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呪われた伯爵編

ひと月経って

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 リジー=ボーデンとして新たに学園生活を始めてから、ひと月が経過した。
 罪人(※容疑者。執行猶予中である)エリザベスとの二重生活も、みんなの協力によりだいぶ慣れてきたと思う。と言うより、補修や課題提出でなるべく生徒たちの前に出る回数を減らしていった結果、徐々にフェードアウトできたと言うか。今や『エリザベス』は学園の怪談的な存在になりつつある。

「くっそー、エリザベスかと思って足引っ掛けてやったら演劇部員でさ。女子から総スカン食らっちまったぜ」
「お前もか? 俺もプラチナブロンドの女子生徒を見かけて、雑巾ぶつけてやったんだよ。そしたら女装したごっつい男だったんだぜ。何でも、学園祭でやる劇の練習中とかで……おかげで酷い目に遭ったぜ」

 そうそう、クラス委員のあたしは残念ながらクラブ活動には参加できなかったけど、リューネは演劇部に入部した。クラウン王国の文化として演劇に力を入れ、国外からも有名な劇団を招致している外相の娘という事で、リューネは演劇部にとって憧れの存在だったらしい。本人は「この耳じゃ、役者としての活躍はできそうにないけどね」と苦笑していたけれど。
 そんな彼女は部長を始めとする部員全員に協力を仰ぎ、今年の演目を『血塗られたエリザベス』にしてもらった。『エリザベス』をプロパガンダに利用したい殿下ならば、絶対に承諾すると見越してだ。
 そしてその劇の胆は、一見風変わりな脚本にあった。

「異世界人の少女を襲った四十体の鎧騎士の正体は、魔法で分裂したエリザベス本人だったのだ!」
「……いや、無理あり過ぎじゃない? 魔法って……」
「フィクションなんだから、これくらい荒唐無稽の方がいいのよ。いっそ『エリザベス』は魔女なんだぞーって事にした方が、殿下の主張する悪者説の説得力も下がるじゃない。それにね、フフフ♪」

 演劇部員が『エリザベス』になりきるため、プラチナブロンドのカツラ(経費で買った)を被り、休憩時間中に学園中をうろつき出したものだから、どこに本物がいるのか見分けが付かなくなった。文句を言われても「劇の練習中」で通してしまう。おかげで『エリザベス』として校内を歩いていても、ちょっかいを出してくる生徒はいなくなった。演劇部様様だ。


 こうして、とりあえずの平穏を手に入れたあたしは、空いた時間に図書館で調べものをするようになった。去年は勉強と王妃教育関連を除けば、恋愛小説や子供に読み聞かせをする絵本が多かったように思う。逃げたかったのだ、物語くらいは幸せな、作られた世界に。
 だけど今のあたしは違う……現実に降りかかってくる悪意と戦うために、知らなくてはならない。クラウン王国とは何なのか、神託とは何なのか……『エリザベス』とは、あたしとは何なのか。

 考えてみれば、あたしは与えられた情報ばかりを覚えさせられてきた。仮にも将来の王妃候補が、自分の事すらよく分かっていなかったのは問題よね。悪役令嬢としてだけじゃない……エリザベス=デミコ ロナル自体が、そもそも作られた存在だったのだ。

 まずは自身の事をおさらいしてみようと思う。

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