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 ジャンジャカジャン♪ ジャンジャカジャン♪

「ううーん、うるさい……」

 ピッ

「もしもしぃ……」
美酉みとりちゃん、僕だよ。今、君の部屋の前にいるんだ』
「……メリーさん?」

 バンッ

「バカな事言ってないで、早く起きなさい! もー毎朝毎朝、夜羽よはね君が来てくれてるのに、寝惚けてるんだから。もう九時よっ」
「嘘っ、やっば遅刻じゃん! ……ってお母さん今日は日曜じゃん。脅かさないでよね!」
「そうじゃないよ、今日はデートだから寝坊したら絶対起こしてって……」

 そうだった!
 私は飛び起きるとすぐさまパジャマをぽいぽいと脱ぎ出す。夜羽は「わっ」と慌てて後ろを向き、お母さんは「ご飯できてるからね」と呆れた顔で言い捨て、階段を降りていった。

「下はこれでいっか……今日は寒いから上どれ着てこー。よっぴ、これとこれはどっちがいいと思う?」

 夜羽はちらりと振り向き、私がしっかり着ているのを確認すると突き出された上着を見比べる。

「こっちの方があったかそうじゃない?」
「うーん、でも今日のために買ったワンピと合わないんだよね。やっぱこっち!」
「……僕に聞いた意味は?」

 夜羽の溜息を聞き流しつつ、私は洗面台の前で寝癖と格闘する。あーん、時間ないのに!

「これ、男用だけど使う?」
「さんきゅー!」

 夜羽が差し出した寝癖直しをありがたく使って返すと、流れでポーチに仕舞い込まれるのを目で追う。

「よっぴさぁ、いつも色々持ち歩いてるよね……女子力高くない?」
「女子力……」

 唖然とする夜羽を残し、無駄口を閉じた私はささっと支度を整え、大急ぎで朝食をかき込むと、ショルダーバッグを肩に引っ掛け玄関まで走る。
 外では既に夜羽が自転車を門の前にスタンバイさせていた。

「助かる~! よっぴは本当、気が利くよね。いつか可愛い彼女できるよ」
「美酉ちゃんの世話焼いてるうちは無理だよ」
「言ったな、こいつぅ」

 ズビシと額にチョップを食らわせると、私は颯爽と自転車に跨った。額を擦りながら手を振る夜羽に、こちらも振り返しながらペダルを漕ぎ出す。

「美酉ちゃん、前見て前! 気を付けなよ!」
「分かってますって。んじゃ、行ってきまーす」


 大慌てで待ち合わせ場所に向かう娘を見送った後、母・百合子が呟く。

「忙しないったらないわね。それにしても、お母さんは夜羽君と付き合うと思ってたのに」
「ハハ、ハ……僕じゃつり合わないですよ、弱虫だから」

 こんな会話が交わされていた事など、私――輿水美酉よみずみとりは知らない。

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