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堕ちた神盾
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◇
「大変お見苦しい姿をお見せしました」
しばらくして真に落ち着きを取り戻したドロモカは開口一番そう言った。八英女の中でも特にダウナー系の二人に囲まれて、メロディアは話を再開する。
「それは良いですけど、火傷とかは大丈夫ですか?」
「問題ありません。私も竜族の端くれ。この皮膚は溶岩の熱にも耐えます」
「あっ。そういえば」
と、メロディアは自分の心配が杞憂に終わったことに安堵した。ドロモカはそれとは反対に少し焦りの色を見せつつ、話を切り出す。
「さて、早速ご相談したいことがあるのですが…スコア様にお会いしたいのですが、いずこに?」
「父は…勇者スコアはこの城下町にはいません。旅に出ていまして」
「旅?」
「けれど、探しにいく必要はありませんよ。戻ってくるように手紙を出しましたから」
「左様ですか」
そう言ってもドロモカの焦りはなくならない。「それならば」、「いやしかし」とぶつぶつと呟いては思考整理を行っている様子だ。ひょっとしたら彼女が敬愛して止まないドロマーの名前を出せば何かしらの希望を与えられるかもしれない。
メロディアはそんな意味で彼女の名前を口にした。
「それにドロマーさんも直にこの町に来るはずです」
「ど、どういうことですか!?」
「え!?」
冷静さをなげうって、ドロモカは飛び上がるように立った。メロディアはもう一度彼女を落ち着かせると、自分の状況やこれまでの流れを話した方が吉と判断し、ゆっくりとそれを語り始めたのだった。
ドロモカは何故か陰鬱なオーラをまとい、それでもじっと押し黙って話を聞いている。
「…左様、でしたか。まさか私が一番最後だったとは」
「先程から何か焦っているみたいですけれど、今度はドロモカさんの事を伺ってもいいですか?」
「そう、ですね…私の事情をお話しします。そして可能であればメロディア様にもご助力を賜りたく存じます」
「分かりました。伺った上で協力ができるのであれば尽力します」
「ありがとうございます」
お礼の言葉を述べてはいるが、神妙な雰囲気は拭えていない。むしろより険しいオーラを纏って事の真相を話し出した。
「前提として私はドロマー姉様を始め、八英女全員を悪の道から救い出したい一心で動いております」
「!」
「私たちが長らく封印されていたのは聞き及んでいるかと思いますが、その間に自問自答をし続けました。ドロマー姉様に感化され、私も悪に堕ちた…けれどもスコア様を信じ、姉様に逆らってでも光の道を歩まなければならなかったのではないかと。その為にいち早くスコア様にお目見えして、私たちに宿る魔性を取り除く方法を一緒に探してはくれないかと」
「それにしては随分とのんびりな旅程」
ふとシオーナが茶化すような横やりを入れる。しかしそれはメロディアも感じたことだ。例外のレイディアントを除けば、勇者スコアの息子たる自分を狙っていたドロマー、ミリー、ファリカの三人は迅速にここまでやってきた。ソルカナとラーダは邪教の布教、シオーナは燃料切れによる拉致監禁と遅れてきたのにはそれぞれに理由がある。
その中でドロモカが最後にメロディアと接触することになったのは運の要素を除いても悠長な気がする。何か大きなトラブルでもない限りの話だが。
「ええ、それについては否定できません。こうして正常な状態に戻るまでに予想以上の時間が掛かってしまいました」
「え? どういうことです?」
「魔界を出て、姉様たちと別れてから浄化に時間を費やしてしまったのです」
「と、ということは…今のドロモカさんは悪堕ちの状態から元に戻っているんですか?」
「はい。その通りです」
「確かに。魔力がほとんど感じられない」
…え、こういうパターンもあるの? 全員が見るも無惨な悪堕ち状態で来ると思っていたのに。
つまりは正真正銘の八英女である「神盾のドロモカ」って事だよね。
その事実を突きつけられるとメロディアの中に憧れの人と出会ったという緊張感が溢れてきた。しかし、それもすぐに疑問に塗りつぶされてしまう。
「けど、待ってください。戻れるもんなんですか?」
「不可能とは言わないけれど、かなり困難なはず。それに戻る方法が分かったのならスコア殿を頼らずともいいのでは?」
「私が元に戻れたのは、そもそも悪堕ちした経緯が特殊だからです」
「どういうことです…?」
「私はドロマー姉様を強くお慕いしておりますが、実の姉妹ではありません。しかし互いの生家が古の時代に魔法で縁を結んでおり、私たちの繋がりは血よりも濃い。言葉を交わさずとも心を通わせることができ、もう一人の自分と言っても過言ではないと自負しております。戦いにおいてそれは優位なことでしたが魔王に捕らえられた後はそれを悪用されることに…気がつけば先に魔王によって堕とされた姉様に『同調』して私も魔に身を堕としておりました」
サートウェフト…か。
ムジカリリカに伝わる古い魔法だ…と父さんから聞いたことがある。今、ドロモカが説明した通り精神的に強い繋がりを得ることができるそうだが、精神的な作用を共有するということはそのような落とし穴もあるのか。
「では魔界を出てすぐにドロマーさんと別れたのは」
「はい。断腸の思いで姉様と別れ、この魔性を浄化するためです。姉様と物理的に離れれば離れるほど、同調の力は弱まると分かっておりましたので」
「なるほど」
「毒抜きが済んだ後は、スコア様の現在の居住地を調べて一目散にここに向かいました。道中に少しトラブルに巻き込まれてならず者の集団と交戦することになりましたが、シオーナ様のパーツを見つけましたので。悪用される前に回収し、共にスコア様の所に向かおうと」
「その判断はナイスです!」
「あ、ありがとうございます」
良かった、とメロディアは安堵した。
レッグパーツは無事に回収できたし、最後の八英女とも合流が叶った。もうすぐ一時的に別れた六人がやってくれば、あとは勇者スコアと魔王ソルディダの帰りを待ちつつトラブルを起こさないに目を光らせておけばいい。
…。
自分でそう思っておいて、メロディアは自分の心にしこりがあるのを感じた。何だか今の説明の中にも盲点があるようなそんな気分だった。そしてその懸念の正体に気がつくとメロディアは口に出さずにはいられなかった。
「あれ? 待ってください。ドロマーさんと離れることで正気に戻れたってことは…ドロマーさんと鉢会わせたら」
「はい。再び同調して悪堕ちしていしまいます」
「不味いじゃないですか!」
「ですので急いでいたんです。スコア様といち早くお会いして、みんなを悪道から救い出すために助力を乞おうと」
ど、どうしよう。流石の僕も悪堕ちした人間を救う方法は知らないし、検討もつかない。
ドロモカが悪堕ちから正常な状態を取り戻したメカニズムを解析すれば、その糸口くらいは掴めるかもしれない。けれど時間がない、一朝一夕でどうにかなることじゃないのは火を見るよりも明らかだ。
僕はあの六人が期待を裏切って行方をくらませないかと期待してしまった。だが喧嘩を吹っ掛けるような煽りをしてしまったし、逃げたら逃げたでそれは厄介だから勘弁願いたい。
不味いな。六人とももうすぐ帰ってきちゃう。何とか誤魔化してみるか。
そうしてあたふたしているメロディアを見ていたシオーナが、
「浮気を隠そうとする彼氏みたい」
と呟いた。
「大変お見苦しい姿をお見せしました」
しばらくして真に落ち着きを取り戻したドロモカは開口一番そう言った。八英女の中でも特にダウナー系の二人に囲まれて、メロディアは話を再開する。
「それは良いですけど、火傷とかは大丈夫ですか?」
「問題ありません。私も竜族の端くれ。この皮膚は溶岩の熱にも耐えます」
「あっ。そういえば」
と、メロディアは自分の心配が杞憂に終わったことに安堵した。ドロモカはそれとは反対に少し焦りの色を見せつつ、話を切り出す。
「さて、早速ご相談したいことがあるのですが…スコア様にお会いしたいのですが、いずこに?」
「父は…勇者スコアはこの城下町にはいません。旅に出ていまして」
「旅?」
「けれど、探しにいく必要はありませんよ。戻ってくるように手紙を出しましたから」
「左様ですか」
そう言ってもドロモカの焦りはなくならない。「それならば」、「いやしかし」とぶつぶつと呟いては思考整理を行っている様子だ。ひょっとしたら彼女が敬愛して止まないドロマーの名前を出せば何かしらの希望を与えられるかもしれない。
メロディアはそんな意味で彼女の名前を口にした。
「それにドロマーさんも直にこの町に来るはずです」
「ど、どういうことですか!?」
「え!?」
冷静さをなげうって、ドロモカは飛び上がるように立った。メロディアはもう一度彼女を落ち着かせると、自分の状況やこれまでの流れを話した方が吉と判断し、ゆっくりとそれを語り始めたのだった。
ドロモカは何故か陰鬱なオーラをまとい、それでもじっと押し黙って話を聞いている。
「…左様、でしたか。まさか私が一番最後だったとは」
「先程から何か焦っているみたいですけれど、今度はドロモカさんの事を伺ってもいいですか?」
「そう、ですね…私の事情をお話しします。そして可能であればメロディア様にもご助力を賜りたく存じます」
「分かりました。伺った上で協力ができるのであれば尽力します」
「ありがとうございます」
お礼の言葉を述べてはいるが、神妙な雰囲気は拭えていない。むしろより険しいオーラを纏って事の真相を話し出した。
「前提として私はドロマー姉様を始め、八英女全員を悪の道から救い出したい一心で動いております」
「!」
「私たちが長らく封印されていたのは聞き及んでいるかと思いますが、その間に自問自答をし続けました。ドロマー姉様に感化され、私も悪に堕ちた…けれどもスコア様を信じ、姉様に逆らってでも光の道を歩まなければならなかったのではないかと。その為にいち早くスコア様にお目見えして、私たちに宿る魔性を取り除く方法を一緒に探してはくれないかと」
「それにしては随分とのんびりな旅程」
ふとシオーナが茶化すような横やりを入れる。しかしそれはメロディアも感じたことだ。例外のレイディアントを除けば、勇者スコアの息子たる自分を狙っていたドロマー、ミリー、ファリカの三人は迅速にここまでやってきた。ソルカナとラーダは邪教の布教、シオーナは燃料切れによる拉致監禁と遅れてきたのにはそれぞれに理由がある。
その中でドロモカが最後にメロディアと接触することになったのは運の要素を除いても悠長な気がする。何か大きなトラブルでもない限りの話だが。
「ええ、それについては否定できません。こうして正常な状態に戻るまでに予想以上の時間が掛かってしまいました」
「え? どういうことです?」
「魔界を出て、姉様たちと別れてから浄化に時間を費やしてしまったのです」
「と、ということは…今のドロモカさんは悪堕ちの状態から元に戻っているんですか?」
「はい。その通りです」
「確かに。魔力がほとんど感じられない」
…え、こういうパターンもあるの? 全員が見るも無惨な悪堕ち状態で来ると思っていたのに。
つまりは正真正銘の八英女である「神盾のドロモカ」って事だよね。
その事実を突きつけられるとメロディアの中に憧れの人と出会ったという緊張感が溢れてきた。しかし、それもすぐに疑問に塗りつぶされてしまう。
「けど、待ってください。戻れるもんなんですか?」
「不可能とは言わないけれど、かなり困難なはず。それに戻る方法が分かったのならスコア殿を頼らずともいいのでは?」
「私が元に戻れたのは、そもそも悪堕ちした経緯が特殊だからです」
「どういうことです…?」
「私はドロマー姉様を強くお慕いしておりますが、実の姉妹ではありません。しかし互いの生家が古の時代に魔法で縁を結んでおり、私たちの繋がりは血よりも濃い。言葉を交わさずとも心を通わせることができ、もう一人の自分と言っても過言ではないと自負しております。戦いにおいてそれは優位なことでしたが魔王に捕らえられた後はそれを悪用されることに…気がつけば先に魔王によって堕とされた姉様に『同調』して私も魔に身を堕としておりました」
サートウェフト…か。
ムジカリリカに伝わる古い魔法だ…と父さんから聞いたことがある。今、ドロモカが説明した通り精神的に強い繋がりを得ることができるそうだが、精神的な作用を共有するということはそのような落とし穴もあるのか。
「では魔界を出てすぐにドロマーさんと別れたのは」
「はい。断腸の思いで姉様と別れ、この魔性を浄化するためです。姉様と物理的に離れれば離れるほど、同調の力は弱まると分かっておりましたので」
「なるほど」
「毒抜きが済んだ後は、スコア様の現在の居住地を調べて一目散にここに向かいました。道中に少しトラブルに巻き込まれてならず者の集団と交戦することになりましたが、シオーナ様のパーツを見つけましたので。悪用される前に回収し、共にスコア様の所に向かおうと」
「その判断はナイスです!」
「あ、ありがとうございます」
良かった、とメロディアは安堵した。
レッグパーツは無事に回収できたし、最後の八英女とも合流が叶った。もうすぐ一時的に別れた六人がやってくれば、あとは勇者スコアと魔王ソルディダの帰りを待ちつつトラブルを起こさないに目を光らせておけばいい。
…。
自分でそう思っておいて、メロディアは自分の心にしこりがあるのを感じた。何だか今の説明の中にも盲点があるようなそんな気分だった。そしてその懸念の正体に気がつくとメロディアは口に出さずにはいられなかった。
「あれ? 待ってください。ドロマーさんと離れることで正気に戻れたってことは…ドロマーさんと鉢会わせたら」
「はい。再び同調して悪堕ちしていしまいます」
「不味いじゃないですか!」
「ですので急いでいたんです。スコア様といち早くお会いして、みんなを悪道から救い出すために助力を乞おうと」
ど、どうしよう。流石の僕も悪堕ちした人間を救う方法は知らないし、検討もつかない。
ドロモカが悪堕ちから正常な状態を取り戻したメカニズムを解析すれば、その糸口くらいは掴めるかもしれない。けれど時間がない、一朝一夕でどうにかなることじゃないのは火を見るよりも明らかだ。
僕はあの六人が期待を裏切って行方をくらませないかと期待してしまった。だが喧嘩を吹っ掛けるような煽りをしてしまったし、逃げたら逃げたでそれは厄介だから勘弁願いたい。
不味いな。六人とももうすぐ帰ってきちゃう。何とか誤魔化してみるか。
そうしてあたふたしているメロディアを見ていたシオーナが、
「浮気を隠そうとする彼氏みたい」
と呟いた。
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