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妖怪屋敷のご令嬢がクラスメイトに出会います
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「大人しく待っていろ、と言ったはずだ」
開口一番、そんな叱責が飛んできたが無意味だ。私達の関心は、先生の隣にいる老年の女性に持っていかれていたから。それほどまでに静かな佇まいの内側に嵐のような荒々しさがあるような気がした。
「…誰ですか?」
「コォムヴァッチ・ティム=ピンガー様。この学園の現校長を務められている偉大なる魔女だ」
老女はつかつかと歩み出てきた。スオキニ先生よりも頭一つ分身長が低いのに、この部屋の中にいる誰よりも大きく見える。彼女の見えない圧力にオラツォリスなどは後ずさってしまっていた。
「初めまして。それと入学おめでとうございます。本当は入学のオリエンテーションで言うつもりでしたが、少しフライングしてしまいましたね」
ニコリ、と笑ってそんな事を言う。
見た目だけなら上品で可愛らしいお婆ちゃんという印象なのだが、その裏にそこはかとなく影が見えるのは、やはりこの人が魔女だからだろう。なんとなくコルドロン先生と似ている。
「それで、魔法が使えずに合格した生徒というのはどなた?」
「あ、俺です」
「本当に魔法が使えないのですか?」
「はい。まったく」
「威張るな」
心に思っていただけのつもりが、つい言葉になってしまった。結果としてツッコミみたいになってしまったのが、ムカついた。
「校長、如何なさいますか?」
「別に。何もしませんよ」
「しかし、魔法を使えぬ者がこの学園に入学するなど前例がありません」
スオキニ先生はコムバッチ校長に強く訴えた。
いいぞ、頑張ってくれスオキニ先生。この調子でいけば合格取り消しで強制退去を言い渡してくれるかもしれない。というか、スオキニ先生の主張は尤もだ。魔法を使えない奴が魔法学校に入学できる通りがない。
てっきりそんな文言で波路を追い出してくれるかと思った。が、現実は非情だ。
コムバッチ校長は首を横に振った。
「前例は確かにありませんが、本校の入学条件は、『入学の意思があり、生きているままにこちらが指定した試験に合格する』ことです。創設以来、魔法が使えることを条件には定めていません。よって入学するに当たっては全く問題は有りません」
「…はあ。なるほど」
なるほど、じゃないだろ。もっと強く押せよ。
なんてことを思っていたら、えぐいくらいのカウンターが飛んできてしまった。
「問題はブローチの発動権を他人に譲渡してしまった点ですねえ」
「う」
そうだった…。
私もルール違反を犯していたのを忘れてた。むしろ深刻さで言えば、こっちの方がマズいかも…試験の順序を故意に変えてしまったのだから。
むしろ私の合格を取り消される可能性の方が高い…?
何とか頭を回転させて都合のよい言い訳を考えていると当然のように波路が場を引っ掻き回す。
「なら俺と亜夜子さんの順位を交換するってのはどうですか?」
「アンタ少し黙っててくれない」
「そうしましょうか」
「え?」
私とスオキニ先生は同じ声を出して校長を見る。「それが一番手っ取り早く解決するでしょうし」と、あっけらかんと言うと、もう全てが解決したような雰囲気を醸し出してきた。
「そ、そんな事が許されるのですか、校長」
「やってしまったことはもう仕方ありませんよ。アヤコ・サンモトを主席にして…しかしただの変更では示しがつかないのでカツトシ・ナミチは【七つの大罪】から降格し、入学試験の成績は最下位とし今回八位だった生徒を繰り上げましょう。アヤコ・サンモト以下の生徒も一つずつ順位を上げます」
誰も彼もが声を失い、何と言葉を発すればいいのか探っていた。そんな中、パチパチと拍手をしながら校長を賛美し始めたのは、やはりこのバカだった。
「見事なご判断です、校長先生」
「ふふ。ありがとうございます」
「亜夜子さん、やりました。亜夜子さんが一位です。主従はやっぱりこうでないとダメですよね」
波路は自然な流れで私の肩を抱いた。そこまでされて私はギリギリ本来の調子を取り戻す。混乱の最中にあって、普段と同じようなやりとりは平穏を届けてくれると知った。
「私はアンタの主でも何でもない。つーか、離れろ。何かそろそろ皆に誤解されるでしょ」
と、波路を小突いてからは、本当にいつもの通りだった。私は罵詈雑言を浴びせかけ、それを全く意に介さずに素っ頓狂な返事を返してくる。こんなやりとりは日本にいる間に死ぬほどやってきた。
誤解されると言っておきながら、私自身が波路の術中にかかり、馴れ馴れしい口調で言い合いをしていることに気が付いていなかった。これではますます誤解されるというのに…。
色々な事が同時多発的に起きたせいで、事態を未だに飲み込めずにいた他の【七つの大罪】の五人は固まって私達のやり取りを見ているだけだ。
そんな中で一人だけ…コムバッチ校長だけがゆっくりと杖を振り上げていた。ただ唯一、校長の後ろにいたスオキニ先生だけがその不審な動きに気が付いている。
「校長?」
まるでその呼び掛けをトリガーにしたかのように、コムバッチ校長は杖を床に叩き付けた。私達はカンッという杖が床にぶつかる音に辛うじて反応をしたのだが、それと同時に放たれた氷の矢の魔法には一切反応することができていない。
