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第17話

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 龍山泊に戻って来たマリーゼは、ありったけの料理の本をかき集め、バックヤードに持ち込んだ。


『手料理…? お言葉ですが、皇子の婚約者候補にその要素は必要なのですか?』
『普段はしませんね。ですが実は、神官長は天使の曜日に参列した親子連れには、手作りのお菓子を振る舞うのが通例なのです。非常時には炊き出しもしますしね。ですからヘレナの料理の腕はなかなかのものですよ』
『そー言えば神学校でも、家政の授業がありましたっ☆』
『そうなのですよ。それに加え今回は、男心を掴むすべを競って頂きたいのです。
ほら、レオンハルトはご存じの通り、アレでしょう? ドラゴンの……。選抜会では何とか娘たちの奮闘で審査の場まで引っ張って来られましたけれど、嫌々参加しているのは明らか。いくら皇家の義務とは言え、男と女が心身共に絆を深めなければ、愛情の希薄さは自ずと生まれてくる子にも伝わってしまう…。
だから人間の女性の良さを、レオンハルトにしっかりと認めさせられる、愛情溢れる料理を作って頂きたいのです』


「人間の女性の良さ、ねえ……」

 皇后は帝国の守護神レッドドラゴンに料理など作れるはずはないと思っている。確かにこの喫茶店のメニューも、他の飲食店からの出前が多い。しかし付け合わせやデザートは、従業員や店長自ら厨房に立って作るのだ。

『工房や農家で買ってきたパンや野菜は切るだけ、スープも材料を鍋に放り込んで煮るだけだから難しくないんだよな』

と、レオンは言っていた。冒険者としてクエストや魔界攻略に出ていた彼も当然自炊はできる。できないのは、未だ手伝いの域を脱していないマリーゼだ。

(レードラ様は手伝うと仰ってくれたけど、自分で作らなきゃ意味がないのよね)

 マチコが置いていったと言うレシピ本を開いてみるが、異世界の言葉で書かれていてまったく読めない。挿絵から何となく想像が付く程度だ。何冊かはスティリアム王国で絶賛翻訳済みとの事だが、残念ながらこの古書喫茶には原本しか置いていなかった。

 本日、メニューはすべて出前で賄い、カウンターにはレードラが出張る事で厨房を好きなだけ使っても良いとお達しがあったので、マリーゼは調理に集中できる。

「上手くできるか分からないけれど、初めて一人で作る料理……頑張らなきゃ!」

 エプロンを締め、マリーゼは腕まくりをして気合いを入れた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

『美味い! 初めてでここまでできるなんて、正直思わなかったよ』
『そんな、大袈裟ですレオン様』
『いや、この料理からは君の真心を感じた……人間の女性も良いものだって義母上の言葉、今なら分かるよ』
『レオン様、そんな事仰らないで。貴方が愛しているのはレードラ様です』
『そう、俺はレードラを愛している。だが世継ぎはどうにもならない……だからマリーゼ、代わりに俺の子を産んでくれないか』
『え……ええぇっ!? だっ、ダメですレオン様絶対ダメ! レードラ様を差し置いて私なんか…私なんか……』
『マリーゼ、俺が嫌いか?』

(レオン様、どうしてそんな事……嘘よ、レオン様は絶対に言わない。そうだわ、これは夢よ、夢……)


 どはっ!!

 厨房の椅子に腰掛けてうとうと微睡んでいたマリーゼは、突然の爆音で飛び起きた。材料を入れて煮込んでいた鍋の中身がすべて飛び散り、天井に吹き上げられた分は『ヘタクソ!!』と言う文字を形作っていた。

「これ、龍山泊の開店祝いにレードラ様のお師匠様から贈られたと言う、魔法の鍋だっけ……焦げ付かないって聞いてたけど、もしかしてそうなる前に全部こうなっちゃうから…?」
「なっ、何じゃこの有り様は。クレイジーな臭いがするから来てみれば…」

