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「私の言いたいのはそういう……ひゃあっ!」

 服の中に手を入れられ、直接肌に触れられて変な声が上がってしまう。首に顔を埋めた夜羽から笑う気配がした。こん畜生!

「あんた、悪ふざけもいい加減にしなさいよ。私は怒ってんのよ?」
「そうか? 俺の部屋の、俺のベッドで女が寝ていたら、誰だって意味に取るのが普通だ。俺とお前、どっちがふざけてんだよ?」
「普通って何よ!? こんなの、今更……」

 カッとなって押し退けようとするが、びくともしないどころか両手を頭上でまとめ上げられてしまう。頭に血が上ったのは、図星を突かれたからだ。おかしいのは……私の方だ。
 だって、夜羽の部屋にしょっちゅう上がり込んで、漫画読んだりゲームしたり……今みたいにベッドで転寝する事もよくあった。もっと小さい頃はお泊りで一緒に眠った事も。
 夜羽は何も言わなかった。だってそうでしょ? 私たちは生まれた時から一緒にいて、姉弟みたいなものだったから。

「なあ、俺だって気が立ってんだよ。あいつら片付けたのはいいけど、花火ってババアに付き纏われるわ、そのストーカーに数人がかりで襲われるわ……しかも鶴戯に聞いたけど、お前あの場にいたらしいじゃねえか。何で帰った?」
「ババアって……一歳違いでしょ? しかも美人だし、キスされて満更でもなさそうだったじゃん」

 あれからまたごたごたしていたらしい。顔に所々青痣があるのは、そういう訳か。心配でもあったけど、それよりちゃんと全部解決して帰ってこれたのかが気になった。見透かされたのか、夜羽はニヤッと笑う。

「バーカ、あんなヤニ臭ぇババアにキスされて嬉しい訳ねえだろ。おまけに角材持った金魚の糞付きだぞ。めんどくせえから全員シメた後おっさんに押し付けてきた。二度と関わってくんなってな。
……妬いてたんだろ?」
「別に……」
「俺は結構傷付いてたんだぜ。好きでもない女にくっつかれるのも、勝手に勘違いされんのも。どうせお前の事だから、口で言っても信じないだろ」

 そんなつもりじゃ、と開きかけた口は、夜羽の唇に飲み込まれた。突然の事に、身を震わせる。

 私は、妬いていた……?

 私は何がしたかったんだろう。単に心配だったから、危険に身を晒す夜羽をほっとけなくて、こっそり様子を見に行ったはず。なのに他の女に纏わり付かれる夜羽を見ているのが嫌で、途中で帰ってきてしまった。
 唇を抉じ開けて、舌が割り込んでくる。お子様のキスじゃない。血の味がして、一瞬気持ち悪さから顔を背けようとしたけれど、サングラスの奥の、縋るような眼差しに迷いが出てしまった。

 このままずるずる行ってしまえば、私たちは幼馴染みじゃいられなくなる。私は良くても……夜羽はどうなのだろう。サングラスを外しても、今から起きる事を受け止め切れるの?
 今にも泣き出しそうな、罪悪感に満ちた表情が思い浮かぶ。そんな顔をしないで……私から離れてしまうくらいなら……

「いやっ!」
「っ!!」

 ゴッと頭突きをかますと、僅かにサングラスがずれた。惜しい、もう少しだったのに。さらに私の動きを封じようと、膝が足の間に入ってくる。未知の領域に踏み込まれる恐怖で身が竦んだ。

「やめて夜羽! あんた絶対後悔して自分を責めるでしょ」
「お前のせいだろ。昔から俺を振り回して、そのくせ俺の事なんて何とも思ってないって面しやがって。俺がどんな気持ちでいたのか、少しは思い知れ」

 夜羽の言葉に、抵抗が止まった。その指摘は、思いもかけなかった。

(私が、夜羽を傷付けてた……?)

 泣き虫でいじめられっ子で、気弱な夜羽。いつも一緒にいて、庇ってあげているつもりになっていた。夜羽には私がいないとダメなんだと。だけど……今の夜羽になってしまったのは、私がいたから?

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