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呪われた伯爵編
対峙
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席に着いたまま睨み上げる殿下と、対峙するアステル様。時折、パカパカと妙な音がする……あ、あたしがまばたきしないと指摘したから? でも静寂の中、これは目立つわ。
「私は貴様の素顔を知っている。仮面などと小賢しい真似を……」
「学園長にも許可は貰っています。私の素顔は学生たちを萎縮させ、勉学どころではなくなる。それは先日の騒動が証明しています。
聡明なる殿下もいずれはこの国を治めるのなら、将来有望となる者の芽を摘む事はなさいませんよね?」
バチバチッと火花が飛び交い、あたしたちクラス委員は固唾を飲んで見守るしかない。いくら王族とは言え、殿下相手に強気過ぎじゃない?
無表情 (マスクだからだけど)のアステル様を見つめていた殿下は、やがてにやりと口端を上げた。
「この私を脅すとは、相変わらずいい度胸だ……そうだな、日常生活ではそのマスクを着用する事を許そう。ただし、特別な行事では素顔で参加してもらうぞ。一応、貴様も王族なのだからな」
「行事、ですか」
「直近では私の誕生パーティーだ。いつもであればディアンジュール伯爵家に参加義務はないのだが、これは貸しだからな……無論、婚約者と共に出席してもらう」
殿下の言葉に、心臓が止まりそうになる。婚約者ってあたし――エリザベスよね? 学園内に引きこもった悪役令嬢を引っ張り出して、アステル様共々見世物にする気なの!? あたしはともかく、どうしてアステル様まで……
思わず固く手を握りしめていると、パカッと音がしてハッと顔を上げた。アステル様が笑っている。いや表情は変わらないけど、肩を揺らして笑い声を漏らしているのだ……何だか怖い。
「なるほど、殿下も粋な事をなさる。執行猶予中で肩身の狭い思いをしているエリザベス嬢の騎士役を仰せつかるとは。確かに化け物がそばにいれば、誰もエリザベス嬢の事など気にも留めないでしょうからね。
エリザベス嬢もきっと、殿下のお気遣いに感謝するでしょう」
あからさまな皮肉に、殿下は顰めっ面で舌打ちした。ひいぃ……整った顔立ちを歪められるとすごく怖い。絶対そんな意図ではないに決まってるけど、アステル様が大仰に褒めるものだから引っ込みがつかないのだろう。
「貴様、あいつに誑し込まれたか? ラクを殺そうとするような女だが、見目だけは一級だからな」
「生憎、私は未だ『エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢』とはまともな交流に至っておりません。何せ校内ではプラチナブロンドの髪の生徒で溢れ返っていて、見分けが付かないのですから……
それと、殺人未遂事件に関しては調査中で、まだ容疑の段階だと聞いております。確定するまではその身を不当な迫害から守るのも、婚約者の務めかと」
アステル様が『婚約者』を強調して言い返すと、殿下の顔が真っ赤になった。当て付けだと分かっているのだろう。ハラハラする一方で、あたしは胸が熱くなった。殿下に対しては言われっ放しでもしょうがないと諦めていたけど、今は味方がいる。それがこんなに心強くて嬉しい事だなんて。
あたしは変に思われないよう、込み上げる感情を抑えるのに必死だった。
「私は貴様の素顔を知っている。仮面などと小賢しい真似を……」
「学園長にも許可は貰っています。私の素顔は学生たちを萎縮させ、勉学どころではなくなる。それは先日の騒動が証明しています。
聡明なる殿下もいずれはこの国を治めるのなら、将来有望となる者の芽を摘む事はなさいませんよね?」
バチバチッと火花が飛び交い、あたしたちクラス委員は固唾を飲んで見守るしかない。いくら王族とは言え、殿下相手に強気過ぎじゃない?
無表情 (マスクだからだけど)のアステル様を見つめていた殿下は、やがてにやりと口端を上げた。
「この私を脅すとは、相変わらずいい度胸だ……そうだな、日常生活ではそのマスクを着用する事を許そう。ただし、特別な行事では素顔で参加してもらうぞ。一応、貴様も王族なのだからな」
「行事、ですか」
「直近では私の誕生パーティーだ。いつもであればディアンジュール伯爵家に参加義務はないのだが、これは貸しだからな……無論、婚約者と共に出席してもらう」
殿下の言葉に、心臓が止まりそうになる。婚約者ってあたし――エリザベスよね? 学園内に引きこもった悪役令嬢を引っ張り出して、アステル様共々見世物にする気なの!? あたしはともかく、どうしてアステル様まで……
思わず固く手を握りしめていると、パカッと音がしてハッと顔を上げた。アステル様が笑っている。いや表情は変わらないけど、肩を揺らして笑い声を漏らしているのだ……何だか怖い。
「なるほど、殿下も粋な事をなさる。執行猶予中で肩身の狭い思いをしているエリザベス嬢の騎士役を仰せつかるとは。確かに化け物がそばにいれば、誰もエリザベス嬢の事など気にも留めないでしょうからね。
エリザベス嬢もきっと、殿下のお気遣いに感謝するでしょう」
あからさまな皮肉に、殿下は顰めっ面で舌打ちした。ひいぃ……整った顔立ちを歪められるとすごく怖い。絶対そんな意図ではないに決まってるけど、アステル様が大仰に褒めるものだから引っ込みがつかないのだろう。
「貴様、あいつに誑し込まれたか? ラクを殺そうとするような女だが、見目だけは一級だからな」
「生憎、私は未だ『エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢』とはまともな交流に至っておりません。何せ校内ではプラチナブロンドの髪の生徒で溢れ返っていて、見分けが付かないのですから……
それと、殺人未遂事件に関しては調査中で、まだ容疑の段階だと聞いております。確定するまではその身を不当な迫害から守るのも、婚約者の務めかと」
アステル様が『婚約者』を強調して言い返すと、殿下の顔が真っ赤になった。当て付けだと分かっているのだろう。ハラハラする一方で、あたしは胸が熱くなった。殿下に対しては言われっ放しでもしょうがないと諦めていたけど、今は味方がいる。それがこんなに心強くて嬉しい事だなんて。
あたしは変に思われないよう、込み上げる感情を抑えるのに必死だった。
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