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第三章 港町の新米作家編
学園からの刺客
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カメラのフラッシュを焚かれ、「撮られた!」と気付いて慌てて顔を手で覆う……手遅れだったが。
その間にガッツ先輩は電光石火の速さで光った場所へ飛び出していき、カメラを持った少年の耳を引っ張って連れてきた。少年と言っても歳は私とそう変わらないように見えるが。
「いててて……勘弁してくださいよ~。噂のホイールケーキ屋台を撮影したかっただけなんですから」
「噂って何の事だ?」
彼の耳から手を離さないまま、威圧しながら先を促すガッツ先輩。涙目になりながら、少年は事情説明を始めた。
まず、彼の名はジョセフ=ブラッドレイ。スティリアム王立学園の三年生で、現在は新聞部の部長らしい……本当に歳が近くて、私の事を知っていたらと思うと気が気じゃない。
今回狙っているスクープは、女生徒たちの間で大人気の恋愛小説【妖精王子】シリーズの作者、K=ホイールの正体だった。ギクリとするが、彼の反応を見る限りでは、まだバレていないようだ。
第一作目ヒロインのモデルとなったベアトリス様を始めとして、学園の事情に詳しい事から、王宮や学園関係者ではないか。あるいは後書きの『マミー=ローファット』という名前から、第二王子の護衛騎士スイング様の知り合いではないか、等々憶測が飛び交っているようだが、微妙に真実を突いてきていてヒヤヒヤする。
そんな時、我こそが作者K=ホイールだと名乗りを上げる生徒がいたのである。
「だ……誰?」
「第二王子の懐刀ウォルト公爵の婚約者……の妹、サラ=ゾーン伯爵令嬢です」
がくーっ!
(何やってんのよ、サラぁ!!)
その名を耳にした瞬間、脱力してテーブルに突っ伏す。
そりゃあ、作中に登場する『カランコエ』は日記にも書いていたから、盗み見ていたサラにもある程度情報はあるけれど……ちょっと待って、これってサラには私が生きているのを知られてるって事よね? まずいわ、口外してないかしら、あの子?
「するってーと、そのサラとかいうお嬢様がK=ホイール先生なのかい?」
ガッツ先輩は素知らぬ顔で訊ねている。すぐ横にいる私には一切視線を送らないのはさすがだ。
「本人によればそうらしいんですが……今となっちゃ、誰も本気にしてませんよ」
サラは入学前に病を患っていたらしく、春の終わり頃に学園に編入してきた。リリオルザ=ヴァリー嬢に匹敵する愛らしさに男子生徒は夢中になったが、テストの度にその学力が知れ渡る事になり、さらに虚言癖もあり人気はさざ波のように引いていったんだとか。
「虚言癖って……」
「ウォルト公爵は本当はサラ嬢を愛していたけれど、婚約者がいたため泣く泣く身を引き、彼女の姉君で妥協したんだそうです。でもさすがに、婚約者が生死不明になってから衰弱するほど落ち込んでいると聞けば……リリーもサラ嬢の事は否定してましたし」
相変わらずなのね、サラ……私のものをいつも欲しがっていたけれど、K=ホイールの正体を知ったら今度は成り代わりを画策してきたか。それならある意味、本物が私である事はバラす心配はなさそうで、ハラハラするやら安心するやら。
(……ん?)
「ねぇ、『リリー』ってもしかして、さっきから名前が出ている……」
「ああ、はい。第二王子のお気に入りで将来の側妃とも言われている、リリオルザ=ヴァリー嬢の事ですよ。僕の友人でもあるんですがね。実は僕がこの町へ来たのも、彼女に頼まれたからなんです」
何ですって、リリオルザ嬢が!? 今度は一体何を企んでいるの。
「サラ嬢の話は妄言でしたが、途中までは信憑性もありまして。それが小説を連載していた【ガラン堂新聞】。本社のあるここ、キトピロはポーチェ男爵領でしょう? サラ嬢の母君はポーチェ男爵の娘さんなんですよ」
(ぎえっ! 全然関係ない方向から正体に迫られてる!!)
