上 下
109 / 111
学園祭開催編

演劇【血塗られたエリザベス】③

しおりを挟む
「エリザベス姫の仕業かに思われた、鎧騎士襲撃事件。その真相を探るべく、王子様と薔薇の痣の乙女は調査を進めます。そして数日後――」

 ナレーション役が引っ込むと、舞台上は神殿の廊下を模したセットが組まれ、中央に主役の二人が歩いてくる。

『ついに鎧騎士の謎を解く事ができたぞ。これできっと君の憂いも取り除けるだろう』
『まあ、本当ですか殿下! それを聞いてホッとしました』

 現実には『エリザベス』に容疑がかかったままなので、否定する内容であれば王家の不興を買ってしまうのではないか、客席の方からざわつきが起こる。
 それに構わず、王子役は抱えていた騎士の兜と持ち上げた。

『あの場には四十人分の騎士鎧だけが転がっていた。だから誰もが、君を襲撃した後に共犯者たちは鎧を脱ぎ捨てて逃げたとばかり思い込んでいる。
しかしこの鎧の回収時、普段ならあるべきものがない……私はそこに違和感を覚えた』
『一体何がなくなっていたのでしょう?』
『鎧立てだよ』

 そう、ラク様によれば回収された鎧は無造作に箱の中に入れられており、廊下に並べられていたように鎧立てにかけられていなかったのだと。
 王子役は、ポケットからリングボルトを取り出す。神殿の焼却炉で見つけたものより大きいが、単に観客にも見やすいようにするための演出だ。

『これは、君が焼却炉の清掃をしていた時に見つけたものだね?』
『は、はい! 奥の方でたった一つだけ燃えずに残っていたのですが……あの、それが事件解決の糸口になるのですか?』
『もちろん、これと鎧立てを使い、鎧騎士襲撃のトリックを再現してみようじゃないか』

 そして正面に向かって五つの鎧立てを並べ、そこに鎧を着けていく。一見すると、鎧騎士が五人立っている状態が出来上がった。
 次に王子役は舞台端から黒い衣装と頭巾の『黒子』なる舞台上の裏方を呼び寄せ、ちょうど騎士鎧の間に六人しゃがませた。彼らもまた一つずつリングボルトを見えるように手に持っている。

『まずは鎧立ての首の後ろの部分……兜と鎧の間に小さく穴を開け、リングボルトを捻じ込む。背後の壁も同様だ。とは言えど真ん中に穴など開いていれば目立ってしまうから、床付近の巾木辺りだろうな』

 ここで王子役は凧糸を取り出し、まずは一番端の黒子のリングボルトに結び付けた。そして手前にある騎士鎧のリングボルトに凧糸を通し、さらに隣の黒子のリングボルトへ……と繋げていく。

『この時、鎧立ては心持ち斜め前に傾けておくのがポイントだ。一人では出来ないからやはり二、三人は協力者がいたと見た方がいいだろう』
『たった二、三人で……』

 そうこうするうちに騎士鎧五体は、やや前方に倒れかけた姿勢を凧糸によって固定された状態になる。

『後は斧を持たせた鎧が並べられた廊下を君が通り過ぎた直後、凧糸を切れば……』

 プツリとハサミを入れられた凧糸は一気に緩み、バランスを崩した鎧たちは端から前に向かってガシャンと倒れていく。暗闇の中で斧で襲われたと勘違いすれば、恐怖で正確な状況など把握しにくいだろう。

『事件が起きた後、本格的な調査が入る前に神殿内の協力者たちはリングボルトを回収したのだろう。鎧立ては元々そこにあるべきもので、君の「鎧騎士に襲われた」という発言のおかげで放り出されていても重要視されない。ただ、すぐには抜けないリングボルトを証拠隠滅するために――』
『焼却炉で燃やしたのですね』

 木製の鎧立てを燃やした後、焼却炉を掃除するふりで灰の中からリングボルトは掻き出された。それでも完全とはいかずにたった一つを取り逃してしまったのだ。廊下の壁に残った穴とこのリングボルトから、アステル様は鎧騎士の絡繰りに思い至ったのだろう。

『ですが殿下、鎧は廊下の両端にあって同時に倒れてきました。つまり凧糸を切るタイミングは同時で、少なくとも手前の鎧付近に一人ずつ必要のはずです。いくら暗闇でも、鎧以外に誰かが隠れていれば気付くはずです』

 ラク様が目撃した『エリザベス』のプラチナブロンドは闇の中でも目立つ。ならば彼女がいたのはラク様の前方ではない。協力者たちも鎧の仕掛けを手伝ったのかもしれないけれど、少なくともラク様が襲撃時を思い出した限りでは、鎧付近に他の者はいなかったと聞いている。

『そうだね、犯人は君の後方にいて、通り過ぎた直後に離れた場所から凧糸を切った。それをやってのけたのが、君が見たヒトダマの正体だと言えば信じるかい?』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...