137 / 163
メロディアの仕事4
11ー5
しおりを挟む
『全員、順番にメモを読み上げろ』
「!?」
全員が一斉にしまったという顔になった。
抵抗の意思は見せたものの魔王の血を色濃く継いでいるメロディアの言霊に敵うはずもなく命令通りにメモを読み上げ始めた。
「ではドロマーさんから行きましょうか」
「あぐ、あ」
「いいから、はよ読め」
「め、メロディア君はリムダラという果実をご存じですか?」
「え? 知ってますけど」
リムダラとはバナナのように細長く、食間はリンゴや梨のようにシャリシャリとした南国のフルーツだ。種が細い三日月みたいになっており果肉を歯で削ぎ落とすように食べる。南方で採れるが旬の時期にはこのクラッシコ王国の城下町でも出回る機会は増える。
「む、昔に旅をしていたときに知ったんですが、リムダラの種を塩漬けにして食べる地域があったんです。塩気と食感が良かったのでご飯ものと一緒に出せば喜ばれるのではないかと思ったんです。例えば親子丼とか」
「へえ」
種は捨てるものだと思っていたメロディアは未知の料理法に素直に感心した。流石は世界中を旅してきただけの事はあるなと思うのと同時に、下ネタが全く出てこないことにも気が付いた。
あれ? ひょっとして本当に真面目にメニューを考えていただけかと頭に過りつつ、ドロマーの話の続きを聞く。
「ですのでリムダラの種の塩漬けと親子丼セット、略して『種漬け親子丼セット』を…」
「却下だ!!!」
感心して損をした!
怒号と共に鉄拳をお見舞いしたメロディアは他の六人に対しての情けを捨てた。辛うじて残しておいた慈悲と温情は忘れ、隣にいたドロモカを見る。
「ドロモカさんは?」
「わ、私もです。お姉様がリムダラの塩漬けを気に入っていた事を思い出し、肉料理と提供できればと」
「具体的には?」
「ハラミを香ばしく炭火焼きにして、『種漬けハラミ定食』を…」
「一緒じゃねーか!」
共にダブルミーニングを駆使してくるとは、流石は姉妹の契りを交わした変態ドラゴンコンビ。これで血の繋がりはないのが不思議だ。
次いでメロディアは殺さんばかりの勢いでレイディアントとラーダの二人を睨んだ。
「あ、アタイとレイディはドリンクを…」
「う、うむ」
「言ってみろ」
「我はどうせ吐くほど飲むのなら己の罪咎も洗いざらい吐き出させる『特製自白剤サワー』を…」
「アタイはエルフの知識を活かして果実酒で酎ハイを考えてね? 濃厚な果実酒でベロベロに酔っ払う酎ハイ、略して『濃厚ベロチュー』みたいな…」
「よし、二人とも歯を食いしばれ」
救いようがねえな、こいつら。
二人に制裁を加えた後、残る三人に視線を送る。とりあえず真っ先に視界に入ったソルカナを名指しで指名した。
「ソルカナさんは?」
「お、オレはデザートでもと思って」
「ほう?」
「世界樹の精霊として木の実や花の蜜を精製できるから、それを駆使して『蜜の滴る青い果実を丸かじり』ってジョークとウィットに富んだメニューを…」
「ははは。起きたまま寝言をいうのはおかしいので気絶してもらいますね」
その瞬間、ゴキッと鈍い音が食堂の中に響き渡った。ソルカナが崩れ落ちるのと同時に「ひいっ」と短い悲鳴が上がる。その声の主であるファリカが次のターゲットになる。
メロディアはもう口許は笑っていても目元が冷淡な光を帯びていた。
「ボ、ボクはパンを考えて…」
「ああ。じゃあ『なんとかパイパン』とか言うつもりだろ」
「オチを先に言わないで!」
「オチって何だ!? 大喜利やってんじゃねえんだぞ!」
