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学園サバイバル編
幕間④ある兵士の後悔(モブside)
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俺はとある罪人に自白させるための拷問を命じられていた。王族やそれに連なる身分の者への傷害は重罪で、大抵は処刑となるのだが、未遂……しかも容疑者の段階では自白した時点である程度の減刑も考慮される。例えば裏に黒幕がいる場合だ。
そして今回、異世界からの客人の殺害未遂容疑で拘束されたのは、テセウス王太子殿下の婚約者エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢だった。殿下は彼女の凶行は公爵に命じられた可能性があると見て、俺に拷問を命じた。こんな美しい令嬢を打つのは気が引けたが、私情を挟むべきではないと、せめて音が大きい割に威力を弱めて鞭を振るう。
エリザベス嬢は最初は小さく呻いていたものの、途中から歯を食い縛り、上手く痛みを逃しながら耐えていた。
(これは……叩かれ慣れている?)
不審なのはその事だけじゃない。何度か耳元で「早く認めた方がいい、殿下は減刑するとおっしゃっている」と自白を促したのだが、彼女は頑として認めず「全ては殿下の御心のままに」と返すだけだった。
公爵の命令ではなく、単独犯だった……いや、そもそも本当にエリザベス嬢が犯人なのだろうか? こんなにも殿下に従順な彼女が、嫉妬程度で殿下のご友人を害するだろうか?
そしてある日、ついに殿下は、彼女の持つ薔薇のような痣を焼き印で潰せと命じた。これは、ただの拷問ではない。エリザベス嬢は神託が告げた、未来の王太子妃の証である薔薇型の痣持ちなのだ。もしもこの件が冤罪であっても、焼き潰されてしまえば二度と神託の妃とは認められないだろう。いや、それどころか一生汚名を着せられたまま……
やり切れない思いでわざとゆっくりこてを熱している間、殿下はエリザベス嬢に何やら話しかけていた。罪を認めさせるための説得だろうか? きっとそんなものじゃない。俺は、薄々分かってきた。そのご友人とやらはエリザベス嬢と同じく、薔薇型の痣持ちなのだ。
(殿下は邪魔になった婚約者を排除するために、人殺しの罪を着せたんだ)
二人のやり取りから、俺はそう察した。そうだとしても、俺に冤罪を晴らしてやる事などできない。殿下の命令に粛々と従うだけ――
(頼む、認めてくれ……!)
焼き印を入れるため、胸元を大きく開かせると、彼女は恐怖と羞恥で唇を震わせた。顔も肌も紙のように白かったが、その中で鮮やかに咲き誇る薔薇の痣はあまりにも眩しく目に焼き付いた。
(殿下! 殿下はどうして、こんなにも美しい婚約者を……)
「……っ!!」
「やれ」
「あ″あ″あああぁぁぁッッ!!」
ジュッと肉の焦げる臭いと共に絶叫したのは、彼女だったのか――
翌日、俺は仕事を辞めた。もう二度と殿下のもとで働く事などできない。いや、あんな奴が王となる事を許すこんな国にもいられない。気を抜けばあの時の光景と臭いを思い出し、腹が空っぽになるまで吐いてしまう。殿下の言うがままに彼女を害した俺はきっと、地獄に落ちるだろう。
「いいえ、あなたにはまだやれる事があります」
そう言って俺を匿ったのは、王妃様だった。あのまま逃げ出さなければ、殿下に口封じされていたらしい。話によると、エリザベス嬢は執行猶予中のため、学園が身柄を預かる事になったのだそうだ。
「あの子が生徒会長だから、生徒を使って迫害してくるでしょうが、それでも王家の権力は及ばなくなるわ。エリザベスが恙なく学園生活を送れるよう、何をすればいいのか、分かるわね?」
それから俺は、警備員として学園に雇われ潜り込んだ。エリザベス嬢は新入生リジー=ボーデンとして学園に入学し直し、『エリザベス』との二重生活を送っている。
俺は彼女が入れ替わる際に、さりげなくトイレの近くに立って見張りをしたり、クラス委員に居場所を聞かれた時に見当違いの方向を教えたりしている。
今もたまに食事が喉を通らず、カウンセリングにかかっているのだが、本当に心のケアが必要なのは彼女の方だろう。あの時は鉄仮面を被っていたので顔は知られていないが、もしも自分を拷問した相手だとバレたらと思うと、声をかける事もできない。
浅ましい事に、自分は彼女に救われたいのだ。謝り、償って許してもらい……味方だと、分かって欲しい。
だが何より願うべきは、彼女の平穏。たとえ地獄に落ちても、あの王子からは今度こそ守り切らなくては。
同級生の貴族令嬢と楽しそうに言葉を交わす、『リジー』様と目が合った。俺はただ口元に笑みを浮かべ、敬礼した。
そして今回、異世界からの客人の殺害未遂容疑で拘束されたのは、テセウス王太子殿下の婚約者エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢だった。殿下は彼女の凶行は公爵に命じられた可能性があると見て、俺に拷問を命じた。こんな美しい令嬢を打つのは気が引けたが、私情を挟むべきではないと、せめて音が大きい割に威力を弱めて鞭を振るう。
エリザベス嬢は最初は小さく呻いていたものの、途中から歯を食い縛り、上手く痛みを逃しながら耐えていた。
(これは……叩かれ慣れている?)
