上 下
130 / 163
堕ちた神盾

10ー6

しおりを挟む
 普段ならツッコミの一つでも入れているところだけど、今はそれどころじゃないので捨て置いた。どうにかドロモカの身を隠す場所を見つけるか、ドロマーたちの帰還を遅らせるかしないとならない。

 手間隙や労力という観点で言えばドロモカの潜伏先を見つけるのが現実的か。幸いにもメロディア達は城下町の食堂を使うので、森の自宅は他の八英女に対しての盲点になり得る。半壊している家に住まわせるのは少々気が引けたが、今から急ピッチで修理をすれば雨風を凌げるくらいの設備は整えられるはず。

 メロディアがその場しのぎのアイデアを口にすると、反応を示したのはシオーナであった。

「そう言うことでしたら私に考えがあります」
「どういうことですか?」
「ドロモカの回収した下半身を私に繋ぎ、完全な状態にする。そうすれば機動力が元に戻るから私が伝令を買って出る」
「なるほど。確か改造されたシオーナ様には飛行能力が付与されていましたか」
「本当ですか? 飛んでいけるならだいぶ早くに合流できますね」
「如何でしょうか?」
「考えている時間がもったいないです。すぐに行動に移しましょう」

 そう言ってドロモカからレッグパーツを受け取ったメロディアは損傷具合や接合の仕組みなどを大急ぎで調べ始めた。

 幸いにも問題なく起動できることを確かめると上半身と下半身を同機させた。先にティパンニで接続を経験していたこともあってか、一回目よりも幾分スマートに繋ぐことができた。

 ようやく完璧な状態で復活できたシオーナは跳んだり跳ねたり、屈伸したり延びをしたりおっぱいを揉んだりして機能性を確認していた。

「問題ない」
「最後の確認、いらねーだろ」
「いや、乳房には多用なシステムと制御装置と夢が詰まっているから」
「大丈夫なようなら、さっさと伝令をお願いします」
「了解」

 シオーナはぐぐっと胸を張ると背中から八本の軸を出す。二本で一対のその軸は組み合わさって青白い光の皮膜を作った。ド派手な演出と共に機械的でSFチックな翼を作った彼女は同じように演出染みて中へ浮かび上がった。案外こういうのが好きなタイプかもしれない。

 そして神々しい様相を保ちながら聞いてきた。

「ほら、男の子ってこういうのが好きなんでしょう?」

 正直、ロボットにはあまり魅力を感じない系男子だったメロディアは返事に困った。しかし機嫌を損ねては元も子もないと思い、大人しく乗っかった。

「ああ、はい。格好いいです。あれですよね? エヴァ○ゲリオン的な?」

 と、安易な気持ちで放った一言が引き金となってまさかの説教が始まった。

「全然違う!」
「そもそもエヴァはロボットではありません!」
「え? でも監督がエヴァはロボットアニメって公言したらしいですよ」
「「は?」」

 20年あまりも封印されていたから知らなかったのかも知れないけれど。

 するとシオーナ元よりドロモカもエヴァや他のロボットアニメについてこんこんと語り始め、しまいには男子足るもの嘘でもいいから見ないといけないと人生までを説かれてしまう。その熱弁ぶりに、悪より抜け出しても母親に火をつけられたオタク心は変えられないんだなと実感していた。

 悪堕ちよりもオタク堕ちの方が業が深いのかも知れない。

 やがて二人の熱が収まった頃、メロディアは伝達をシオーナへ任せてドロモカと二人で森の自宅に向かった。

 するとその道中、しんみりとした声でドロモカが話しかけてきた。顔は相変わらずの無表情ではあったが。

「つい熱が出てしまいました。申し訳ありません」
「いえ。好きな物を語るときはそうなりますから。それに何より堕ちていない八英女とお話ができるなんて夢のようです」
「堕ちていないと言うと語弊がありますが…」
「もし良ければ昔の話を聞かせて貰えませんか?」
「…構いませんが、難しいですね」
「え?」
「私はかつてメロディア様の母君を殺そうとしていましたし、父君であるスコア様には少なくない恋心を抱いておりましたので」
「…」

