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第二章 針の筵の婚約者編
スープに何があったのか
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※下ネタや食べ物を粗末にする描写があります
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鍵が何かを訴えるように赤い光を示したスープは、何故か孤児院で洗濯に使った石鹸のような匂いがした。そう告げると訝しげな顔をしたクララが、失礼します、とスープを一口飲んだ。
その瞬間、ブッと吐き出し、鬼のような形相で食堂端に待機していた料理長に掴みかかった。
「誰だ、このスープを出したのは!? お嬢様に何を食べさせようとした!」
「ひっ!」
クララの剣幕に料理長はすっかり怯えている。こんな乱暴な口調、した事なかったのにどうしたのかしら。
そこへ、軽薄そうな若い料理人がへらへらしながら手を上げた。
「そう怒るなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」
「またあんた? スープに何入れたのよ」
嫌そうに顔を顰めるクララの反応から、さっき話していたいい加減な男らしい事が分かる。若い男はにやりと笑って肩を竦めた。
「美味かったか? 俺のションベン」
バキッ!
言った瞬間、クララが顎にパンチを入れた。非力だが急所を狙った一撃に、さしもの男もふらついている。その胸倉を掴み、クララは振り返って叫んだ。
「お嬢様、こいつ最低です。今すぐもぎましょう!」
「もぎ…うん、待ってクララ。まあ最低なのは同意だけど、ちょっとおかしいわ。だってスープからは、石鹸の匂いがしたのよ」
彼が私のスープに嫌がらせをしたのは分かる。だけど…ずれている自覚はあるが、憤りよりも気になる事があった。
「石鹸じゃありません、酢です! スープには酢が大量に入れられていました」
「えっ、酢……?」
あれは、酢の匂いだった…? それを何故か石鹸だと勘違いしていた事に首を傾げる私の横を、チャールズ様が早足で通り過ぎ、クララに水の入ったコップを渡す。
「これで口を濯げ。…ジャック、お前には失望した」
言うが早いか、ジャックと呼ばれた料理人は殴り飛ばされていた。女であるクララと殿下の護衛を務めるチャールズ様では、威力が段違いだ。床に転がったジャックにチャールズ様は乗っかり、続けて何発も拳を入れていく。
「お前は問題は起こすが、料理に対しては真摯に向き合っていた。私も…この家では唯一、お前を信用していた。だが、この仕打ちは何だ? 私の婚約者が公爵家に来た初日に、彼女が口にする料理にお前は、何をした?」
「ぐっ、かは…っ」
無抵抗のジャックを何の表情も浮かべず、淡々と喋りながら殴り続けるチャールズ様にぞっとする。私が慌てて止めた時には、ジャックの顔面は血塗れになっていた。
「公爵様、もうその辺で…死んでしまいます!」
「アイシャ嬢…このジャックは殿下がお忍びで下町の料亭に行った際に、貴族と揉めていたのを我が公爵家の料理人にと推薦されたのだ。振る舞いは粗野で無礼だが、料理の腕と信念は本物だと仰ってな。
その殿下からの信頼に、こいつは泥を塗った」
どこか遠くを見るような目で殺気を放つチャールズ様に、これは私では止められないと悟った。この御方は婚約者への嫌がらせや料理への冒涜よりもずっとずっと、カーク殿下に恥をかかせる事が許せないのだ。
「ククッ、あーっはっはっは!」
今にも殺されそうになっていると言うのに、ジャックが笑い出したので、ぎょっとしてチャールズ様と共に飛び退く。ジャックは口の中が切れて辛そうだったが、不敵に見返す。
「チャールズの旦那…あんたこそ事情はどうあれ、アイシャ様を婚約者と決めて公爵家で預かったんだろう? だったらしっかり守ってやらにゃダメじゃねぇか。ここが伏魔殿だって事、あんたが一番よく知ってるはずだぜ」
「黙れ、貴様が言えた事か!」
カッとなったチャールズ様の前に咄嗟に手を出し、私はジャックに聞く。彼が言えた事じゃない…その通りだけれど、嫌がらせをしておきながら忠告など、態度が一貫していないのが気になったのだ。
「ジャックと言ったわね、貴方……何故こんな事をするの? 私が嫌いだから、ここまで料理人としての信念を曲げられるの?」
「はあ、呑気なものだな……公爵家では『何故』なんて考えるだけ無駄だ。
嫌いかどうかだって? そんなもの関係あるか。ここにあんたを歓迎している者は一人もいない。今の内に荷物を纏める事をお勧めするぜ」
そう言ったジャックの目に浮かんでいた感情は、憐みだった。
彼の言っている事は、本当なのだろう。事実、屋敷を案内された時から私は気遣われる事なく、嫌がらせを受けてきたし、ジャックのした事もそこに含まれる。
(だけど、何かが引っ掛かる――ジャックは本当に悪意から、こんな真似をしたの?)
