公園の中に歓声が上がった。

 集まっていたイベント客や通行人、任務に当たっていたギルド員たちがまるでお祭り騒ぎのようにはしゃいでいる。

 俺はそれなのにも拘らず、そう言えばこんな大勢の人の前でウィアードを退治したのは初めてだったなあと暢気な思考を巡らせていた。
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