 カウンターから様子を見にやってきたレードラは、厨房を覗き込み呆れた声を上げる。マリーゼは慌てて雑巾を取ってきた。

「ご、ごめんなさい! つい転寝をしてしまい…」
「いや、この鍋はそんな程度でこうなったりはせん。お主、混乱魔法コンフュージョン魔法薬ポーションでも生成しとったのか?」
「……カレーです」

 レードラがパチンと指を鳴らすと、散乱した汚物…にしか見えない惨状はあっと言う間に綺麗になる。恥ずかしさと申し訳なさで消え入りたくなるマリーゼに、レードラは溜息を吐いた。

「明日は料理対決じゃろうが。作った事もない異世界のメニューに素人が挑戦するなど、無謀過ぎる。もうすぐ閉店じゃし、夜更かしは美容の大敵らしいぞ」
「でも、私まだ何も……せっかくここまで作ったのに失敗してしまうし、本当に私って何もできないんですね」

 ごめんなさい…とマリーゼは頭を下げる。このままではレードラに恥をかかせてしまう。ドラゴンの作る料理など誰も期待していないだろうが、彼女はマリーゼよりよっぽど腕がいいのだ。それなのにわざわざ自分が出しゃばって台無しにしてしまう、と落ち込んだマリーゼを、レードラは包み込むように抱きしめた。

「顔を上げい。お主は儂の代理なのだから、辛気臭い面をされては余計飯が不味くなるわい。言ったじゃろう、どうせなら全員蹴散らせと。明日は必ず、レオンに美味いと言わせてみせるぞ」
「え、でも……」

 ついさっき大失敗したばかりなのに、できるのだろうか。レオンは優しいから不味いとは言わないだろうが、審査でそれは依怙贔屓になってしまう。
 けれどレードラは、心配するマリーゼにニッと悪戯っぽく笑った。

「失敗には失敗なりの味があるんじゃよ。儂がレオンの大好物を教えてやる」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 翌日の天使の曜日。
 朝食を抜いて腹を空かせておいたレオンは自室にて食事用のテーブルに着き、フィーナと娘たち、それに最後まで残った参加者二名に囲まれていた。執事がお題で作られた彼女たちの手料理を運んでくる。

「…何で俺の部屋で審査すんの?」
「式典前で食堂も慌ただしいのですよ。報道陣に詰めかけられては気が散りますし、貴方も静かに食事したいでしょう?」

 初めて皇子の部屋に通されたランとラフレシアーナは、緊張した面持ちできょろきょろしている。ちなみにランはフリフリピンクのエプロンドレスと同色のブリム、ラフレシアーナは胸パットをやめてスレンダーな体型を活かした大人っぽいシックなデザインのドレスを着ていた。二人の本気度が窺える。

「あたしのクッキー、どうですかぁ? 皇子様のために、おいしくなーれっておまじないかけたんです☆」
「ああ、うん……いいんじゃない? 男心を擽られて」
「わ、わたくしのは如何でしょう。簡単ですが、サンドウィッチとコンソメスープにしてみました」
「いや、すごく凝ってると思う。中身磨けとは言ったけど、既に胃袋掴めるんじゃないか」

 それぞれの料理を口にし、褒めつつも他人事のような一般論しか言わないレオンに、皇后は咳払いをして注意を促す。

「レオンハルト。上の空になっていないで、もっと真剣に審査なさい。貴方が気にしているレッドドラゴンなら、早朝に城の厨房までいらして何やら始めていたようですよ」
「ぐ…ゲホッ! マ…レードラが??」

 そこへ部屋をノックして、マリーゼが入室してきた。普段の店長の制服に、何故か軍手をしている。所々炭が付いたその手の中にあったのは、レオンが冒険中に世話になっていた飯盒だった。

「ここにおったのか。儂の手料理ができたので持ってきたぞ」


 執事に皿を持って来させ、飯盒の蓋を開けると、湯気を当てて現れた白い物体に一同の注目が集まる。

「これは、ライスですわね。東方ではパンの代わりに米を主食にすると聞いた事があります。お兄様も冒険の際には米を持って行ったとか」
「我が国ではそれほど『イネ』は普及していませんから、毎度調達が大変だったそうですよ」
「あの時は本当に、お手間取らせました。でもやっぱり米があると力の入り方が違うんで」

