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新・亜空間屋敷②
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浴室の次に向かったのは、食堂だった。要望通り、キッチンと繋げてある。以前はそれほど広くはなかったので作られた料理も寝室に運ばれていたのだけれど、やっぱり衛生的に食べ物は同じ室内で扱ってほしい。
「ここの裏口から畑に出られるようになっている。あと冷凍室だな。マジックバッグ持ってないから、実質ここが品質保持が必要なアイテムの保管庫になる」
「ジャックが持ってなかったのは意外ね」
ジョーカーは手袋型だった、収納用の魔道具。でも家自体を持ち運べるのであれば、確かに鞄は不要だわ。どれくらいアイテムを収納するかにもよるけど。
「あとは倉庫と、予備の客室と……」
「それより御主人、ボクたちの部屋は!?」
一階全体はこんなところだと言うジャックに、タルトは堪え切れなくなって飛びつこうとする。彼を抱き抱えていたショコラに軽くいなされてしまったが。
「焦るなって。ちゃんと二階に作ってあるから」
「やった! 早く行こー」
真新しい階段をドタドタと二段飛ばしで駆け上がる彼女に苦笑しながら、上の階を目指す。そして【タルト】と書かれたドアを開けるとそこは――外だった。
「は? どういう事これ」
「ここはタルトの故郷にある森と同じ気候を模してある。こいつにとって最も過ごしやすい場所にするためにな」
「いやいや、だからって女の子を外で寝かせる気!?」
「ボクなら今までこういう木の洞を住処にしてたから平気だよっ! 旅に出てから他人の土地に穴を掘れなくなって不便だったし」
魔狼の彼女にとってはそれが自然な事だろうけど、お風呂で綺麗にしても部屋に戻ったら汚れちゃうのがなぁ……
「それも考慮して、こんなのも作ってみた」
「わーい、素敵なお家!」
「って、それ犬小屋!!」
部屋の中に犬小屋ってどうなの……タルトはそれでいいの? いいのか……
小屋に敷かれていたタオルを噛み出したタルトを放っておいて、一行は隣の部屋へ移動した。
「ここはアタシの部屋ね♪ 根城にしてた古城を思い出すわぁ」
「何だか不気味ね……」
室内はひんやりとしていて石レンガにはヒビと苔が目立ち、天井の照明やカーテンレールにはコウモリがびっしりぶら下がっている。真ん中には天蓋付きのベッドもあるが、ピンクの光を発するランプや怪しげなお香がベッド脇に備え付けられていて怪しさ満点だ。窓の外では雷が鳴っているけど……亜空間内だしただの演出だろう。
「こんなところで眠れるの? と言うかベッドじゃなくても寝れたわよね?」
「そうねぇ、どっちかと言うとお客様を招いた時用かしら、これは。むふふ♪」
招いてベッドでどうするのかは敢えて聞かない。「御主人様やアリスちゃんならいつでも大歓迎よ」というお誘いを無視して、次はパイの部屋へ向かう。
ショコラがピンクなら、パイの部屋は青白い。就寝用に使っていた珍妙な棺桶の他、見た事もない光の箱や実験道具、魔道具が机に置かれていた。
「研究所のように見えるけど……」
「そうだな、πを見つけたのもこんな感じの場所だった。ミシンとかは後から追加したが」
「ミシン?」
「服を縫うための魔道具だ。アリスの装備一式もこれで作ったんだよな」
修道院にいた頃も手縫いしか知らなかったけど、世界は既にミシンが導入され、服飾系企業や商人の間では重宝されているのだとか。そんな便利なものが……何故かローリー様はこれに関しては何もしていなかったのが不思議だが、あの人料理は得意なのに刺繍はからっきしだから避けていたのかもしれない。
「さ、次はいよいよアリスちゃんの部屋ね!」
「楽しみー!」
いつの間にか追いついていたショコラとタルトも合流し、私たちは二階の一番端の部屋まで足を運んだ。
「ここの裏口から畑に出られるようになっている。あと冷凍室だな。マジックバッグ持ってないから、実質ここが品質保持が必要なアイテムの保管庫になる」
「ジャックが持ってなかったのは意外ね」
ジョーカーは手袋型だった、収納用の魔道具。でも家自体を持ち運べるのであれば、確かに鞄は不要だわ。どれくらいアイテムを収納するかにもよるけど。
「あとは倉庫と、予備の客室と……」
「それより御主人、ボクたちの部屋は!?」
一階全体はこんなところだと言うジャックに、タルトは堪え切れなくなって飛びつこうとする。彼を抱き抱えていたショコラに軽くいなされてしまったが。
「焦るなって。ちゃんと二階に作ってあるから」
「やった! 早く行こー」
真新しい階段をドタドタと二段飛ばしで駆け上がる彼女に苦笑しながら、上の階を目指す。そして【タルト】と書かれたドアを開けるとそこは――外だった。
「は? どういう事これ」
「ここはタルトの故郷にある森と同じ気候を模してある。こいつにとって最も過ごしやすい場所にするためにな」
「いやいや、だからって女の子を外で寝かせる気!?」
「ボクなら今までこういう木の洞を住処にしてたから平気だよっ! 旅に出てから他人の土地に穴を掘れなくなって不便だったし」
魔狼の彼女にとってはそれが自然な事だろうけど、お風呂で綺麗にしても部屋に戻ったら汚れちゃうのがなぁ……
「それも考慮して、こんなのも作ってみた」
「わーい、素敵なお家!」
「って、それ犬小屋!!」
部屋の中に犬小屋ってどうなの……タルトはそれでいいの? いいのか……
小屋に敷かれていたタオルを噛み出したタルトを放っておいて、一行は隣の部屋へ移動した。
「ここはアタシの部屋ね♪ 根城にしてた古城を思い出すわぁ」
「何だか不気味ね……」
室内はひんやりとしていて石レンガにはヒビと苔が目立ち、天井の照明やカーテンレールにはコウモリがびっしりぶら下がっている。真ん中には天蓋付きのベッドもあるが、ピンクの光を発するランプや怪しげなお香がベッド脇に備え付けられていて怪しさ満点だ。窓の外では雷が鳴っているけど……亜空間内だしただの演出だろう。
「こんなところで眠れるの? と言うかベッドじゃなくても寝れたわよね?」
「そうねぇ、どっちかと言うとお客様を招いた時用かしら、これは。むふふ♪」
招いてベッドでどうするのかは敢えて聞かない。「御主人様やアリスちゃんならいつでも大歓迎よ」というお誘いを無視して、次はパイの部屋へ向かう。
ショコラがピンクなら、パイの部屋は青白い。就寝用に使っていた珍妙な棺桶の他、見た事もない光の箱や実験道具、魔道具が机に置かれていた。
「研究所のように見えるけど……」
「そうだな、πを見つけたのもこんな感じの場所だった。ミシンとかは後から追加したが」
「ミシン?」
「服を縫うための魔道具だ。アリスの装備一式もこれで作ったんだよな」
修道院にいた頃も手縫いしか知らなかったけど、世界は既にミシンが導入され、服飾系企業や商人の間では重宝されているのだとか。そんな便利なものが……何故かローリー様はこれに関しては何もしていなかったのが不思議だが、あの人料理は得意なのに刺繍はからっきしだから避けていたのかもしれない。
「さ、次はいよいよアリスちゃんの部屋ね!」
「楽しみー!」
いつの間にか追いついていたショコラとタルトも合流し、私たちは二階の一番端の部屋まで足を運んだ。
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