「荷物を纏めるのはお前だ、ジャック。クビにしてやるから、すぐにここから出て行ってもらおう」
「……へーい」
へらへら笑いを保ったまま、ジャックは立ち上がって食堂を出て行く。その姿に、何だか分からないがもやもやした。まだ考えが纏まらないけれど、彼をこのまま追い出していいのだろうか。
「公爵様、ジャックはカーク殿下の推薦で雇い入れたのでしょう? 本当によろしいのですか?」
「もちろんジャック一人のせいじゃない。使用人の粗相は家主の責任でもある。殿下にはちゃんと伝えておくさ。…それより、君もごたごたに巻き込まれて疲れただろう。先に部屋で休んでいてくれないか?」
チャールズ様はこれから料理人たちに詳細を確認するらしい。クララも毒見をしたと言う事でしばらく借りたいと言われ、私は仕方なく一人で部屋に下がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『納得、していないんだろう? 本当は』
実家から持って来てもらった鏡台の前には、カランコエが立っていた。望めばいつでもそばに居てくれる……つまり今、私はカランコエを必要としていた。
「仕方がないわ。彼は雇い主の婚約者に嫌がらせをしたのだし、料理人としても最低の行いだった。そりゃあ気になる事はあるけれど、ここの主人であるチャールズ様の判断に口は挟めないわよ」
『ボクは嫌いじゃないな、彼の事……何だか話が合いそうな気がするよ』
まさかカランコエがジャックを庇うとは思わず、私は目を丸くした。
「そうなの? 意外ね」
『だって彼、隠そうともしなかっただろ? 尿の匂いはアンモニアと言う成分なんだが、スープに混ぜたところですぐバレる。あれは、キミにスープを飲ませないためにした事だと思うよ』
「私に飲ませない…何のために? それに、最初は気付きもしなかったわ。魔法の鍵が光らなければ、そのまま口にして……」
カランコエに答えながら、それは違う、と心のどこかで思う。私は鍵が光る前、スープの匂いを嗅いで孤児院で洗濯を手伝った時の事を思い出したのだ。てっきり洗濯石鹸だと思い込んでいたけれど、実際は酢の匂いだった。
確かに、洗濯には酢も使われていた。洗っただけでは汚れたシーツの匂いや石鹸カスは残ってしまう。なので酒蔵から粗悪な酢を格安で譲ってもらい、そこに漬け込んだ後で濯げば綺麗さっぱり落ちるのだそうだ。
私は料理も洗濯もたまのボランティアぐらいしかせず、酢の匂いに馴染みがなかった。だから何の匂いかまでは判別できなかったのだが、クララによればアンモニアを中和するために大量に酢が使われたと言う事なのだろう。
「それじゃあ……魔法の鍵が光ったのは、その事を伝えるため? 体に毒だからとか」
『どうだろうね? 尿自体は別に毒じゃないし、時として薬にもなる。おまけに中和もされていた。そもそも夕食のメニューはほとんど妊娠中に向かない食材だったしね。なのにあのスープにだけ反応したって事は、それ以上の何かがあったのかも』
それ以上の何か……本物の毒かしら。だとすれば嫌がらせの域を超えている。と言うか、ジャックが毒を盛ったのなら、わざわざ別の嫌がらせをする意味が分からない。さらに中和まで――
「そうか……スープに酢を入れたのは、別の人間なのだわ」
彼は一掴み分の量を完璧に把握していた。料理人としての経験から、計量器を使わなくとも目分量で分かるのだ。そんな彼がもし中和まで自分で行うなら、酢の味も匂いも残るほど過剰に入れるだろうか?
そうなると他の料理人が、ジャックの粗相を誤魔化すために焦ってしたと思われるが……それなら新しい皿を用意すれば済む話。彼等はどうしても、私にそれを食べさせなければいけなかった。その「仕掛け」は失敗したら替えが効くものではなかったから。
「ジャックは私が口にしないように、わざとああしたのよね。一人も歓迎していないって言ってたし、表向きは合わせたように振る舞わないといけないから、絶対気付くような方法で」
理由は分かったが、今度は「毒」の事が気になる。もし私が口にして症状が出ていたら…いや、今だってチャールズ様が押さえてあるから、証拠が残ってしまうのだ。何より気に入らないからと言って毒殺までするのは、明らかにやり過ぎだろう。となると、やっぱり毒だと考えるのは早計だった? でも魔法の鍵が反応していたのに、何もないとは――
「あーっ、分かんない! もやもやする~」
『それなら、ジャックに聞けば? 彼は「何か」を見たはずだ』
そのスープに何があったのか。
私もそうしたいところだけれど、クビにされた彼に接触するのを、チャールズ様が許すかしら。ジャック自身も詳細は語らずに犯人扱いを受け入れてるようだし……
けれどカランコエは、そんな私の迷いを一刀両断した。
『このままぼやぼやしていたら、真犯人に口封じで消されるかもよ』
ハッとなった私は、細かい事は後回しにして急いで部屋を飛び出した。
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鍵が何かを訴えるように赤い光を示したスープは、何故か孤児院で洗濯に使った石鹸のような匂いがした。そう告げると訝しげな顔をしたクララが、失礼します、とスープを一口飲んだ。
その瞬間、ブッと吐き出し、鬼のような形相で食堂端に待機していた料理長に掴みかかった。
「誰だ、このスープを出したのは!? お嬢様に何を食べさせようとした!」
「ひっ!」
クララの剣幕に料理長はすっかり怯えている。こんな乱暴な口調、した事なかったのにどうしたのかしら。
そこへ、軽薄そうな若い料理人がへらへらしながら手を上げた。
「そう怒るなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」
「またあんた? スープに何入れたのよ」
嫌そうに顔を顰めるクララの反応から、さっき話していたいい加減な男らしい事が分かる。若い男はにやりと笑って肩を竦めた。
「美味かったか? 俺のションベン」
バキッ!