 親子の会話に、ランとラフレシアーナは愕然とする。レオンがクエストで総合レベル九十九になった事、そして魔界攻略でさらにレベルアップした事は調べてあった。だがその食生活までは把握していなかったのだ。

(そんな、ではレオンハルト殿下の好物は、お米…?)
(あっ、でも見て。ライスが……)

 マリーゼが飯盒の中を混ぜる内、炊いた米飯の色が茶色く変化してきた。プルティーが慌てて止めに入る。

「レーちん、飯盒の底が焦げてるよ! ご飯が汚れてる!」
「何だ失敗したの、かっこ悪ーい☆」
「いくら守護神様でも、そのような焦げた物を殿下に召し上がって頂くわけには……ねえ?」
「いや、これでいいんじゃ。レオンの好物はご飯のおこげ……そうじゃな?」

 え? と女性陣に注目されると、皿に出された茶色い飯を美味そうに口にしていたレオンは気まずそうに息を吐く。

「お前……こんな所でバラすかよ。まあ、そうだな。昔(前世)からこの焦げた部分が美味くて好きだったよ」
「そうなのですか……義母でありながら、息子の好物など何も分かっていなかったのですね」
「いや体に悪いって分かってますし、皇子がこんな貧乏臭いの好きだなんて、普通は公言できませんよ」

 苦笑するフィーナに、肩を竦めて答えるレオン。それでもレードラにはちゃんと話しているのだな…と彼等の付き合いの長さは認めざるを得ない。
 妹たちはおこげを興味深そうに見ている。

「お兄様、これはそんなにもおいしいのですか?」
「ああ、香ばしくてジャンクな感じが癖になるんだ」
「ほんとかなあー? あっ、クレイヤ!」
「(ぱく)…うん」

 一口食べてにっこり笑ったクレイヤの反応に、一同も次々ご相伴に預かる。

「ほんとだ、割といけるねっ☆」
「く、悔しいですけれど、殿下がお気に召されたと言うのなら……ですがやはり、元々愛されていると言うのは最初から有利と言わざるを得ませんわ。だってわたくしたち、レオンハルト殿下の一番の好物が何かなど、知りようがなかったのですから」

 ラフレシアーナはつい、負け惜しみを言ってしまう。ここに来て、レードラの参加は勝ち負けとは関係ないとは言っていられなくなった。明らかに彼女は、女として勝負に出ている。それが、端々から滲み出ているのだ。
 だがマリーゼは、この結果に後ろめたさを感じた。

「ならば儂は、失格扱いで良い。元々、正式な参加者でもないしな」
「レードラ!? 何言って…」
「…レオン様、やはり私はズルをしています。本当は私の料理は失敗していたのです。それを見かねたレードラ様に、レオン様の好物を教えて頂き……だから、お二人の本気に応えられているとは、言えません」

 周りに聞こえないよう、マリーゼは声を落としてレオンに囁く。レードラの代理として、二人を蹴散らさなくてはいけない。ただそれは、実力で成し遂げたかった。おめおめと婚約者を奪われてしまった負け犬は、悪役令嬢を演じ切る事すらままならない。マリーゼは己の無力さを改めて思い知った。

 だがそれを打ち破ったのは、レオンの一言だった。

「いや、違うぞ。俺はおこげは好きだが、一番はこれじゃない」

「「「えっ?」」」

 マリーゼ、ラン、ラフレシアーナの声が重なる。

「レードラは勘違いしてるんだよなあ……これ、本当の事言ったら嫌われそうだから隠してたんだが……
義母上、フローラ、プルティー、クレイヤ。今からすっげー行儀悪い事するから、部屋を出てってくれないか?」
「まあ、家族にも見せられないものを、御令嬢方には見せると?」
「仕方ねーだろ、レードラだけ知ってるのはズルって言うんならさ……ほら、出てった出てった」