デコピンでファリカの意識を奪うと、メロディアは残るシオーナを捕らえる。彼女は機械化された顔を崩すことはなかったが、それでも蒼白な雰囲気を醸し出していた。
そしてフルフルと震えた手でメモを見せながら、自らのアイデアを読み上げたのである。
「き、キスの天ぷら」
「……はい?」
発言とメモを比べて尚、意味が分からなかったメロディアは意外にもすっとんきょうな声を出した。シオーナは顔色こそ変えなかったが耳から白い煙を昇らせて恥ずかしさを現している。
「ごめんなさい。みんなと違ってあそこまで如何わしいメニューが思い付かなかった」
「それは謝ることじゃない」
「しかもこんな小学生のような回答を」
「だから大喜利じゃないんだよ!」
それにしてもエロさ全開のメニューを考えさせて出てきたのがキスの天ぷらって…。
肩透かしを食らったメロディアはすっかりと毒気が抜かれてしまった。これが計算されたものだとしたら相当なもんだ。まあ、ここまで冷静になってしまえばどちらでもいい事だったが。
するとそのタイミングでミリーが厨房から戻ってきた。両手と頭と尻尾を使い、器用に料理が乗った大皿を運んでくる。
「待たせ…え、何これ?」
死屍累々の現場を目の当たりにして呆然としたミリーだったが、すぐに全員が何かしらをやらかしてメロディアの鉄拳制裁を喰らったのだろうと察した。
それと同じ様にメロディアもミリーもポケットにメモ紙を隠し持っている事に気が付き生き馬の目を抜く速さで取った。
「…案の定、あなたもですか」
「あん? あ、それ…」
「言い訳は中身を見てから聞きますよ」
色々と手間に感じていたメロディアは今度は自分で中身を改めた。するとメモにはミリーが旅の中で培った料理のレシピや今しかだ厨房で確認した食材を使っての創作料理の叩き台が記されているばかりだった。
「どうだ? 折角手伝うならこういうメニューが出せれば面白いんじゃないかと思って殴り書きにしてみたんだけど」
「いや、真面目か!」
「何が!?」
まるで意味の分からないミリーの声が店の中に反響した。
その後メロディアは全員が自然に目を覚ますのを待ちながら、ミリーの味付けのセンスと確かな技術に脱帽するような思いで料理を口に運んでいた。
「!?」
全員が一斉にしまったという顔になった。
抵抗の意思は見せたものの魔王の血を色濃く継いでいるメロディアの言霊に敵うはずもなく命令通りにメモを読み上げ始めた。
「ではドロマーさんから行きましょうか」
「あぐ、あ」
「いいから、はよ読め」
「め、メロディア君はリムダラという果実をご存じですか?」
「え? 知ってますけど」
リムダラとはバナナのように細長く、食間はリンゴや梨のようにシャリシャリとした南国のフルーツだ。種が細い三日月みたいになっており果肉を歯で削ぎ落とすように食べる。南方で採れるが旬の時期にはこのクラッシコ王国の城下町でも出回る機会は増える。
「む、昔に旅をしていたときに知ったんですが、リムダラの種を塩漬けにして食べる地域があったんです。塩気と食感が良かったのでご飯ものと一緒に出せば喜ばれるのではないかと思ったんです。例えば親子丼とか」
「へえ」
種は捨てるものだと思っていたメロディアは未知の料理法に素直に感心した。流石は世界中を旅してきただけの事はあるなと思うのと同時に、下ネタが全く出てこないことにも気が付いた。
あれ? ひょっとして本当に真面目にメニューを考えていただけかと頭に過りつつ、ドロマーの話の続きを聞く。
「ですのでリムダラの種の塩漬けと親子丼セット、略して『種漬け親子丼セット』を…」
「却下だ!!!」
感心して損をした!