不審なのはその事だけじゃない。何度か耳元で「早く認めた方がいい、殿下は減刑するとおっしゃっている」と自白を促したのだが、彼女は頑として認めず「全ては殿下の御心のままに」と返すだけだった。
公爵の命令ではなく、単独犯だった……いや、そもそも本当にエリザベス嬢が犯人なのだろうか? こんなにも殿下に従順な彼女が、嫉妬程度で殿下のご友人を害するだろうか?
そしてある日、ついに殿下は、彼女の持つ薔薇のような痣を焼き印で潰せと命じた。これは、ただの拷問ではない。エリザベス嬢は神託が告げた、未来の王太子妃の証である薔薇型の痣持ちなのだ。もしもこの件が冤罪であっても、焼き潰されてしまえば二度と神託の妃とは認められないだろう。いや、それどころか一生汚名を着せられたまま……
やり切れない思いでわざとゆっくりこてを熱している間、殿下はエリザベス嬢に何やら話しかけていた。罪を認めさせるための説得だろうか? きっとそんなものじゃない。俺は、薄々分かってきた。そのご友人とやらはエリザベス嬢と同じく、薔薇型の痣持ちなのだ。
(殿下は邪魔になった婚約者を排除するために、人殺しの罪を着せたんだ)
二人のやり取りから、俺はそう察した。そうだとしても、俺に冤罪を晴らしてやる事などできない。殿下の命令に粛々と従うだけ――
(頼む、認めてくれ……!)
焼き印を入れるため、胸元を大きく開かせると、彼女は恐怖と羞恥で唇を震わせた。顔も肌も紙のように白かったが、その中で鮮やかに咲き誇る薔薇の痣はあまりにも眩しく目に焼き付いた。
(殿下! 殿下はどうして、こんなにも美しい婚約者を……)
「……っ!!」
「やれ」
「あ″あ″あああぁぁぁッッ!!」
ジュッと肉の焦げる臭いと共に絶叫したのは、彼女だったのか――
翌日、俺は仕事を辞めた。もう二度と殿下のもとで働く事などできない。いや、あんな奴が王となる事を許すこんな国にもいられない。気を抜けばあの時の光景と臭いを思い出し、腹が空っぽになるまで吐いてしまう。殿下の言うがままに彼女を害した俺はきっと、地獄に落ちるだろう。
「いいえ、あなたにはまだやれる事があります」
そう言って俺を匿ったのは、王妃様だった。あのまま逃げ出さなければ、殿下に口封じされていたらしい。話によると、エリザベス嬢は執行猶予中のため、学園が身柄を預かる事になったのだそうだ。
「あの子が生徒会長だから、生徒を使って迫害してくるでしょうが、それでも王家の権力は及ばなくなるわ。エリザベスが恙なく学園生活を送れるよう、何をすればいいのか、分かるわね?」
それから俺は、警備員として学園に雇われ潜り込んだ。エリザベス嬢は新入生リジー=ボーデンとして学園に入学し直し、『エリザベス』との二重生活を送っている。
俺は彼女が入れ替わる際に、さりげなくトイレの近くに立って見張りをしたり、クラス委員に居場所を聞かれた時に見当違いの方向を教えたりしている。
今もたまに食事が喉を通らず、カウンセリングにかかっているのだが、本当に心のケアが必要なのは彼女の方だろう。あの時は鉄仮面を被っていたので顔は知られていないが、もしも自分を拷問した相手だとバレたらと思うと、声をかける事もできない。
浅ましい事に、自分は彼女に救われたいのだ。謝り、償って許してもらい……味方だと、分かって欲しい。
だが何より願うべきは、彼女の平穏。たとえ地獄に落ちても、あの王子からは今度こそ守り切らなくては。
同級生の貴族令嬢と楽しそうに言葉を交わす、『リジー』様と目が合った。俺はただ口元に笑みを浮かべ、敬礼した。
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