 釈然としない表情の皇后たちを部屋の外に追い出すと、レオンはマリーゼにも声をかける。

「レードラにも見せたくないから、できればお前にも出てって欲しいんだけどな」
「見なければ問題ないのですね? では後ろを向いていますから、ここに居させて下さい」
「はあ……絶っ対、こっち向くんじゃねえぞ」

 念を押すとレオンは焦げた飯のこびり付いた飯盒を持って、二人の方へ歩いていった。以後、マリーゼは彼等の会話しか分からなくなる。

「ラフレシアーナ嬢、コンソメスープがまだ残っていたら分けてくれるか?」
「も、もちろんですわ……えっ、そこに入れるのですか?」
「ああ、これで残りをこそげ落として…」

 ズズーッと不快な音がして、彼女等が息を飲んだ。

「あー、んめえ! こんなきったねえ食い方、レードラにバレたら軽蔑されるからな。お前等絶対黙ってろよ」
「た、確かにこれは皇后陛下にお見せしなくて正解かも……でもでもぉ、あたしは庶民臭い方が親しみ持てるかなっ☆」
「公言できない事は誰しも胸にある……それでも好きな想いは捨てられませんものね。もちろん、わたくしたちだけの秘密に致しますとも、それはもう!」
「あっれー、胸もない人が何か言ってるー☆」
「嫌ですわ、老獪な方ほど揚げ足取るのに耳聡くって」

 何やら楽しそうに話しているレオンたちに、マリーゼは後ろを向きながらむくれていた。

(レードラ様に秘密だなんて……レオン様の、バカ)

 一体自分は、何のために頑張ってきたのか。そう思いたくなるが、一方でこれは自ら失格を言い出したマリーゼへの気遣いだとも分かっていた。もちろんレオンとしては、レードラに身を引かれては困ると言う事もあるだろうが。


 部屋に戻ってきた皇后は、参加者たちと和やかな雰囲気のレオンを見て、満足げに扇子を口に当てる。

「ではレオンハルト、貴方が一番心を動かされた手料理を選びなさい」
「それが、皇后陛下……この三人は誰も、俺の一番の好物を当てられなかった。ですが出された手料理はすべて美味くて、優劣は付けられません」
「まあ、どうしましょうね? つまり、ここにいる全員を婚約者にすると言う事で、よろしい?」

 全員? 三人が顔を見合わせる。数としては妥当である。何ならこのまま後宮に入ってもいいくらいだ。だがレオンは首を振る。

「彼女たちももしかしたらこの先、他に好きな相手や夢が見つかるやも知れません。俺の婚約者になっていれば、それが足枷になります。だから……早急に結論は出さずに、このまま保留と言う事で」
「何を悠長な……御父上の容態は知っているでしょう」

「余ならピンピンしておるぞ」

 そこへ、皇帝と宰相が部屋に乗り込んでくる。一気にロイヤルファミリーが出揃った事で、参加者二人は緊張でガチガチに固まった。

「へ……陛下!」
「まったく、勝手な事をしおって。ただの過労だと言っただろうが」
「で、ですがもしもの事があれば……ティグリスもまだ幼いのですし、レオンハルトの婚約者候補だけでも決めておかなくては」
「縁起でもない事を申すな。そなたの心配は分かるがな……。先程、レッドドラゴンから赤の渓谷の薬草が贈られてきたので、煎じて飲まされたよ。もう少し息子を信じて、務めを引き受けてくれと言う事らしい。余も、ここまで来れば見届けたくなった」
「そんな……」

 がっくりと肩を落とす皇后。母の代わりに育ててくれて、今も苦労をかけてしまっている事を申し訳なく思うが、愛のため、あと少しだけ足掻いていたい。そんなレオンはポカーンと口を開けているラフレシアーナたちに声をかけに行く。

