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異世界人編
事後報告
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アステル様とは、委員会が終わった後で落ち合う事になっていた。あたしが殿下に呼び止められた事で、遅れる事は分かっていただろうから、きっと待っていてくれるはず。
それでもさらに待たせてしまうのは悪いと思いつつ、あたしは二学年の廊下に寄ってから図書室に向かったのだった。
「お、お待たせして……っすみません」
「そんな息を切らせてまで急がなくてもよかったのに」
先に帰ってしまってもしょうがないと思っていたけれど、アステル様は秘密のスペースで待っていてくれた。その事にどうしようもなく安心する。普段はあの仮面のおかげで存在感がなくなっているので、あたしたちが学校で交流できる場所はここしかないのだ。
「そういうわけには……あ、遅れましたが試験結果総合一位、おめでとうございます」
「ありがとう。君も今の状況で七位なんてすごいよ」
そう、アステル様は二学年トップの点数だったのだ。殿下を抑えての第一位……道理であんなに機嫌が悪かったわけだ。そしてあたしに対しては、一学年ではなく二学年の方で評価してくれた。こちらが本来なのだから、七位でも評価してくれるのは嬉しい。
「アステル様が勉強を見てくださったおかげです」
「それでも、君が頑張ったからこその結果だよ……おめでとう」
優しい声に、目頭が熱くなる。王子妃教育を必死に受けていた頃は、何も称賛されたかったわけじゃない。ただ誰でもいいから一言「よく頑張った」と言って欲しかった。たとえ押し付けられた役割でも、逃げ出せずに流されるしかなくても……そのたった一言で報われたんだから。
アステル様は、そんなあたしの心も、欲しい言葉も理解してくれている。それが……とても救われる。
「ありがとう、ございます……アステル様。実は事後報告になってしまうので言いにくいんですが」
あたしは殿下からの頼まれ事について相談するために口を開いた。
「なるほどね……それで、君はどうしたいと思っている?」
「勢いで承諾してしまいましたが、正直これでよかったのかは分かりません。殿下と深く関わるのはリスクがあると思います、が……ラク様には直接確かめたい事もありましたので、いい機会かもしれません」
「例の、殺人未遂容疑か……」
アステル様の口からその件が出るのは辛い。あたしを微塵も疑っていないのは声や表情で分かるのだけど、やはり婚約者が容疑をかけられている……と言うかそのせいで殿下との婚約が破棄になり、自分に押し付けられたという経緯はどうあっても変わらないのだ。迷惑に思われていないか……あたしばかりが救われて、アステル様の重荷になっていないかという不安は時折顔を出す。
「あの……勝手に決めてよかったのでしょうか?」
「ん? いや、僕が心配しているのは、君が強引にテセウス王子の婚約者候補の相手をさせられる事で、傷付くんじゃないかって事なんだが……気にしていないなら、直感に従うといい。
むしろ彼女の友人に収まれば『エリザベス』へ危害を加えようとしても、事前に知る事ができるしね」
難しい顔をしていたのは、あたしを心配していたかららしい。あたしはラク様に思うところはあるけれど、それは容疑についてだけで、別に殿下との関係については好きにすればいいと思う……こちらに関わってこなければ。
だけど委員会の時と同じく、『エリザベス』断罪回避のために敢えて懐に潜り込むのも手だ。怖いけど……あたしの大切な人たちが巻き添えにされると思うと、逃げてばかりもいられない。
「そう、ですよね。決めました……あたし、ラク様のご友人になる話を引き受けます」
「ああ、僕も気になる事があるから、近々彼女とは接触しようと思っていた。君が危険な目に遭わないよう、できるだけ力になるよ」
あたしの決意に、アステル様も頼もしく同意してくれる……けど、「ラク様が気になる」という言葉に、ほんの少しだけ引っ掛かりを覚えた。
それでもさらに待たせてしまうのは悪いと思いつつ、あたしは二学年の廊下に寄ってから図書室に向かったのだった。
「お、お待たせして……っすみません」
「そんな息を切らせてまで急がなくてもよかったのに」
先に帰ってしまってもしょうがないと思っていたけれど、アステル様は秘密のスペースで待っていてくれた。その事にどうしようもなく安心する。普段はあの仮面のおかげで存在感がなくなっているので、あたしたちが学校で交流できる場所はここしかないのだ。
「そういうわけには……あ、遅れましたが試験結果総合一位、おめでとうございます」
「ありがとう。君も今の状況で七位なんてすごいよ」
そう、アステル様は二学年トップの点数だったのだ。殿下を抑えての第一位……道理であんなに機嫌が悪かったわけだ。そしてあたしに対しては、一学年ではなく二学年の方で評価してくれた。こちらが本来なのだから、七位でも評価してくれるのは嬉しい。
「アステル様が勉強を見てくださったおかげです」
「それでも、君が頑張ったからこその結果だよ……おめでとう」
優しい声に、目頭が熱くなる。王子妃教育を必死に受けていた頃は、何も称賛されたかったわけじゃない。ただ誰でもいいから一言「よく頑張った」と言って欲しかった。たとえ押し付けられた役割でも、逃げ出せずに流されるしかなくても……そのたった一言で報われたんだから。
アステル様は、そんなあたしの心も、欲しい言葉も理解してくれている。それが……とても救われる。
「ありがとう、ございます……アステル様。実は事後報告になってしまうので言いにくいんですが」
あたしは殿下からの頼まれ事について相談するために口を開いた。
「なるほどね……それで、君はどうしたいと思っている?」
「勢いで承諾してしまいましたが、正直これでよかったのかは分かりません。殿下と深く関わるのはリスクがあると思います、が……ラク様には直接確かめたい事もありましたので、いい機会かもしれません」
「例の、殺人未遂容疑か……」
アステル様の口からその件が出るのは辛い。あたしを微塵も疑っていないのは声や表情で分かるのだけど、やはり婚約者が容疑をかけられている……と言うかそのせいで殿下との婚約が破棄になり、自分に押し付けられたという経緯はどうあっても変わらないのだ。迷惑に思われていないか……あたしばかりが救われて、アステル様の重荷になっていないかという不安は時折顔を出す。
「あの……勝手に決めてよかったのでしょうか?」
「ん? いや、僕が心配しているのは、君が強引にテセウス王子の婚約者候補の相手をさせられる事で、傷付くんじゃないかって事なんだが……気にしていないなら、直感に従うといい。
むしろ彼女の友人に収まれば『エリザベス』へ危害を加えようとしても、事前に知る事ができるしね」
難しい顔をしていたのは、あたしを心配していたかららしい。あたしはラク様に思うところはあるけれど、それは容疑についてだけで、別に殿下との関係については好きにすればいいと思う……こちらに関わってこなければ。
だけど委員会の時と同じく、『エリザベス』断罪回避のために敢えて懐に潜り込むのも手だ。怖いけど……あたしの大切な人たちが巻き添えにされると思うと、逃げてばかりもいられない。
「そう、ですよね。決めました……あたし、ラク様のご友人になる話を引き受けます」
「ああ、僕も気になる事があるから、近々彼女とは接触しようと思っていた。君が危険な目に遭わないよう、できるだけ力になるよ」
あたしの決意に、アステル様も頼もしく同意してくれる……けど、「ラク様が気になる」という言葉に、ほんの少しだけ引っ掛かりを覚えた。
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