言った瞬間、クララが顎にパンチを入れた。非力だが急所を狙った一撃に、さしもの男もふらついている。その胸倉を掴み、クララは振り返って叫んだ。
「お嬢様、こいつ最低です。今すぐもぎましょう!」
「もぎ…うん、待ってクララ。まあ最低なのは同意だけど、ちょっとおかしいわ。だってスープからは、石鹸の匂いがしたのよ」
彼が私のスープに嫌がらせをしたのは分かる。だけど…ずれている自覚はあるが、憤りよりも気になる事があった。
「石鹸じゃありません、酢です! スープには酢が大量に入れられていました」
「えっ、酢……?」
あれは、酢の匂いだった…? それを何故か石鹸だと勘違いしていた事に首を傾げる私の横を、チャールズ様が早足で通り過ぎ、クララに水の入ったコップを渡す。
「これで口を濯げ。…ジャック、お前には失望した」
言うが早いか、ジャックと呼ばれた料理人は殴り飛ばされていた。女であるクララと殿下の護衛を務めるチャールズ様では、威力が段違いだ。床に転がったジャックにチャールズ様は乗っかり、続けて何発も拳を入れていく。
「お前は問題は起こすが、料理に対しては真摯に向き合っていた。私も…この家では唯一、お前を信用していた。だが、この仕打ちは何だ? 私の婚約者が公爵家に来た初日に、彼女が口にする料理にお前は、何をした?」
「ぐっ、かは…っ」
無抵抗のジャックを何の表情も浮かべず、淡々と喋りながら殴り続けるチャールズ様にぞっとする。私が慌てて止めた時には、ジャックの顔面は血塗れになっていた。
「公爵様、もうその辺で…死んでしまいます!」
「アイシャ嬢…このジャックは殿下がお忍びで下町の料亭に行った際に、貴族と揉めていたのを我が公爵家の料理人にと推薦されたのだ。振る舞いは粗野で無礼だが、料理の腕と信念は本物だと仰ってな。
その殿下からの信頼に、こいつは泥を塗った」
どこか遠くを見るような目で殺気を放つチャールズ様に、これは私では止められないと悟った。この御方は婚約者への嫌がらせや料理への冒涜よりもずっとずっと、カーク殿下に恥をかかせる事が許せないのだ。
「ククッ、あーっはっはっは!」
今にも殺されそうになっていると言うのに、ジャックが笑い出したので、ぎょっとしてチャールズ様と共に飛び退く。ジャックは口の中が切れて辛そうだったが、不敵に見返す。
「チャールズの旦那…あんたこそ事情はどうあれ、アイシャ様を婚約者と決めて公爵家で預かったんだろう? だったらしっかり守ってやらにゃダメじゃねぇか。ここが伏魔殿だって事、あんたが一番よく知ってるはずだぜ」
「黙れ、貴様が言えた事か!」
カッとなったチャールズ様の前に咄嗟に手を出し、私はジャックに聞く。彼が言えた事じゃない…その通りだけれど、嫌がらせをしておきながら忠告など、態度が一貫していないのが気になったのだ。
「ジャックと言ったわね、貴方……何故こんな事をするの? 私が嫌いだから、ここまで料理人としての信念を曲げられるの?」
「はあ、呑気なものだな……公爵家では『何故』なんて考えるだけ無駄だ。
嫌いかどうかだって? そんなもの関係あるか。ここにあんたを歓迎している者は一人もいない。今の内に荷物を纏める事をお勧めするぜ」
そう言ったジャックの目に浮かんでいた感情は、憐みだった。
彼の言っている事は、本当なのだろう。事実、屋敷を案内された時から私は気遣われる事なく、嫌がらせを受けてきたし、ジャックのした事もそこに含まれる。
(だけど、何かが引っ掛かる――ジャックは本当に悪意から、こんな真似をしたの?)