「そう言うわけだ。家族が振り回して悪かったな……だが候補者を選ぶと言っても、強制的に縛り付けたくはない。もしも別の道が見えた時には、全力で応援するから遠慮なく言ってくれ。

ラフレシアーナ嬢、貴女はとても美しいし気立ても良い。もう一度、その魅力をアピールしてはどうだろう? 今の君と結婚したいと言う男は、きっと出てくるはずだ」

 レオンの励ましに、ラフレシアーナは苦笑して答える。

「一応、頑張ってみますわ。最後まで、貴方にそう言わせられなかったのは口惜しいですけれど……やはりダメだった時は、責任取って下さいませね」
「ああ、その時は婚約者として引き受けると約束しよう」

 そしてラフレシアーナの状況は劇的に好転する。ドラゴン狂いの皇子が最後まで候補として残したのだ。選抜会以来己を偽る事もなく、堂々と美しさを誇るようになった彼女は、惜しくなった男たちから次々と求婚されるようになった。
 最終的にラフレシアーナが手を取った相手は、最初にバカにしていた貴族だった。あれから彼女の悪名を聞く度に自分が付けた傷の深さを思い知り、今更どの面下げて謝りに行けるか、誰かい男と幸せになってくれるのを祈るしかないと諦めていたのだが。
 他の連中と同じく手の平返しと見られるのを覚悟で許しを請い続けた結果、ラフレシアーナが絆された形となった。ただしレオンと妹たちによる皇家も真っ青の地獄の試練をクリアした上で、だったのだがそれはまた別の話。

 続いてレオンは、ランに向き直る。

「ランちゃんは……正直、一人に縛られるのは窮屈なんじゃないか? 顔も声もそれだけ可愛いんだし、俺と結婚するよりアイドル声優でも目指してみるとかどうだ」
「アイドル声優……って何??」
「うーん……例えば朗読劇ってあるだろ? 役者の顔を重要視しないお芝居とか。たまに歌ったりもするかな……。年齢関係なく、声と役柄で客を魅了するんだよ」
「何それ、面白そう! いくつになっても男がちやほやしてくれそうで! 役柄が十七歳なら、実年齢が四十五十でもそう宣言できるしね☆」
「おいおい……それはともかく、ランちゃんに言っておくけど。
あのクッキーに仕込んだ惚れ薬、俺には効かねえから」
「!? …てへっ☆」
「あ、貴女って女性ひとは…」

 実年齢を正式に明かしたランは、懸念通りイケメンたちに逃げられてしまったが、構う事はなくレオンのアドバイス通り声を仕事にするため声楽を専攻した。それでもいいと言うマニア層に支持され、多数のパトロンを得て後に人形劇役者兼歌姫となったランは、歳を取ってからは自分の教会を持ち、歌って踊れて演技もできるシスターたちを育成している。燃え上がるような恋を何度もしたが生涯独身で、誰が本命だったのかは語られていない。


 話が付いたところで、シュテルン宰相は一同に声をかける。

「皆様、式典の準備が整いましたので、正装に着替えてご参加下さい。
その後のパーティーで行われるダンスでは、候補となられた御二方にレオンハルト殿下のパートナーをお願いできますでしょうか」
「えっ、わたくしたちが!?」
「皇子様と踊れるの? やったぁっ☆」

 はしゃぐ二人を前に、マリーゼは複雑な気分になった。結局、候補者が決まるのを阻止できなかった。皇帝はああ言ったものの、やはり世継ぎの問題は付き纏うし、保険をかけておくに越した事はない。レードラは応援してくれたが、彼女としても婚約者がいない事を心配していたのだし、マリーゼの一人相撲、自己満足で終わってしまった感はある。

(全部……余計なお世話だったのかしら)

