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17:拙者、主の覚醒を祝うでござる

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 出立の準備は寝ている間に集落の女たちが手伝ってくれていたらしく、俺はますますアピス酋長に頭が上がらなくなりそうだった。

「恩に着せて一晩お相手願ってもよかったのだが、そこの聖女様が食い付きそうな勢いで睨んでくるのでな」

 夕食の席でからかうように言ってくる酋長に、マヤ様はプクッと頬を膨らませてそっぽを向いた。可愛い……

「実際、夜這いを仕掛けられたんだが。あれは命令か?」
「しろとも言っていないが、そこは個人の判断に任せてある」
「要は自己責任だと。次は叩っ斬るが構わないな?」

 すぐそばの刀を握りしめると、こちらを窺っていた女どもが青褪める。こんな集落などさっさとおさらばしたいが、世話になっているのも確かなので牽制だけで済ませておいた。酋長は何が面白いのかニヤニヤして様子を見ている。

「しかし、別れの宴にしても豪勢じゃないか?」
「これはマヤ殿の覚醒祝いでもあるからな」

 覚醒?
 マヤ様の方を見遣ると、頷きつつも戸惑っている様子。

「イェモン殿の傷や体の不調を治したのだろう? 本来ならそれは、神聖魔法と呼ばれる神官のみが使える能力なのだ。当初は名ばかりとは言え、聖女と呼ばれていたマヤ殿の事、あり得る話だと思い、いくらか試させてもらった。結果――」

 何だか嫌な予感に、俺はごくりと唾を飲み込む。もしや集落に引き留められるのか?

「何の力も発現しなかった。とは言え偶然とも思えず、マヤ殿の証言から察するに、イェモン殿に対してのみ発動するようだ」
「つまり? 覚醒祝いと聞いていたんだが」

 話が見えずに首を傾げる俺に、アピス酋長はチッチッと人差し指を振ってみせた。

「だから、イェモン殿専属の聖女という事だ。これからの旅路に回復役がいるだけで頼もしいだろう?」
「ああ、そういう事か……てっきり」
「もし他者であれば関係なく治癒できていれば、丸め込んで留め置くつもりだったがな」

 安堵したところに釘を刺され、俺はやっぱりか、と肩を落とした。隣ではマヤ様が俺たちの会話など気にもせずにフルーツを堪能している。俺が酋長らの慰み者になるみたいな話にならない限り、興味はないのだろう。

「それで、明日の予定についてなのだがな……まず国境は関所ではなく、ここで地下を通って潜り抜ける。わざわざ関所を通らずとも移動手段を我々は持っているという事だ。そこまでの道筋は普通の足では十日かかるが、用意させるペットに乗れば一日で着く」
「ペット?」

 ビーウィでは家畜はおろか、馬さえ飼っているのを見かけなかったのだが。どんな動物かは明日のお楽しみだ、と楽しそうな様子の酋長に一抹の不安を覚えつつも、その場は解散となった。

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