「荷物を纏めるのはお前だ、ジャック。クビにしてやるから、すぐにここから出て行ってもらおう」
「……へーい」
へらへら笑いを保ったまま、ジャックは立ち上がって食堂を出て行く。その姿に、何だか分からないがもやもやした。まだ考えが纏まらないけれど、彼をこのまま追い出していいのだろうか。
「公爵様、ジャックはカーク殿下の推薦で雇い入れたのでしょう? 本当によろしいのですか?」
「もちろんジャック一人のせいじゃない。使用人の粗相は家主の責任でもある。殿下にはちゃんと伝えておくさ。…それより、君もごたごたに巻き込まれて疲れただろう。先に部屋で休んでいてくれないか?」
チャールズ様はこれから料理人たちに詳細を確認するらしい。クララも毒見をしたと言う事でしばらく借りたいと言われ、私は仕方なく一人で部屋に下がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『納得、していないんだろう? 本当は』
実家から持って来てもらった鏡台の前には、カランコエが立っていた。望めばいつでもそばに居てくれる……つまり今、私はカランコエを必要としていた。
「仕方がないわ。彼は雇い主の婚約者に嫌がらせをしたのだし、料理人としても最低の行いだった。そりゃあ気になる事はあるけれど、ここの主人であるチャールズ様の判断に口は挟めないわよ」
『ボクは嫌いじゃないな、彼の事……何だか話が合いそうな気がするよ』
まさかカランコエがジャックを庇うとは思わず、私は目を丸くした。
「そうなの? 意外ね」
『だって彼、隠そうともしなかっただろ? 尿の匂いはアンモニアと言う成分なんだが、スープに混ぜたところですぐバレる。あれは、キミにスープを飲ませないためにした事だと思うよ』
「私に飲ませない…何のために? それに、最初は気付きもしなかったわ。魔法の鍵が光らなければ、そのまま口にして……」
カランコエに答えながら、それは違う、と心のどこかで思う。私は鍵が光る前、スープの匂いを嗅いで孤児院で洗濯を手伝った時の事を思い出したのだ。てっきり洗濯石鹸だと思い込んでいたけれど、実際は酢の匂いだった。
確かに、洗濯には酢も使われていた。洗っただけでは汚れたシーツの匂いや石鹸カスは残ってしまう。なので酒蔵から粗悪な酢を格安で譲ってもらい、そこに漬け込んだ後で濯げば綺麗さっぱり落ちるのだそうだ。
私は料理も洗濯もたまのボランティアぐらいしかせず、酢の匂いに馴染みがなかった。だから何の匂いかまでは判別できなかったのだが、クララによればアンモニアを中和するために大量に酢が使われたと言う事なのだろう。
「それじゃあ……魔法の鍵が光ったのは、その事を伝えるため? 体に毒だからとか」
『どうだろうね? 尿自体は別に毒じゃないし、時として薬にもなる。おまけに中和もされていた。そもそも夕食のメニューはほとんど妊娠中に向かない食材だったしね。なのにあのスープにだけ反応したって事は、それ以上の何かがあったのかも』
それ以上の何か……本物の毒かしら。だとすれば嫌がらせの域を超えている。と言うか、ジャックが毒を盛ったのなら、わざわざ別の嫌がらせをする意味が分からない。さらに中和まで――
「そうか……スープに酢を入れたのは、別の人間なのだわ」
彼は一掴み分の量を完璧に把握していた。料理人としての経験から、計量器を使わなくとも目分量で分かるのだ。そんな彼がもし中和まで自分で行うなら、酢の味も匂いも残るほど過剰に入れるだろうか?
そうなると他の料理人が、ジャックの粗相を誤魔化すために焦ってしたと思われるが……それなら新しい皿を用意すれば済む話。彼等はどうしても、私にそれを食べさせなければいけなかった。その「仕掛け」は失敗したら替えが効くものではなかったから。
「ジャックは私が口にしないように、わざとああしたのよね。一人も歓迎していないって言ってたし、表向きは合わせたように振る舞わないといけないから、絶対気付くような方法で」
理由は分かったが、今度は「毒」の事が気になる。もし私が口にして症状が出ていたら…いや、今だってチャールズ様が押さえてあるから、証拠が残ってしまうのだ。何より気に入らないからと言って毒殺までするのは、明らかにやり過ぎだろう。となると、やっぱり毒だと考えるのは早計だった? でも魔法の鍵が反応していたのに、何もないとは――
「あーっ、分かんない! もやもやする~」
『それなら、ジャックに聞けば? 彼は「何か」を見たはずだ』
そのスープに何があったのか。
私もそうしたいところだけれど、クビにされた彼に接触するのを、チャールズ様が許すかしら。ジャック自身も詳細は語らずに犯人扱いを受け入れてるようだし……
けれどカランコエは、そんな私の迷いを一刀両断した。
『このままぼやぼやしていたら、真犯人に口封じで消されるかもよ』
ハッとなった私は、細かい事は後回しにして急いで部屋を飛び出した。
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