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女子トーク

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 風呂場は男女別にしたにも関わらず、随分広くなっていた。バスチェアや洗面器を動かすだけでもカポーンという音が響くので、タルトが面白がってガンガン叩いていた。

「静かにして! ゆっくり浸かれないじゃない」
「あはは、アリスの声だって反響してるよっ!」
「歌の練習にはちょうどいいかもねぇ~。ら~らららぁ~♪」

(うるさい……)

 あまりにも騒がしいので、外との境界になっていた扉を開ける。さっきはジャックが見せてくれたのを覗いただけだったけど、ひんやりとした空気と満天の星空の下というシチュエーションが開放感をもたらしてくれる。本当にこの光景は偽物なんだろうか。

「毎日こんな絶景が見られるなんてすごいわね」
「でしょ? しかもあったまりながら泳げるんだから最高だよねっ!」

 ついてきたタルトがバシャバシャ泳ぎ出したので、避難した意味はなくなった。まあ声が反響しなくなっただけマシだけど。そこへショコラがむぎゅっと体を押し付けてくる。

「ひゃっ!」
「せっかく女同士の裸の付き合いなんだからぁ、コイバナでもしましょうよぉ~」

 男であれば即落ちするほど豊満な肢体で挑発的に絡むショコラだが、生憎イラッとするだけだ。入浴時限定でスタイルが変わるなんて、どれだけ着痩せしてるのか。

「コイバナと言っても昔から友達がモテ過ぎて、私自身は無縁だったわよ。今回の結婚だって王家からのお達しで……」
「気になってたんだけど、アリスちゃんて貴族?」

 何となく身の上を明かす事は避けていたけれど、庶民なら王家が結婚に介入するなんてあり得ない。ふう、と溜息を吐いて認める事にした。

「まあね。政略結婚だから愛がないのは分かり切ってた事よ」

 だからって顔を一度も合わせないのはどうかと思う。事情は大体察してはきてるんだけど、コイバナである以上は愚痴を言わせてもらう。

「アリスちゃんの言い方だと決まったのはつい最近っぽいのよねぇ。貴族は子供の頃に婚約者ができるんじゃないの?」
「いたわ。婚約破棄されたけど」

 隠しているつもりでも、些細な情報からどんどんバレていってしまう。仲間になったんだし、もういっそ打ち明けてしまおうか……でも今の私はただの『アリス』、そこは一線を引いておきたい。

「こぉんなに可愛いのに、その婚約者は何が不満だったのかしらぁ」
「……やめて、ほっぺつんつんしないで」

 私の事情は、他人に説明しても意味が分からないと思う。断罪によって修道院送りにされた事は妥当だけど、何事もなかったとしても遅かれ早かれ破局は目に見えていた。彼らにとって私は、その辺の石ころを蹴っ飛ばしたくらいの、その程度の存在なのだから。

「もう終わった事なので、気にしてないわ」
「それじゃ、放置されてダンジョンに突撃するほど怒ってるのは、まだ始まってもいないから?」

 嫌なとこ突いてくるな……とにかく何でもいいから事態を動かしたいと思ったし、怒ったのも事実だ。だけど改めて己の心に向き合ってみると、決してそれだけじゃない。

「『好きにしろ』なんて言われたの、初めてだから……甘えてみたくなったのかも」

 今まで誰にも聞いてもらえなくて、溜まりに溜まった不満や鬱屈を、旦那様となる人に理不尽にもぶつけて、受け止めてもらいたかった。何を置いてでも。

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