怒号と共に鉄拳をお見舞いしたメロディアは他の六人に対しての情けを捨てた。辛うじて残しておいた慈悲と温情は忘れ、隣にいたドロモカを見る。
「ドロモカさんは?」
「わ、私もです。お姉様がリムダラの塩漬けを気に入っていた事を思い出し、肉料理と提供できればと」
「具体的には?」
「ハラミを香ばしく炭火焼きにして、『種漬けハラミ定食』を…」
「一緒じゃねーか!」
共にダブルミーニングを駆使してくるとは、流石は姉妹の契りを交わした変態ドラゴンコンビ。これで血の繋がりはないのが不思議だ。
次いでメロディアは殺さんばかりの勢いでレイディアントとラーダの二人を睨んだ。
「あ、アタイとレイディはドリンクを…」
「う、うむ」
「言ってみろ」
「我はどうせ吐くほど飲むのなら己の罪咎も洗いざらい吐き出させる『特製自白剤サワー』を…」
「アタイはエルフの知識を活かして果実酒で酎ハイを考えてね? 濃厚な果実酒でベロベロに酔っ払う酎ハイ、略して『濃厚ベロチュー』みたいな…」
「よし、二人とも歯を食いしばれ」
救いようがねえな、こいつら。
二人に制裁を加えた後、残る三人に視線を送る。とりあえず真っ先に視界に入ったソルカナを名指しで指名した。
「ソルカナさんは?」
「お、オレはデザートでもと思って」
「ほう?」
「世界樹の精霊として木の実や花の蜜を精製できるから、それを駆使して『蜜の滴る青い果実を丸かじり』ってジョークとウィットに富んだメニューを…」
「ははは。起きたまま寝言をいうのはおかしいので気絶してもらいますね」
その瞬間、ゴキッと鈍い音が食堂の中に響き渡った。ソルカナが崩れ落ちるのと同時に「ひいっ」と短い悲鳴が上がる。その声の主であるファリカが次のターゲットになる。
メロディアはもう口許は笑っていても目元が冷淡な光を帯びていた。
「ボ、ボクはパンを考えて…」
「ああ。じゃあ『なんとかパイパン』とか言うつもりだろ」
「オチを先に言わないで!」
「オチって何だ!? 大喜利やってんじゃねえんだぞ!」
デコピンでファリカの意識を奪うと、メロディアは残るシオーナを捕らえる。彼女は機械化された顔を崩すことはなかったが、それでも蒼白な雰囲気を醸し出していた。
そしてフルフルと震えた手でメモを見せながら、自らのアイデアを読み上げたのである。
「き、キスの天ぷら」
「……はい?」
発言とメモを比べて尚、意味が分からなかったメロディアは意外にもすっとんきょうな声を出した。シオーナは顔色こそ変えなかったが耳から白い煙を昇らせて恥ずかしさを現している。
「ごめんなさい。みんなと違ってあそこまで如何わしいメニューが思い付かなかった」
「それは謝ることじゃない」
「しかもこんな小学生のような回答を」
「だから大喜利じゃないんだよ!」
それにしてもエロさ全開のメニューを考えさせて出てきたのがキスの天ぷらって…。
肩透かしを食らったメロディアはすっかりと毒気が抜かれてしまった。これが計算されたものだとしたら相当なもんだ。まあ、ここまで冷静になってしまえばどちらでもいい事だったが。
するとそのタイミングでミリーが厨房から戻ってきた。両手と頭と尻尾を使い、器用に料理が乗った大皿を運んでくる。
「待たせ…え、何これ?」
死屍累々の現場を目の当たりにして呆然としたミリーだったが、すぐに全員が何かしらをやらかしてメロディアの鉄拳制裁を喰らったのだろうと察した。
それと同じ様にメロディアもミリーもポケットにメモ紙を隠し持っている事に気が付き生き馬の目を抜く速さで取った。
「…案の定、あなたもですか」
「あん? あ、それ…」
「言い訳は中身を見てから聞きますよ」
色々と手間に感じていたメロディアは今度は自分で中身を改めた。するとメモにはミリーが旅の中で培った料理のレシピや今しかだ厨房で確認した食材を使っての創作料理の叩き台が記されているばかりだった。
「どうだ? 折角手伝うならこういうメニューが出せれば面白いんじゃないかと思って殴り書きにしてみたんだけど」
「いや、真面目か!」
「何が!?」
まるで意味の分からないミリーの声が店の中に反響した。
その後メロディアは全員が自然に目を覚ますのを待ちながら、ミリーの味付けのセンスと確かな技術に脱帽するような思いで料理を口に運んでいた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる