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妖怪屋敷のご令嬢がパーティの準備をします
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しおりを挟む実際のゲームは中々…というかかなり楽しいものだった。質問で誰かの本性を暴くのもさることながら、ボールを自分の陣地に運ぶというゲームの内容そのものも面白かった。ゲームごとにフィールドに出る人数や顔触れが変わるので、その都度戦略や相手の得手不得手を分析しなければならないし、何のひねりもないパスでは悪魔や魔術師の目を掻い潜るのは難しいから、こちらも妨害をすべく頭をひねらなければならない。単純さの中に奥深さがあって、柄にもなく盛り上がってしまった。
時計を見れば一時間もたっていないくらいのものだったが、もう次の寮生達が下見のために体育館へやってきている。明日の事を思えばこちらの手の内はさらしたくはないのが本音だ。私は息を整えて『嫉妬の寮生』の先頭に立っていたフィフスドルに簡素な挨拶をした。
「こんばんは、フィフスドル」
挨拶をされたフィフスドルは相変わらず女を殺すような笑顔を見せる。
「ええ、こんばんは。早速聞こえてきましたよ。使い魔たちの非礼をお叱りになったそうで」
「まあ、そんなこともありましたね」
「今はウェウカム・パーティの準備ですか?」
「はい。パーティで行われるSteal the Baconというゲームについて無知だったもので」
「生まれ育った国が違うのですから当然ですよ。尤もその様子を見ますと、Steal the Baconは気に入ったようですね」
そう言われて私は自分の顔や体にへばりついている汗に気が付いた。まかりなりにも球技の試合をしたようなものだから体温が上がるのは仕方ないにしても、フィフスドルの前に出ていいような恰好とはお世辞にも言えなかった。
気が付いた私は体を縮ませて、なるべく汗のにおいが拡散しないようにすると挨拶もほどほどにそそくさとその場を後にしたのだった。
「それでは明日のパーティで」
◇
校舎案内が最後に『嫉妬の寮』へ体育館を譲った私達は寮に戻って自由にすることを許された。私は柄にもなくはしゃいでしまったことを後悔しつつも、まずはシャワーで汗を流して一旦全てをリセットすることにした。
その後、リリィを踏まえて先ほどのゲームの反芻と検討を始めた。
ルールをおさらいし、想定される質問をリストアップし、先ほど見た寮生たちの動きや特徴をまとめると、どの組み合わせが出てもある程度は戦えるような戦略を立てる。
リリィは若干引き気味で、
「そこまでしますか…?」
と言ってきた。
答えは「当然」だ。
どんな勝負であれ私は負けるのは嫌だ。より正確に言えば、私は人よりも下にいたくない。見下されたり、蔑まれたり、侮られたりするのは耐えられない…そういえば、あれだけ恥をかかされたダンケットに制裁を加えるのをすっかり忘れていた。後で集会所にでも呼び出してぶっ殺してやる。
などと余計な事を考えつつも思案を重ねていた。最初は付き合ってくれていたリリィも次第にお茶入れやお菓子の差し入れのようなアシストへと変わっていった。
やがてメモ紙がコップの高さになるまでの考慮と時間を経た頃に、リリィが朝食の時間になった事を教えてくれた。
「アヤコ様、そろそろ朝食に参りませんか?」
「そうね」
一日の終わりに朝食は不思議な気分になる…とも思ったが実家にいた頃は長期休暇の折には妖怪たちのライフスタイルに無理やり合わせられたから、似たような生活を送っていたことを思い出す。
例によって食堂へ辿り着くと、『七つの大罪』用の部屋へと入る。ところが今日に限っては私達の外にはまだ誰も到着していないかった。
「一番乗りみたいですね」
「みたいね」
「先に召し上がります?」
「折角だから誰か来るのを待とうかな」
「わかりました」
どうせなら食事をしつつ、他の『七つの大罪』の顔触れとのコミュニケーションを図りたい。現段階では私が唯一対等に近い立場で付き合える人たちだから。家系争いのための仲間の専らの筆頭候補でもある彼らとは、幸いにも食事の時間を共にできるようだし、それを利用しない手はないだろう。
リリィに入れてもらったお茶を二、三口飲みながら誰かしらが来るのを待っている。すると私にとっても、リリィにとっても一番意外な人物が現れた。
「ごきげんよう」
「フ、フィフスドル…?」
「アヤコさん。先ほどはどうも」
「ええ。こちらこそ」
「食事をご一緒しても?」
「も、もちろんです」
お礼の一言を述べ、フィフスドルは部屋の中に入ってきた。が、すぐに疑問が頭の中を駆け巡った。
吸血鬼は自らの部族の高潔さを誇示するのために、吸血鬼専用の宿舎で寝食を賄うんじゃなかったのか? とは言え、リリィも驚いているから悪魔から見ても異例の出来事であるのは間違いない。それに私にとっては好機でしかない。フィフスドルに取り入って損をすることなどはないのだから。
「そちらの方とはご挨拶をさせて頂いていませんね」
「ええ。私の従者でリリィです」
「お初お目にかかります。リリィです」
「よろしく。フィフスドル・アンチェントパプルです」
吸血鬼特有の牙をのぞかせ、爽やかに笑ってかえす。見れば見るほど蠱惑的だ。
「失礼ですが、お付きの者はいないのですか?」
「ええ。訳あって置いてきました」
「では僭越ながら私がご用意をさせて頂きます」
「それは嬉しい。お願いします」
「はい。かしこまりました」
ナイス、リリィ!
と、私は一時、心の中でリリィを褒めちぎった。おかげでフィフスドルと会話を繋げるいいきっかけが作れた。部屋に帰ったら何かご褒美でもあげないと。
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