「マリーゼ=オンブル公爵令嬢……だったか。クラウン王国の」
「はいっ!?」

 突然、皇帝から声をかけられ慌てて周りを見回すと、部屋には自分たちしかいなかった。他の面々はとっくに退室していたのだ。

「挨拶が遅れてすまない……余がルクセリオン七世だ。息子が世話になったな」
「い、いいえっ。こちらこそ、お初にお目にかかります!」

 頭を下げられ、慌ててこちらも深々とお辞儀をする。間近で見た皇帝の目は、フローラたちと同じくアメジストのような深い紫の瞳で、それでいてレオンとも雰囲気が似ていた。

「そなたの先祖、魔術師マサラは帝国に…世界に多大な貢献をしてくれた。その故郷を統べる者として、大変誇りに思っている」
「子孫として、光栄の至りに存じます」
「そなたの事情は聞いておる。国王も胃の痛む思いであろうが、望むのであれば帝国はいくらでも力になろう」

 皇帝の心遣いに恐縮したが、マリーゼの願いは一つである。ずっと龍山泊に居たい。レオンやレードラのそばに居たい。しかしそれは、わざわざ皇帝陛下に申し出る事とは違うような気もした。

「よければレオンの誕生日を、そなたも祝ってはくれぬか。もちろん、レードラ殿としての参加になるがな」
「謹んで、お受け致します」

 最後の奉公とばかりに、マリーゼは礼を取った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 そして誕生式典が無事終了し、その後のダンスパーティーでの事。

 候補者たちと踊るレオンをぼんやりと眺め、着飾ったマリーゼは壁の花となっていた。そこへ、アテーナイアが近付いてくる。

「なかなか面白い見世物だったわね。あの皇子サマには昔からイライラさせられっぱなしだったけれど、スッとしました。わけありの女二人にもくっ付かれて、ざまあみろだわ」

 マリーゼはアテーナイアの顔を窺い見る。彼女はどうにも、憎めない何かがあった。

「良いのか? お主、本当はレオンの事を……」
「胸が悪くなる冗談はよして。あんな桃色爬虫類バカ、熨斗のし付けてくれてやるわよ!
…そうねぇ、貴女なかなかやるようだし、どうせなら本物から奪っちゃえば?」
「……えっ??」
「ごきげんよう」

 爆弾を落とされて呆気に取られている間に、アテーナイアはレオンの元へ行ってしまった。マリーゼが偽物だと知っていたのか。そう言えば彼女の父親は、最終審査であの場にいた。どこかのタイミングで正体に気付いたのかもしれない。
 どうやらアテーナイアとはまだまだ、長い付き合いになりそうだった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「げっ、アティ…」

 次の曲に入る直前、現れたアテーナイアに思わず声を漏らしてしまうと、見下したような嘲笑が返ってきた。

「げっ、とは何よ? せっかく婚約者候補が決まったお祝いに、候補がお別れのダンスをしてあげようと言うのよ?」
「お別れ?」
「そう。わたくし、留学するの。本格的に政治を学ぶために、世界を見てくるわ」

 政治、と聞いてレオンは瞠目する。確かに彼女は宰相の娘ではあるが、跡を継ごうと言うのか。この世界、女がまつりごとの中心に立つにはまだ敷居が高い。

「俺は君には、他に幸せを見つけて欲しかった」
「それはエゴね。い人が見つかれば結婚もするでしょうけれど、それでもわたくしは宰相になってみせるわ。わたくしの生涯の夢はね、レオン。貴方を一生ビシビシこき使ってやる事よ。例え皇帝になってもね……覚悟なさい」
「うへぇ」

 ある意味、愛よりも熱烈な告白に苦笑し、始まった曲に合わせて彼女をリードする。完璧な補佐を務める相棒を「女房役」と言うが、アテーナイアはまさに、自他ともに認めるレオンの女房役であった。

「あの、どうなのよ。結構い感じじゃない」
「レードラか? 当たり前だろ、世界一だぞ」
「そうじゃなくて……はっきり言いましょうか? マリーゼ様よ」
「!? 何だ、知ってたのか。彼女はわけありで、今はまだ素性を公表できない」
「貴方の周りって、そんなのばっかりね。あとは例の赤トカゲだし……はあ、本当同情するわ。この後、彼女とも踊ってあげなさいよね。今回一番貴方のために立ち回ったのは、あのなんだから」
「そりゃもう、彼女にはいくら礼を言っても言い尽くせないからな。…それにしても、君がそんなにマリーゼに肩入れするとは思わなかった」