 お、重い。言われてみれば確かに茶化しでもしなければ語れない内容かも知れない。

 メロディアと八英女の関係はそもそもからして微妙なものだ。

 かつての八英女全員から敵視されていた魔王と八英女全員が恋心を抱かれていた勇者との間に出来た子。複雑な情念を持って然るべき相手であることは否定できない。

 そうなると…悪堕ちしていてくれたからこそ、あの7人とはチグハグながらも一緒に行動ができていたのかも知れない。そう思うとあの別れ際の煽りはやりすぎたかもなぁ。後できちんとお詫びをしないと。

 それからは森の家に着くまでお互いが黙ったままになってしまっていた。

 特に防護措置を施しもしていなかったせいか、雨風に晒されて更に朽ちたような印象を持つ。

「これがスコア様と魔王の愛の巣ですか」

 そう聞こえるか聞こえないかの声でドロモカは呟いた。本人の無表情さが相まってヤンデレのように見えたが、メロディアは敢えて言及はしなかった。

 二人でざっと家の様子を再確認する。地下の備蓄庫は無事であり、一階部分の掃除と半壊した二階以上の部分を撤去、補強をすれば居住スペースとして使えそうだ。元々この備蓄庫はメロディアが幼い頃に、野良試合を申し出てくる冒険者の脅威から避難するために作られた経緯がある。使ってこそいないが、緊急避難所としては十分に機能するだろう。

「では作業を始めましょう」
「はい。承知しました」

 二人はいそいそと掃除や補強作業に着手する。普通なら瓦礫や木材を運び出すだけでも一苦労だが、不幸中の幸いか二人は普通の女子供ではなかった。

 黙々と仕事をするのは二人にとっては幸いだった。ドロモカは元々寡黙に属するタイプであるし、メロディアも一人でいる時間が多いせいでとかく仕事や作業の時にお喋りはしたくないと思ってる。

そもそも二人とも話題に困っていた。

しかし、その甲斐あってか短時間とは思えぬ程に居住スペースを確保する事が叶ったのだ。

「これならしばらくは、どうにかできそうです」
「ただ…本当にすみません。八英女の一人であるドロモカさんをこんなところに」
「構いません。再び悪堕ちしてしまっては元も子もありませんから」
「なら」
「え?」
「なら、せめて美味しい物を用意します! ドロモカさんの好物は何ですか?」
「えっと…」
「何でもいいので仰ってください」
「私は…肉料理が好きです」
「お肉ですね。任してください!」
「え? め、メロディア様?」

 とドロモカが制止するのも空しくメロディアは森の中に消えていった。

料理と食べ物の事になると人が変わることを知らなかったドロモカはただ呆然と背中を見送るしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【修正中】ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜

水先 冬菜
ファンタジー
「こんなハズレ勇者など、即刻摘み出せ!!!」  某大学に通う俺、如月湊(きさらぎみなと)は漫画や小説とかで言う【勇者召喚】とやらで、異世界に召喚されたらしい。  お約束な感じに【勇者様】とか、【魔王を倒して欲しい】だとか、言われたが--------  ステータスを開いた瞬間、この国の王様っぽい奴がいきなり叫び出したかと思えば、いきなり王宮を摘み出され-------------魔物が多く生息する危険な森の中へと捨てられてしまった。  後で分かった事だが、どうやら俺は【生産系のスキル】を持った勇者らしく。  この世界では、最下級で役に立たないスキルらしい。    えっ? でも、このスキルって普通に最強じゃね?  試しに使ってみると、あまりにも規格外過ぎて、目立ってしまい-------------  いつしか、女神やら、王女やらに求婚されるようになっていき…………。 ※前の作品の修正中のものです。 ※下記リンクでも投稿中  アルファで見れない方など、宜しければ、そちらでご覧下さい。 https://ncode.syosetu.com/n1040gl/

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。 女神の話によれば、異世界に転生できるという。 ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。 父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。 その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。 食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。 そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……

処理中です...