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攻略は順調に進んでいく。
さっきは変な空気になりつつも、神聖魔法をかける時には普通に体に触れていた。直接手を当てた方が効き目が強いのだ。
「アリス、今のレベルは?」
「36よ。上がるスピードも緩やかになってきたみたい」
「そろそろ次の階に移るか」
地下七十五階まで来たところで、一行は早く先を進む事を決めた。とりあえず今日はこの辺りで終わりにしたが。
「ねぇっ、この部屋奥に宝箱があるよ!」
「ほっとけ、どうせミミックだろ」
【生き物は感知できませんでした】
「アタシもコウモリに調べさせたけど、周囲に罠も仕掛けられてないみたい」
この三人がいれば、宝箱トラップも難なくクリアできるわね。念のため、ショコラが眠りの魔法をかけ、タルトが宝箱周りを叩いてパイが鍵を開けた。中は銀細工が施された小箱。
【鑑定したところ、オルゴールのようです】
「なんでそんなもんがダンジョンに……」
「ちょっと貸してくれる?」
小箱を借りてゼンマイを回し、蓋を開けるとメロディーが流れ出してくる。紛う事なきオルゴールだ。ただ、何故か金貨がぎちぎちに嵌め込まれているので、ぶつかって音が悪い。何とはなしに抜き取ってみると――
【マスター、鑑定結果が変わりました。オルゴールの罠が発動します】
「アリス、箱を捨てろっ!」
「え? きゃあっ」
いきなりジャックに飛びつかれ、箱から手を放した私は地面に転がった。一瞬、箱が光った気がする。
「くそっ、やられた! 鑑定に出なかったのは、仕掛けが作動しない状態になっていたからか。トリガーは金貨だな」
「あの、ジャック……」
忌々しそうに舌打ちしたジャックが、声をかけたタイミングでこちらを向いたので、お互いの顔がもう少しで触れ合いそうになった。体勢としては、罠から庇おうとしたジャックに押し倒されている。
「わっ、ごめ……痛ぅ」
「ジャック! 足に……」
焦って飛び退こうとして、蹲るジャック。太腿が僅かに切り裂かれ、血が滲んでいる。さっきの光は針が発射されていたのか。
パイにナイフを借りて傷口に突き刺そうとするので、慌てて止めた。
「何してるの、ジャック!?」
「毒が仕込まれてた。俺ら解毒魔法は使えないから、こういう時は傷ごと抉り取って回復魔法かけるんだ」
聞いているだけで痛い。と言うか、毒消しのポーションは? マジックポーションを飲む時のうんざりした様子を思い出すと、たぶんジャックは飲み薬が苦手な類なんだろうか……不味いので分からないでもない。
「『解毒』なら私がやるから! ショコラ、吸い出そうとしない! 間違って飲み込んじゃうから」
私はナイフで傷口の周りだけ切り裂くと、紫色になっている傷口に触れた。上から耐えるような呻き声が聞こえ、『解毒』で治療する。最悪の事態は避けられたが、まだ少し毒が残ってしまっているようだ。
「恐らく致死性の高い毒だったんだろうな。一度にとはいかなかったが、まあ助かったよ」
「私のレベルじゃまだ完全ではなかったのね……」
「ごめんなさい、ボクが宝箱開けようなんて言い出したから」
シュンとしたいところだが、私以上にタルトが落ち込んでいた。彼女を慰めるため、自分の事は一旦棚上げして頭を撫でてあげる。
「オルゴールを借りたのも、金貨を抜いたのも私よ。そうでなければ何も問題はなかったはず。タルトのせいじゃないわ」
こんな時に何だが、ローリー様に付き合わされた冒険を思い出してちょっとだけ感慨深くなる。ジャックがもう少しで死ぬところだったのにある程度冷静でいられたのは、慣らされていた部分もあったからなんだろう。……いいんだか悪いんだか。
さっきは変な空気になりつつも、神聖魔法をかける時には普通に体に触れていた。直接手を当てた方が効き目が強いのだ。
「アリス、今のレベルは?」
「36よ。上がるスピードも緩やかになってきたみたい」
「そろそろ次の階に移るか」
地下七十五階まで来たところで、一行は早く先を進む事を決めた。とりあえず今日はこの辺りで終わりにしたが。
「ねぇっ、この部屋奥に宝箱があるよ!」
「ほっとけ、どうせミミックだろ」
【生き物は感知できませんでした】
「アタシもコウモリに調べさせたけど、周囲に罠も仕掛けられてないみたい」
この三人がいれば、宝箱トラップも難なくクリアできるわね。念のため、ショコラが眠りの魔法をかけ、タルトが宝箱周りを叩いてパイが鍵を開けた。中は銀細工が施された小箱。
【鑑定したところ、オルゴールのようです】
「なんでそんなもんがダンジョンに……」
「ちょっと貸してくれる?」
小箱を借りてゼンマイを回し、蓋を開けるとメロディーが流れ出してくる。紛う事なきオルゴールだ。ただ、何故か金貨がぎちぎちに嵌め込まれているので、ぶつかって音が悪い。何とはなしに抜き取ってみると――
【マスター、鑑定結果が変わりました。オルゴールの罠が発動します】
「アリス、箱を捨てろっ!」
「え? きゃあっ」
いきなりジャックに飛びつかれ、箱から手を放した私は地面に転がった。一瞬、箱が光った気がする。
「くそっ、やられた! 鑑定に出なかったのは、仕掛けが作動しない状態になっていたからか。トリガーは金貨だな」
「あの、ジャック……」
忌々しそうに舌打ちしたジャックが、声をかけたタイミングでこちらを向いたので、お互いの顔がもう少しで触れ合いそうになった。体勢としては、罠から庇おうとしたジャックに押し倒されている。
「わっ、ごめ……痛ぅ」
「ジャック! 足に……」
焦って飛び退こうとして、蹲るジャック。太腿が僅かに切り裂かれ、血が滲んでいる。さっきの光は針が発射されていたのか。
パイにナイフを借りて傷口に突き刺そうとするので、慌てて止めた。
「何してるの、ジャック!?」
「毒が仕込まれてた。俺ら解毒魔法は使えないから、こういう時は傷ごと抉り取って回復魔法かけるんだ」
聞いているだけで痛い。と言うか、毒消しのポーションは? マジックポーションを飲む時のうんざりした様子を思い出すと、たぶんジャックは飲み薬が苦手な類なんだろうか……不味いので分からないでもない。
「『解毒』なら私がやるから! ショコラ、吸い出そうとしない! 間違って飲み込んじゃうから」
私はナイフで傷口の周りだけ切り裂くと、紫色になっている傷口に触れた。上から耐えるような呻き声が聞こえ、『解毒』で治療する。最悪の事態は避けられたが、まだ少し毒が残ってしまっているようだ。
「恐らく致死性の高い毒だったんだろうな。一度にとはいかなかったが、まあ助かったよ」
「私のレベルじゃまだ完全ではなかったのね……」
「ごめんなさい、ボクが宝箱開けようなんて言い出したから」
シュンとしたいところだが、私以上にタルトが落ち込んでいた。彼女を慰めるため、自分の事は一旦棚上げして頭を撫でてあげる。
「オルゴールを借りたのも、金貨を抜いたのも私よ。そうでなければ何も問題はなかったはず。タルトのせいじゃないわ」
こんな時に何だが、ローリー様に付き合わされた冒険を思い出してちょっとだけ感慨深くなる。ジャックがもう少しで死ぬところだったのにある程度冷静でいられたのは、慣らされていた部分もあったからなんだろう。……いいんだか悪いんだか。
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