 レオンがそう言うと、アテーナイアは不敵に笑い、ぎゅっと力を込めて手を握る。

「いてっ」
「彼女の事は、嫌いじゃないの。後で思い知るといいわ……
さようなら、レオンハルト殿下」

 最後に淑女の礼を取ると、アテーナイアは振り返る事なく会場を後にした。留学と言っても今すぐではないし、どうせまた顔を合わせるのに…とレオンは首を傾げながら見送る。


 ともあれ次の曲が始まる前に、マリーゼの元へ急ぎ足で向かったレオン。そしてダンスを申し込むために、彼女に手を差し出した。

「俺と、踊って頂けますか? 『……』」

 声には出さず、唇の動きだけで名前を呼ぶレオンに、マリーゼは息を飲む。ここではレードラとして参加しているのだから、普通にそう呼べばいい所を、敢えてマリーゼとして誘った。彼女の胸に、熱いものが込み上げる。

 手を取り合い、ダンスフロアの中央で踊る二人の姿に、周囲はうっとりと見惚れていた。

「君とこうして踊るのは、クラウン王国のパーティー以来だな」
「そうですね…」
「どうしたんだ、さっきから暗い顔をして」

 レオンの声にキッと顔を上げた彼女は、指摘されて恨めしげに唇を尖らせた。

「どうしてきっぱり断らなかったのですか。レードラ様と言う御方がありながら……レオン様の浮気者」
「ええ……?」

 まるで妬いている恋人のような文句に、レオンが困った顔をする。しかし直後、マリーゼはクスクス笑い出した。

「マリーゼ?」
「ふふ、嘘です…。レオン様はお優しいから、誰も傷付けたくないんですよね。あんな曖昧な選択、女の子としては歯痒いですけど」
「そうだな、自分でもそう思う」

 誠実であろうとして、結局は誰かにとって不誠実な結果になってしまう。だから最初から、誰を愛しているのか明確にしているはずなのだが……どうにもレオンの恋は上手く行かないようだ。

「レオン様、私は貴方のお役に立てましたか?」
「もちろん、すげー感謝してるよ」
「よかった……貴方たちには返し切れないほどの恩があるから、このままお荷物でいるのは嫌だったんです。仲間として、龍山泊の一員として、貴方の夢を守りたかった……」

 レオンを見つめるマリーゼの頬は紅潮し、その眼差しは潤んでいる。レードラが絶対にしない表情だ。レオンが戸惑っている内に曲は終了し、マリーゼはするりと彼の腕から抜け出した。

「この後、龍山泊でもパーティーを開くそうです。レードラ様が腕を振るってごちそうを用意されていますから、食べ過ぎないようにと伝言を頼まれました」
「そうか、毎年みんなで集まるんだ。マリーゼも来るよな?」
「……いいのですか?」
「あったりまえだろ、今回の功労者だぞ」

 そんな事を話しながら、二人が連れ添って軽食などを摘まんでいると、わらわらと集まってきた妹たちに取り囲まれた。

「マリーゼ様、この度はご協力ありがとうございました」
「すっごく面白かったじゃん?」
「満足満足…」
「あ、はは……どうも、お役に立てて何より」

 苦笑するマリーゼを残し、フローラたちはレオンの腕を引き、彼女から距離を取った。

「お兄様。わたしたち、マリーゼ様が義姉でもよくてよ」
「ぶっ!!」
「ニャハハ、マリーゼお義姉様だー!」
「略してマリ姉…」
「やめろ、俺の中のおっさんに刺さってる!」

