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 帰ってきた私たちだったけど、まだ両親は帰宅していないので、家にいても私は一人だ。炎谷ぬくたにさんに待ちますかと言われ、私は勝手知ったる夜羽の部屋に入らせてもらった。
 幼い頃から家族のように育った私たちは、しょっちゅう互いの家で一緒にご飯も食べたしお風呂も入ったし、一緒のベッドで寝たりもした。だんだん夜羽の方が遠慮して、私の部屋に入る事すらなくなっていったんだけども。

 ゴロンとベッドに寝転がり、脇に置いてあったぬいぐるみを抱きしめる。ギシギシと音がして、よく触ってみればバネが入っているのが分かる。あの人形も、あの椅子も……全ては夜羽が無意識に鍛えられるものだった。

「私、あいつの事何にも分かっちゃいなかったんだなぁ……」

 仰向けのまま、視線は本棚に向かう。この部屋に隠されたエロ本は三冊。そのどれもが夜羽が自分で買ったものではなく、友達から無理やり押し付けられたものだ。
 何故知っているのかって? 私が好奇心で発掘したから。夜羽は真っ赤になって半泣きで弁解していたけど、まあそんなとこだろうな。載っているモデルのタイプがどれもバラバラだったし、たぶん夜羽のタイプじゃない。

(じゃあ、どんな女子が好みなのかは知らないけど……少なくともさっきのヤンキー女じゃあないわよね)

 花火にされるがままになっていた姿が思い起こされ、唇をぎゅうっと噛みしめる。あんな女に靡く夜羽じゃないのは分かってる、けど……サングラスをして別人になったあいつが、どこまでやらかすのか想像も付かないのが怖い。だとしても、私にそれを咎める権利なんてあるんだろうか? 彼女でもない、私なんかに。

「やだ……夜羽」

 目を閉じると、誰かを抱きしめている夜羽のイメージ。手を伸ばそうとしても、届かない。今まで考えないようにしていたけど、彼だってモテるのだ。いつか、彼女を作ってこことは違う自分だけの世界を作っていくのだ……私を置いて。
 ギシッ、とぬいぐるみの中のバネが大きく軋む。ギシギシ鳴り続けるその音を聞きながら、私は微睡んでいった。

  △▼△▼△▼△▼

 ギシギシギシ……

 鳴り続けるバネの音に紛れ、ピチャピチャと水音も響いている。何だろう……耳の辺りがひんやりしてくすぐったい。たまに生温かい風も吹いているようだ。ぞくっと身震いして、私は瞼を押し上げる。

「……えっ?」

 あり得ない光景に、意識が浮上した。

 夜羽が、私に覆い被さって耳を舐めている。

「何やってんの?」
「……何って」

 何が起こっているのか把握できていない私に、半分体を起こした夜羽は、ずれかけたサングラスを直しながら呆れたように言う。

「ここは俺のベッドだろ」

 そりゃそうだけど。

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