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プロローグ
血塗られたエリザベス
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あるところに、エリザベスという、それはそれは美しいお姫様がいました。
お姫様の白金の髪はきらきらと輝き、瞳はまるでエメラルドのよう。
人々はこう思います。
『こんなにも美しいお姫様は、その心も美しいに違いない』
ある時、神様からのお告げがありました。
『胸に薔薇の刻印を持つ姫を、王子の妃にせよ』
ちょうどエリザベスの胸には、赤い薔薇のような痣がありました。
そこで、王子様とエリザベスは婚約したのです。
誰もがこの二人を祝福し、幸せを願いました。
ところがある日、こことは違う世界から一人の乙女が迷い込みました。
なんと、その乙女の胸にも薔薇のような痣があったのです。
王子様は迷いました。
『どちらが本当の私の妃なのだろう』
その迷いを知ったエリザベスは、乙女に激しく嫉妬しました。
何故なら王子と出会い、婚約したのは自分の方が先だったからです。
後から出てきて王子の心を奪われるのは、プライドが許しませんでした。
エリザベスは邪魔な乙女を殺そうと、斧で襲いかかりました。
けれどもそこへ、間一髪で王子様が現れ、乙女を助け出します。
王子様は乙女を抱きしめ、エリザベスにこう言い放ちました。
『世界一美しい姿をしているが、その心は世界一醜いのだな。
そんなお前を私の妃にする事はできない。
お前にふさわしい夫は、私が決めてやろう』
エリザベスの胸の薔薇には、二度と王子様と結ばれぬよう、呪いの刻印が刻まれました。
そして醜い心に似合いの、化け物のように恐ろしい顔の伯爵と結婚させられたのです。
こうして王子様は薔薇の痣の乙女と結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「どうだ、この話は? 【血塗られたエリザベス】という絵本なんだが、よくできてると思わないか? 貴様が懇意にしていた孤児院のガキどもに読んで聞かせたら喜ぶんじゃないか……ははははっ!」
鉄格子を隔てた向こう側、動かない影に向かって絵本を見せびらかしながら、男は高笑いしてみせる。が、何の反応も返ってこない事に舌打ちをすると、興味をなくしたように絵本をバサリと投げ捨てて出て行った。
牢屋の中には、胸部を包帯でぐるぐる巻きにされたプラチナブロンドの女が、虚ろな瞳で横たわっていた。
彼女の名は、エリザベス=デミコ ロナル――クラウン王国王太子テセウス=ラ=クラウンの元・婚約者で、彼がたった今床に放り投げた絵本【血塗られたエリザベス】のモデルとなった少女だった。
お姫様の白金の髪はきらきらと輝き、瞳はまるでエメラルドのよう。
人々はこう思います。
『こんなにも美しいお姫様は、その心も美しいに違いない』
ある時、神様からのお告げがありました。
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そこで、王子様とエリザベスは婚約したのです。
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なんと、その乙女の胸にも薔薇のような痣があったのです。
王子様は迷いました。
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その迷いを知ったエリザベスは、乙女に激しく嫉妬しました。
何故なら王子と出会い、婚約したのは自分の方が先だったからです。
後から出てきて王子の心を奪われるのは、プライドが許しませんでした。
エリザベスは邪魔な乙女を殺そうと、斧で襲いかかりました。
けれどもそこへ、間一髪で王子様が現れ、乙女を助け出します。
王子様は乙女を抱きしめ、エリザベスにこう言い放ちました。
『世界一美しい姿をしているが、その心は世界一醜いのだな。
そんなお前を私の妃にする事はできない。
お前にふさわしい夫は、私が決めてやろう』
エリザベスの胸の薔薇には、二度と王子様と結ばれぬよう、呪いの刻印が刻まれました。
そして醜い心に似合いの、化け物のように恐ろしい顔の伯爵と結婚させられたのです。
こうして王子様は薔薇の痣の乙女と結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「どうだ、この話は? 【血塗られたエリザベス】という絵本なんだが、よくできてると思わないか? 貴様が懇意にしていた孤児院のガキどもに読んで聞かせたら喜ぶんじゃないか……ははははっ!」
鉄格子を隔てた向こう側、動かない影に向かって絵本を見せびらかしながら、男は高笑いしてみせる。が、何の反応も返ってこない事に舌打ちをすると、興味をなくしたように絵本をバサリと投げ捨てて出て行った。
牢屋の中には、胸部を包帯でぐるぐる巻きにされたプラチナブロンドの女が、虚ろな瞳で横たわっていた。
彼女の名は、エリザベス=デミコ ロナル――クラウン王国王太子テセウス=ラ=クラウンの元・婚約者で、彼がたった今床に放り投げた絵本【血塗られたエリザベス】のモデルとなった少女だった。
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