 彼女等の腕を振り解くと、レオンはガシガシ頭を掻いた。

「変な事言うなよ、彼女が困るだろ」
「困りますか?」
「近々、ルピウスのヤツが帝国に来るんだ。あまり騒ぎ立てたらあいつにバレる」

「それ、本当ですか?」

 急にマリーゼが割って入ってきたので、レオンたちはぎょっとして飛び退く。さっきの話を聞かれたかと気まずい空気が流れたが、マリーゼはそれどころではないようだ。

「マリーゼ、落ち着いて聞いてくれ」
「平気です。両親からの手紙で知っていましたから、いずれはと覚悟しておりました。……もしや、龍山泊にも?」
「と言うか、それが目的だそうだ。一応、あいつとは友人だから案内はするけど……来たら奥に引っ込んで、絶対見つからないようにしろ。もしもの時はレードラのふりをするんだぞ」
「はい…」

 不安を取り除くようにマリーゼの肩を抱くレオンの姿を、シュテルン宰相は愉快そうに眺めていた。

「何だ…娘の言う通り、殿下にも相応しい相手がいるではないか。アテーナイアには困ったものだが、人を見る目は確かだからな」

 マリーゼを巡る状況は、ここに来て一気に動き出そうとしていた。

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人間の他に、妖精・ドワーフ・人魚、三つの種族が存在する世界。|人間に囚われた人魚のユエを助けたのは、海賊のカイト。彼はユエに「ある仕事を手伝ってほしい」と持ちかける。それは深海に沈んだ『鍵』を探してほしいというもので……|三つの種族と三つの鍵をめぐる冒険|泰然自若な謎多き男×純粋無垢な人魚|サイドCP 無口な元剣闘士×自己評価の低い美貌の男|《以下ネタバレ注意》鍵によって人間の姿になってしまったユエ。元に戻るためカイトとその仲間たちと共に旅をすることに。ユエは次第にカイトを信頼していき、ひょんなことから自慰を手伝ってもらったことで、恋愛対象として意識していく。しかしカイトはユエを拒否。ユエの体当たりでカラダの関係を持った二人。カイトも次第にユエへの気持ちを隠せなくなっていく。それでもカイトには、ユエに気持ちを伝えられない理由があって──|前書きにて警告。サブタイトルに※がある話は性描写、残酷な描写があります。|小説家になろうサイトから転載|完結しました。

だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです! 初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆 なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。 男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。 ✴︎ 挿入手前まで ✴︎✴︎ 挿入から小スカまで ✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで 作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。 リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。 もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。 過去作 なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新) これは百貨店での俺の話なんだが 名無しの龍は愛されたい ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~ こっち向いて、運命 アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中) ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~ 改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど 名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海- 飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編) 守り人は化け物の腕の中 友人の恋が難儀すぎる話(短編) 油彩の箱庭(短編)

恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代
BL
傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専。淫猥なようであたたかく切ない、救済系じれじれラブ。 <あらすじ> サラリーマンの及川隆之は、長年付き合っていた彼女に別れを告げられ傷心していた。 その手にあったのは婚約指輪で、投げやりになって川に投げ捨てるも、突如として現れた青年に拾われてしまう。 彼の優しげな言葉に乗せられ、飲みに行った先で身の上話をする隆之。しかしあろうことか眠り込んでしまい、再び意識が戻ったときに見たものは…、 「俺に全部任せてよ、気持ちよくしてあげるから」 なんと、自分の上で淫らに腰を振る青年の姿!? ウリ専・風俗店「Oasis」――ナツ。渡された名刺にはそう書いてあったのだった。 後日、隆之は立て替えてもらった料金を支払おうと店へ出向くことに。 「きっと寂しいんだよね。俺さ――ここにぽっかり穴が開いちゃった人、見過ごせないんだ」 そう口にするナツに身も心もほだされていきながら、次第に彼が抱える孤独に気づきはじめる。 ところが、あくまでも二人は客とボーイという金ありきの関係。一線を超えぬまま、互いに恋愛感情が膨らんでいき…? 【傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専(社会人/歳の差)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全10話+番外編1話(ほぼ毎日更新) ※イチャラブ多めですが、シリアス寄りの内容です ※作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

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wannai
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