43 / 111
呪われた伯爵編
初めての触れ合い
しおりを挟む
しばらくアステル様にしがみ付いていたあたしは、徐々に冷静さを取り戻していた。
(お、男の人に抱き着いてしまった……)
今まで遠慮なくこうやって甘えられたのは、ボーデン男爵家にいる間だけだった。お父様と血が繋がっているとは言え、デミコ ロナル公爵家は『王太子の婚約者エリザベス』としてのわたくしでしかいられなかったのだから。
しかも婚約者のテセウス殿下は、あたしを嫌っていた。そんな中で、異性との触れ合いなど全く経験がなかったのだ。
アステル様の体は見た目よりもがっちりと固く、手も大きかった。鍛えてらっしゃるのだろうか……頭の大きさから言って、首が細ければ支えきれないのは当然なのだが。それに、体温も高い……こうして抱き着いている内に、どんどん上がってきているような?
そこまで考えてようやく、やらかした現状を自覚したのだった。
「わ、わわ……ごめんなさい! 出会って間もないのに、不躾な事を!」
「いや、びっくりしたけど……婚約者なんだから、エリザベス嬢が嫌じゃないなら」
飛び退って距離を取ると、アステル様が真っ赤な顔に手で扇いで風を送っているところだった。ああ、驚かせてしまった……あたしも恥ずかしさで胸がドキドキする。いきなり飛び付くつもりはなかった。ただ、申し訳なさでいっぱいになったのだ。自分ばかりが不幸であるような気持ちが、やっぱりどこかにあったから。
「嫌だなんて、とんでもない。あなたは命の恩人です」
「そこまで大袈裟に考えなくていいよ。僕らは王妃によって引き合わされた婚約者。それくらい気楽に構えていてもらえれば」
「それは……アステル様の方こそ、この婚約に迷惑しているという事ですか?」
彼からすれば、あたしはまさに自分を今の境遇に追いやった象徴ではないか。殿下の時のように恨まれていてもおかしくはない。
すると、がしっと両肩を掴まれ、少し怒ったような雰囲気でアステル様に覗き込まれた。
「違うよ、何故そうなるんだ!」
「だってあたし、王太子に捨てられた傷物ですよ? 国中に嫌われている、悪役令嬢エリザベスなんです。あたしと結婚なんてしたら、後ろ指を差される事に……」
「後ろ指なんて今更だ。それに、『悪』だなんてのが真実ではない事は知ってる。実際の君はとても心優しいし、すごくかわい……と、とにかく、君はもうそんな事気にしなくていいんだ。これからは、僕も力になるから」
ああ、つい自虐したせいで、気を遣わせてしまった。力になりたい、なんてあたしの方こそ言いたいのに。かわいそうだと思われていたら、いつまで経っても与えられるばかりだわ。
あたしは眼鏡を外し、アステル様と向き合う。
「それじゃ、改めて……あたし、リジー=ボーデンはアステル=ディアンジュール様と家族になりたいです。頼るだけじゃなくて、支えられるようになりたい。あたしをそばに、置いてくれますか?」
「それは……こちらこそ、こんな僕でいいのなら、全力で君を守るよ。
……な、何だかプロポーズし合ってるみたいだね」
真っ赤になって照れるアステル様に、つられてこっちまで赤くなる。プロポーズって、とっくに婚約してるから別におかしくは……ないわよね? アステル様が変な事言うから、だんだん恥ずかしくなってきた。
ええい、この際だ。
「でしたら折角ですから、あたしの事は『リジー』とお呼びください。『エリザベス=デミコ ロナル』は今や存在しないのですから」
「え……わ、分かった。リジー嬢」
「ただの『リジー』で!」
「リ、リジー……」
言う度に照れまくるものだから、つい何度も呼ばせてしまった。結局お昼休みが終わってしまい、魔法については少ししか聞けなかったけれど……婚約者との距離が縮められたので、よしとしよう。
(お、男の人に抱き着いてしまった……)
今まで遠慮なくこうやって甘えられたのは、ボーデン男爵家にいる間だけだった。お父様と血が繋がっているとは言え、デミコ ロナル公爵家は『王太子の婚約者エリザベス』としてのわたくしでしかいられなかったのだから。
しかも婚約者のテセウス殿下は、あたしを嫌っていた。そんな中で、異性との触れ合いなど全く経験がなかったのだ。
アステル様の体は見た目よりもがっちりと固く、手も大きかった。鍛えてらっしゃるのだろうか……頭の大きさから言って、首が細ければ支えきれないのは当然なのだが。それに、体温も高い……こうして抱き着いている内に、どんどん上がってきているような?
そこまで考えてようやく、やらかした現状を自覚したのだった。
「わ、わわ……ごめんなさい! 出会って間もないのに、不躾な事を!」
「いや、びっくりしたけど……婚約者なんだから、エリザベス嬢が嫌じゃないなら」
飛び退って距離を取ると、アステル様が真っ赤な顔に手で扇いで風を送っているところだった。ああ、驚かせてしまった……あたしも恥ずかしさで胸がドキドキする。いきなり飛び付くつもりはなかった。ただ、申し訳なさでいっぱいになったのだ。自分ばかりが不幸であるような気持ちが、やっぱりどこかにあったから。
「嫌だなんて、とんでもない。あなたは命の恩人です」
「そこまで大袈裟に考えなくていいよ。僕らは王妃によって引き合わされた婚約者。それくらい気楽に構えていてもらえれば」
「それは……アステル様の方こそ、この婚約に迷惑しているという事ですか?」
彼からすれば、あたしはまさに自分を今の境遇に追いやった象徴ではないか。殿下の時のように恨まれていてもおかしくはない。
すると、がしっと両肩を掴まれ、少し怒ったような雰囲気でアステル様に覗き込まれた。
「違うよ、何故そうなるんだ!」
「だってあたし、王太子に捨てられた傷物ですよ? 国中に嫌われている、悪役令嬢エリザベスなんです。あたしと結婚なんてしたら、後ろ指を差される事に……」
「後ろ指なんて今更だ。それに、『悪』だなんてのが真実ではない事は知ってる。実際の君はとても心優しいし、すごくかわい……と、とにかく、君はもうそんな事気にしなくていいんだ。これからは、僕も力になるから」
ああ、つい自虐したせいで、気を遣わせてしまった。力になりたい、なんてあたしの方こそ言いたいのに。かわいそうだと思われていたら、いつまで経っても与えられるばかりだわ。
あたしは眼鏡を外し、アステル様と向き合う。
「それじゃ、改めて……あたし、リジー=ボーデンはアステル=ディアンジュール様と家族になりたいです。頼るだけじゃなくて、支えられるようになりたい。あたしをそばに、置いてくれますか?」
「それは……こちらこそ、こんな僕でいいのなら、全力で君を守るよ。
……な、何だかプロポーズし合ってるみたいだね」
真っ赤になって照れるアステル様に、つられてこっちまで赤くなる。プロポーズって、とっくに婚約してるから別におかしくは……ないわよね? アステル様が変な事言うから、だんだん恥ずかしくなってきた。
ええい、この際だ。
「でしたら折角ですから、あたしの事は『リジー』とお呼びください。『エリザベス=デミコ ロナル』は今や存在しないのですから」
「え……わ、分かった。リジー嬢」
「ただの『リジー』で!」
「リ、リジー……」
言う度に照れまくるものだから、つい何度も呼ばせてしまった。結局お昼休みが終わってしまい、魔法については少ししか聞けなかったけれど……婚約者との距離が縮められたので、よしとしよう。
0
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる