上 下
34 / 49

33

しおりを挟む
 屋上に続く階段まで来た私は、グスグス言ってる夜羽を何とか宥めすかし、連れて行かれた後の事を聞き出した。


 会社があるビルの最上階、社長室に通された夜羽がプルプル震えながらソファで縮こまっていると、

『待たせたな、お前ら』

と、やや乱暴な口調で社長らしき人が入ってきた。顔に傷がついてる強面のおじさんで、離れてても威圧感がすごい。あまりの迫力に、夜羽は既に涙目になっていたという。

『社長、彼が夜羽坊ちゃんです』
『そうか、大きくなったなぁ夜羽! ガハハハハ』
『ひええっ』

 炎谷ぬくたにさんに紹介され、ジロリとこちらを睨み付けられ……たと思ったら、飛び付くように近寄られ、夜羽の頭がわしゃわしゃ撫でられていた。見かけによらず、結構気さくな人なんだろうか。
 だが、本題に入ると夜羽のお父さんは雰囲気を一変させ、その場の空気がピリッと張りつめる。

 お父さんは先日、奥さんを失くしたそうなのだが、その人の遺言により、息子を正式に角笛家に迎え入れたいとの事。迎え入れると言ったって最初から『角笛』を名乗ってるんだから戸籍自体は変わらないわよね。せいぜい別居が解消されるぐらい……

「えっ、それって夜羽が今の家から出て行っちゃうって事!?」

 驚いて声を上げる私に、夜羽が俯く。

瑠璃ヱるりえさん――楽々ヱ姉さんのお母さんは僕の事を認知しても、自分が生きている間は敷居を跨がせないって言ってたらしいんだ。それで跡継ぎとして育てられていた楽々ヱ姉さんだけど、決められていた婚約がダメになって別の人と駆け落ちしたから、瑠璃ヱさんとすごく揉めちゃって……結局姉さんが帰ってきたのも彼女のお葬式の時だったし」
「それで夜羽にもお鉢が回ってきたって言うの? 勝手じゃん。って言うかつまり……夜羽が角笛組の跡取りに!?」

 あり得ない未来図に、夜羽も無言でブンブン首を横に振っている。まあ無理だろう……次期社長が迫力とか威厳とは無縁の夜羽にされた日には、絶対舐められるだろうし不満の声を抑えられない。
 涙目で抗議する夜羽だったが、彼はお飾りで、実際の業務は楽々ヱに継いでもらうと押し切られてしまった。プレッシャーに弱いしオドオドしてる彼よりも、昨今増えてきてる女性社長として楽々ヱさんに表に立ってもらった方がいい気もするけど。

『それに、頼もしいパートナーが支えてくれるしな。杭殿くいどのカンパニーって聞いた事ないか? 瑠璃ヱの親戚筋なんだが、そこの御令嬢を将来の社長夫人にって話が来ている』

 杭殿……さっき夜羽にくっついてた美少女。婚約者だって、言ってた。この令和の世に婚約者とか、どこのお貴族様ですか……と言うか。

「夜羽、それ受けちゃったの!?」
「ふえぇぇっ!? 受けてないよ、僕の好きな子はミトちゃんだけだよ!」

 必死に否定する夜羽だけど、同じクラスに転校までしてきて、完全に外堀埋められちゃってるじゃん。
 向こうでもそう主張した夜羽だったが。

『落ち着け夜羽、別に付き合うなと言ってるわけじゃない。俺だって政略結婚をしながら、真理愛との関係は続けていた。これまで通り、続けりゃいい話だ』

 ……この人は、何言ってるの?
 それじゃあ……夜羽のお母さんと同じ……

「許せなかった」

 さっきまで項垂れていた夜羽が、低い声を出す。私はこの後、夜羽がどんな行動に出るのか予想できた。父親にビビッて震えていた夜羽も、一生に関わる問題にはここで言っておかないと、家族の無茶苦茶な要求に飲まれてしまう。

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...