「貴方がた、さっきセンタフレア人と妖精王子について話してたから、ガラン堂新聞の人ですよね? K=ホイール先生についてお話を伺えませんか?」
思わぬところからピンチに陥り、私は内心冷や汗ものだった。これまでもK=ホイールに会わせろという自称ファンの人たちが新聞社に押しかけてきた事はあった。が、そういう時は大抵マリフィーさんや編集長が相手して追っ払ってくれる。
けれどこのジョセフ様は、そうした手順を踏んでいると分かった上で、ささいな情報から推理して直接K=ホイールに接触しようとしている。しかもリリオルザ嬢と親しい間柄で、たっての頼みを聞いてわざわざやってきたのだ。
(怖い……どうしよう? 外で話してるから、適当に誤魔化すなんて出来ない)
フーさんよりも執拗に真実を暴こうとする彼に恐怖を感じていると、ガタッとガッツ先輩が立ち上がった。
「その前に、お前がさっき撮った写真を出せ」
「へ? だから、これは屋台で……」
「いいから」
言い訳を封じて催促する先輩に、ジョセフ様は渋々写真を手渡した。その場で見られる代わりに、フイルムによる複製ができないタイプのようだ。メディア子爵に撮ってもらった写真はやたら手間がかかっていたけれど、カメラも日々進化しているのね。
その間にガッツ先輩は電光石火の速さで光った場所へ飛び出していき、カメラを持った少年の耳を引っ張って連れてきた。少年と言っても歳は私とそう変わらないように見えるが。
「いててて……勘弁してくださいよ~。噂のホイールケーキ屋台を撮影したかっただけなんですから」
「噂って何の事だ?」
彼の耳から手を離さないまま、威圧しながら先を促すガッツ先輩。涙目になりながら、少年は事情説明を始めた。
まず、彼の名はジョセフ=ブラッドレイ。スティリアム王立学園の三年生で、現在は新聞部の部長らしい……本当に歳が近くて、私の事を知っていたらと思うと気が気じゃない。
今回狙っているスクープは、女生徒たちの間で大人気の恋愛小説【妖精王子】シリーズの作者、K=ホイールの正体だった。ギクリとするが、彼の反応を見る限りでは、まだバレていないようだ。
第一作目ヒロインのモデルとなったベアトリス様を始めとして、学園の事情に詳しい事から、王宮や学園関係者ではないか。あるいは後書きの『マミー=ローファット』という名前から、第二王子の護衛騎士スイング様の知り合いではないか、等々憶測が飛び交っているようだが、微妙に真実を突いてきていてヒヤヒヤする。
そんな時、我こそが作者K=ホイールだと名乗りを上げる生徒がいたのである。
「だ……誰?」
「第二王子の懐刀ウォルト公爵の婚約者……の妹、サラ=ゾーン伯爵令嬢です」
がくーっ!
(何やってんのよ、サラぁ!!)
その名を耳にした瞬間、脱力してテーブルに突っ伏す。
そりゃあ、作中に登場する『カランコエ』は日記にも書いていたから、盗み見ていたサラにもある程度情報はあるけれど……ちょっと待って、これってサラには私が生きているのを知られてるって事よね? まずいわ、口外してないかしら、あの子?
「するってーと、そのサラとかいうお嬢様がK=ホイール先生なのかい?」
ガッツ先輩は素知らぬ顔で訊ねている。すぐ横にいる私には一切視線を送らないのはさすがだ。
「本人によればそうらしいんですが……今となっちゃ、誰も本気にしてませんよ」
サラは入学前に病を患っていたらしく、春の終わり頃に学園に編入してきた。リリオルザ=ヴァリー嬢に匹敵する愛らしさに男子生徒は夢中になったが、テストの度にその学力が知れ渡る事になり、さらに虚言癖もあり人気はさざ波のように引いていったんだとか。
「虚言癖って……」
「ウォルト公爵は本当はサラ嬢を愛していたけれど、婚約者がいたため泣く泣く身を引き、彼女の姉君で妥協したんだそうです。でもさすがに、婚約者が生死不明になってから衰弱するほど落ち込んでいると聞けば……リリーもサラ嬢の事は否定してましたし」
相変わらずなのね、サラ……私のものをいつも欲しがっていたけれど、K=ホイールの正体を知ったら今度は成り代わりを画策してきたか。それならある意味、本物が私である事はバラす心配はなさそうで、ハラハラするやら安心するやら。
(……ん?)
「ねぇ、『リリー』ってもしかして、さっきから名前が出ている……」
「ああ、はい。第二王子のお気に入りで将来の側妃とも言われている、リリオルザ=ヴァリー嬢の事ですよ。僕の友人でもあるんですがね。実は僕がこの町へ来たのも、彼女に頼まれたからなんです」
何ですって、リリオルザ嬢が!? 今度は一体何を企んでいるの。
「サラ嬢の話は妄言でしたが、途中までは信憑性もありまして。それが小説を連載していた【ガラン堂新聞】。本社のあるここ、キトピロはポーチェ男爵領でしょう? サラ嬢の母君はポーチェ男爵の娘さんなんですよ」
(ぎえっ! 全然関係ない方向から正体に迫られてる!!)
「貴方がた、さっきセンタフレア人と妖精王子について話してたから、ガラン堂新聞の人ですよね? K=ホイール先生についてお話を伺えませんか?」
思わぬところからピンチに陥り、私は内心冷や汗ものだった。これまでもK=ホイールに会わせろという自称ファンの人たちが新聞社に押しかけてきた事はあった。が、そういう時は大抵マリフィーさんや編集長が相手して追っ払ってくれる。
けれどこのジョセフ様は、そうした手順を踏んでいると分かった上で、ささいな情報から推理して直接K=ホイールに接触しようとしている。しかもリリオルザ嬢と親しい間柄で、たっての頼みを聞いてわざわざやってきたのだ。
(怖い……どうしよう? 外で話してるから、適当に誤魔化すなんて出来ない)
フーさんよりも執拗に真実を暴こうとする彼に恐怖を感じていると、ガタッとガッツ先輩が立ち上がった。
「その前に、お前がさっき撮った写真を出せ」
「へ? だから、これは屋台で……」
「いいから」
言い訳を封じて催促する先輩に、ジョセフ様は渋々写真を手渡した。その場で見られる代わりに、フイルムによる複製ができないタイプのようだ。メディア子爵に撮ってもらった写真はやたら手間がかかっていたけれど、カメラも日々進化しているのね。
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