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学園祭開催編

真犯人

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 ここまでの展開を目の当たりにして、観客のざわめきが大きくなる。
 真犯人から離れた場所に出現できる、『ヒトダマ』なる炎型の霊魂。これと同じ現象を起こせるものを、王国民なら誰でも連想できる。

 国宝『女神の火』――祭典に出席した王妃が花火や聖火に着火するための神具だ。まさか王妃が!? とも思うが、髪はプラチナブロンドではないし、敗戦国からの輿入れという立場上、行動も制限されている。おいそれと神具を持ち出して神殿に忍び込むなど出来ようか。

 そんな中、デミコ ロナル公爵だけがカタカタ震えながら横にいる貴婦人を見遣っていた。そこには『エリザベス』と同色の髪の敬虔なアモレア信者が、の人形を愛おしげに撫でていた。

「まさか、メアリー……お前なのか? お前がラク様を……」
「いやね、なんて顔で見てくるのよ。ねぇ、エリザベス?」

 疑惑の眼差しをものともせず、お義母様は薄っすらと笑った。

「王太子妃になるのは、エリザベスなのよ。神託にもお告げがあったわ。だからエリザベスを……『わたくしたちの娘』を育て上げたんじゃない。だと言うのに王太子殿下もどこの馬の骨なのか分からぬ小娘に執心なさるから……『エリザベス』も彼女に警告の一つもしたくなったんでしょう、ねぇ?」
「なんという事を……」

 真っ青になるお父様。
 実際神殿内で不祥事を起こした場合、外国から来た王妃殿下よりもお義母様の方が揉み消しやすくはある。陛下にとっては神託に則り結ばれなかったが恋人同士だった女性、そして神殿にとっても多額の寄付を納めている熱心な信者だ。

(とは言え、本人に責任能力があるのかは怪しいけど。今だってしらばっくれているのか本気で信じているのか判断できないもの)

 どうやらお義母様の中では死産となった娘の依り代は二人いて、出来損ないの『エリザベス』――つまりあたしを部屋に閉じ込めている間に、人形の『エリザベス』は神殿まで赴き、殿下を誑かすラク様を死ぬほど怖がらせた事になっているようだ。
 親心、なんてものじゃない。色恋に基づくものでもない……もっと根本から歪んでしまっている。その事にお父様は長年ずっと目を背けていた。王家から別れた恋人を押し付けられた形になり、この国の持つ闇の被害者とも言えるかもしれないが、それでも真摯に向き合ってくれていたら……

「クックックック……」

 その時、ざわつく会場には不似合いな笑い声が隣から聞こえてきた。
 テセウス殿下が、肩を震わせて笑っている。

「これは、なかなかに面白い余興だ……そう思わないか、エリザベス?」
「はあ……っ!?」

 戸惑うあたしの腕を掴み、ずんずん舞台に向かって歩いて行く殿下。引きずられるように、あたしもそれについていくしかなかった。

「殿下!? い、今は上演中で……」
「かまわん。本物が直々に続けてやるだけだ」

 ぎょっとする演者を下がらせると、殿下はあたしを連れたまま舞台上に上がってしまう。

「観客……いや、クラウン王国の民よ。この一件には『女神の火』が絡んでいるのではという疑惑はもっともな事。だが、原理が同じであれば神具などいくらでも作られる。このようにな……」

 そう言って掲げたのは、アステル様に預けたはずの火時計だった。

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