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プロローグ

王妃の謝罪

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 入って来られたのは、殿下の母君で王妃のオーガスタ殿下だった。平伏するわたくしたち親子を手で制し、優雅な物腰でソファに腰かける。立ちっぱなしだった事に気付いたわたくしたちも、エミィを除いて全員座った。

「久しぶりね、エリザベス嬢。まさか新年の挨拶に向かおうと思っていたら、投獄されていたなんて思いもよらなかったわ。身体の方はもう平気なの?」
「は、はい。おかげさまで……お医者様にも診ていただきましたし、熱もすっかり」

 ガタンと立ち上がりかけるおとうさんの袖を、おかあさんが引っ張って座らせる。そう言えば、どこまで知っているのか確認していなかった。婚約破棄と勘当ぐらいだったのかしら?

「テセウスが言うには、あなたの痣はもうないのだとか……確認させてもらっても?」

 王妃には逆らえず、わたくしは至近距離まで失礼すると、体操服の前を寛げてみせる。

「ああ、なんて事なの……!」
「ひどいわ、女の子の体に!」
「……っ!!」

 王妃は絶句し、両親は涙を浮かべて拳を握りしめていた。自分でもまだ見慣れないのだ、彼らにとってはさらにショックだっただろう。薔薇の痣があった箇所には焼きごてが押し当てられ、酷い火傷による水ぶくれができていた。薔薇模様は変形し、まるで小さな悪魔の顔に見える。『呪いの刻印』……絵本に書いてあった表現そのものだ。

「謝って済む事ではないけれど……エリザベス嬢、愚息に代わって謝罪するわ。敗戦国から嫁いできたわたくしは、この国での立場が弱いのは仕方のない事だと思っていました。ですが自分が情けない、息子一人の暴走も止められないなんて……」
「あ、頭をお上げください王妃様! わたくしが申し上げるのも何ですが、これでよかったとも思えるのです」

 訝しげに顔を上げる王妃に、わたくしは出会った頃から殿下の威圧的な態度を苦手としていた事を明かした。お父様からのプレッシャーもあったので、一概に殿下お一人の責任という訳ではないのだけれど。

「そう……あなたにとっては体に傷を付けられた恨みよりも、あの子からの解放の方が大事みたいね」
「お母君の前で悪し様に言うのは心苦しいのですが、わたくしが将来の王妃というのも重荷に感じておりましたし、正直ホッとしております。
それよりも、これから……公爵家を勘当となっても卒業まで学園生活を送る事について、詳細をお聞きしたいのです」

 両親が迎えに来てくれた事で、平民になる事は避けられたし、嫁ぎ先も既に決まっているという。けれど、つい先ほどの同級生からの悪意を思うと、果たして無事に学業を修められるのか不安になってくる。

「それについては、わたくしからご説明させていただきます」

 わたくしの疑問に答えたのは、学園長だった。

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