それは波路を横から狙い撃っているようだった。
開口一番、そんな叱責が飛んできたが無意味だ。私達の関心は、先生の隣にいる老年の女性に持っていかれていたから。それほどまでに静かな佇まいの内側に嵐のような荒々しさがあるような気がした。
「…誰ですか?」
「コォムヴァッチ・ティム=ピンガー様。この学園の現校長を務められている偉大なる魔女だ」
老女はつかつかと歩み出てきた。スオキニ先生よりも頭一つ分身長が低いのに、この部屋の中にいる誰よりも大きく見える。彼女の見えない圧力にオラツォリスなどは後ずさってしまっていた。
「初めまして。それと入学おめでとうございます。本当は入学のオリエンテーションで言うつもりでしたが、少しフライングしてしまいましたね」
ニコリ、と笑ってそんな事を言う。
見た目だけなら上品で可愛らしいお婆ちゃんという印象なのだが、その裏にそこはかとなく影が見えるのは、やはりこの人が魔女だからだろう。なんとなくコルドロン先生と似ている。
「それで、魔法が使えずに合格した生徒というのはどなた?」
「あ、俺です」
「本当に魔法が使えないのですか?」
「はい。まったく」
「威張るな」
心に思っていただけのつもりが、つい言葉になってしまった。結果としてツッコミみたいになってしまったのが、ムカついた。
「校長、如何なさいますか?」
「別に。何もしませんよ」
「しかし、魔法を使えぬ者がこの学園に入学するなど前例がありません」
スオキニ先生はコムバッチ校長に強く訴えた。
いいぞ、頑張ってくれスオキニ先生。この調子でいけば合格取り消しで強制退去を言い渡してくれるかもしれない。というか、スオキニ先生の主張は尤もだ。魔法を使えない奴が魔法学校に入学できる通りがない。
てっきりそんな文言で波路を追い出してくれるかと思った。が、現実は非情だ。
コムバッチ校長は首を横に振った。
「前例は確かにありませんが、本校の入学条件は、『入学の意思があり、生きているままにこちらが指定した試験に合格する』ことです。創設以来、魔法が使えることを条件には定めていません。よって入学するに当たっては全く問題は有りません」
「…はあ。なるほど」
なるほど、じゃないだろ。もっと強く押せよ。
なんてことを思っていたら、えぐいくらいのカウンターが飛んできてしまった。
「問題はブローチの発動権を他人に譲渡してしまった点ですねえ」
「う」
そうだった…。
私もルール違反を犯していたのを忘れてた。むしろ深刻さで言えば、こっちの方がマズいかも…試験の順序を故意に変えてしまったのだから。
むしろ私の合格を取り消される可能性の方が高い…?
何とか頭を回転させて都合のよい言い訳を考えていると当然のように波路が場を引っ掻き回す。
「なら俺と亜夜子さんの順位を交換するってのはどうですか?」
「アンタ少し黙っててくれない」
「そうしましょうか」
「え?」
私とスオキニ先生は同じ声を出して校長を見る。「それが一番手っ取り早く解決するでしょうし」と、あっけらかんと言うと、もう全てが解決したような雰囲気を醸し出してきた。
「そ、そんな事が許されるのですか、校長」
「やってしまったことはもう仕方ありませんよ。アヤコ・サンモトを主席にして…しかしただの変更では示しがつかないのでカツトシ・ナミチは【七つの大罪】から降格し、入学試験の成績は最下位とし今回八位だった生徒を繰り上げましょう。アヤコ・サンモト以下の生徒も一つずつ順位を上げます」
誰も彼もが声を失い、何と言葉を発すればいいのか探っていた。そんな中、パチパチと拍手をしながら校長を賛美し始めたのは、やはりこのバカだった。
「見事なご判断です、校長先生」
「ふふ。ありがとうございます」
「亜夜子さん、やりました。亜夜子さんが一位です。主従はやっぱりこうでないとダメですよね」
波路は自然な流れで私の肩を抱いた。そこまでされて私はギリギリ本来の調子を取り戻す。混乱の最中にあって、普段と同じようなやりとりは平穏を届けてくれると知った。
「私はアンタの主でも何でもない。つーか、離れろ。何かそろそろ皆に誤解されるでしょ」
と、波路を小突いてからは、本当にいつもの通りだった。私は罵詈雑言を浴びせかけ、それを全く意に介さずに素っ頓狂な返事を返してくる。こんなやりとりは日本にいる間に死ぬほどやってきた。
誤解されると言っておきながら、私自身が波路の術中にかかり、馴れ馴れしい口調で言い合いをしていることに気が付いていなかった。これではますます誤解されるというのに…。
色々な事が同時多発的に起きたせいで、事態を未だに飲み込めずにいた他の【七つの大罪】の五人は固まって私達のやり取りを見ているだけだ。
そんな中で一人だけ…コムバッチ校長だけがゆっくりと杖を振り上げていた。ただ唯一、校長の後ろにいたスオキニ先生だけがその不審な動きに気が付いている。
「校長?」
まるでその呼び掛けをトリガーにしたかのように、コムバッチ校長は杖を床に叩き付けた。私達はカンッという杖が床にぶつかる音に辛うじて反応をしたのだが、それと同時に放たれた氷の矢の魔法には一切反応することができていない。
それは波路を横から狙い撃っているようだった。
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