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10 遷移訓練3
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「えっ? ちょ~早いんだけど!」
遷移から戻って起き上がると、また驚いた顔の麗華が待っていた。
「そ、そうなのか?」
「だってほら、三分しか経ってないよ」
麗華は時計を見てそう言った。
「嘘だろ? 五回遷移したんだぞ? それぞれ三分としても十五分は経ってると思うんだけど?」
「それでも早いけど」
「そうなのか?」
とりあえず、共感遷移のレポートを書く俺。
すぐに書かないと忘れてしまうからな。
麗華はレポートを書く俺の手元を覗き込んでいたが、さすがに邪魔はしない。
「こんなもんか」
書き終えて麗華を見た。
「私なら、三十分は絶対掛かる」
「いや、そんなにかかったら、それこそ忘れるだろ」
そんなことを話しながら仮眠室から出た俺は、やっぱり驚いた顔の神海バディに迎えられた。
「お前! まさか、さっきの課題終わったのか?」
「あ、はい。ちょっと早いみたいですね」
「いや、ちょっとじゃないだろ。レポート見せてみろ」
意次は俺の手からレポートを奪い取った。
「問題は無かった?」
希美が心配そうに声を掛けてくれた。
「はい。お陰様で」
「そう。なら良かったわ」
希美は、安心したように笑った。素敵な笑顔だ。
「なるほど。確かにな」
意次は、ざっとレポートを読んで言った。
「目標の日時には飛べたと思いますが、分までは記憶していません」
「そこまではいい。これで十分だ。実際はミッションが成功すれば、細かいことは関係ない」
「そうなんですか?」
「ああ、そんなに正確に飛べる奴もいない。最初でこれは異常に正確だぞ」
「はぁ」
「ほんと信じられない。っていうか、未来で過ごした時間より短いってどういうこと?」
麗華が驚きの声で言った。バディだから、尚更気になるようようだ。
「そうなのか? そういえば、就活で未来へ飛んだ時も、かなり長い間行ってた気がするな」
「えっ? そうなの?」
「だって、飲み屋に行ったり倒産の説明会に出たりしたんだし」おまけに上条絹にも会ったしな。思えば何時間も経ってるかも。
「そうか! そう言えばそうよね!」
俺たちの会話を意次たちは神妙な顔で聞いていた。
「ねぇ、もしかして……」
希美が何か気が付いたように言った。
「うん? いや、そんな筈はないだろ」
「でも、それ以外考えられないでしょ?」
「ううん」
意次たちは何かを知っているようだ。
「なんですか?」
どこかヤバそうな雰囲気に俺はビビりながら聞いた。
麗華も心配そうに聞いている。
「いや、違うと思うが。『遡及現象』の可能性がある」
「遡及?」
「いや、違うとは思うんだ。だが、とりあえず情報だけは上層部に上げておく」
「それってなんですか?」
「ええとだな。中央研究所の人間しか詳しい話は知らないんだが、共感遷移でこういう遷移時間が極端に短いケースがあるんだ。それを『遡及現象』と言っている。稀にしかないそうだが」
「まんまですね。何が起こってるんです?」
「それが、よく分からんのだ」
意次は、ちょっと考えをまとめるようにしてから続けた。
「共感遷移で未来の時間を経過して戻ると、同じ時間をこっちでも経過している。これが普通だ」
「そうですね」
「だが、お前の場合は、予想時刻より前に戻ってると思われる。つまり、帰ると同時に過去に遡っている訳だ。まぁ、最後に遡及するのか全体に時間が縮むのかは、まだ分かっていない」
「過去に遡及ですか」
「あ~、後で研究所から呼び出しが来るかも」
意次は、そんな嬉しくないことを言った。
俺って、その研究所でモルモットにされるのか?
「モルモットは嫌だな」
「いや、そんなことはしない。詳細は聞かれるだろうがな」
「詳細と言っても、レポートの通りですけど」
「ああ、それは報告する。まぁ、今はまだ案件を記録している段階だそうだから内容を確認するだけだろ」
「そうすると、龍一の場合は大体時間が十分の一になってるわけね?」麗華が言った。
「あ? ああ、そうとも言えるな」と意次。
「つまり、龍一は未来で十倍の時間を生きて来たってこと?」と麗華。
「そ、そうなるのか?」
「ほ~っ」と意次。
「まぁ!」と希美。
「お前、とんでもないな!」と意次。
いやいや、そんなこと言われても俺、知らないし。
てか、俺を誘った麗華のせいに違いない。
麗華を見ると、『玉手箱はないのかしら?』とか言ってる
ね~よ。未来は竜宮城かよ。ってか、乙姫様に会ってね~し。あれ? 上条絹がそうってことはないよな?
って、今回会ってね~し。
遷移から戻って起き上がると、また驚いた顔の麗華が待っていた。
「そ、そうなのか?」
「だってほら、三分しか経ってないよ」
麗華は時計を見てそう言った。
「嘘だろ? 五回遷移したんだぞ? それぞれ三分としても十五分は経ってると思うんだけど?」
「それでも早いけど」
「そうなのか?」
とりあえず、共感遷移のレポートを書く俺。
すぐに書かないと忘れてしまうからな。
麗華はレポートを書く俺の手元を覗き込んでいたが、さすがに邪魔はしない。
「こんなもんか」
書き終えて麗華を見た。
「私なら、三十分は絶対掛かる」
「いや、そんなにかかったら、それこそ忘れるだろ」
そんなことを話しながら仮眠室から出た俺は、やっぱり驚いた顔の神海バディに迎えられた。
「お前! まさか、さっきの課題終わったのか?」
「あ、はい。ちょっと早いみたいですね」
「いや、ちょっとじゃないだろ。レポート見せてみろ」
意次は俺の手からレポートを奪い取った。
「問題は無かった?」
希美が心配そうに声を掛けてくれた。
「はい。お陰様で」
「そう。なら良かったわ」
希美は、安心したように笑った。素敵な笑顔だ。
「なるほど。確かにな」
意次は、ざっとレポートを読んで言った。
「目標の日時には飛べたと思いますが、分までは記憶していません」
「そこまではいい。これで十分だ。実際はミッションが成功すれば、細かいことは関係ない」
「そうなんですか?」
「ああ、そんなに正確に飛べる奴もいない。最初でこれは異常に正確だぞ」
「はぁ」
「ほんと信じられない。っていうか、未来で過ごした時間より短いってどういうこと?」
麗華が驚きの声で言った。バディだから、尚更気になるようようだ。
「そうなのか? そういえば、就活で未来へ飛んだ時も、かなり長い間行ってた気がするな」
「えっ? そうなの?」
「だって、飲み屋に行ったり倒産の説明会に出たりしたんだし」おまけに上条絹にも会ったしな。思えば何時間も経ってるかも。
「そうか! そう言えばそうよね!」
俺たちの会話を意次たちは神妙な顔で聞いていた。
「ねぇ、もしかして……」
希美が何か気が付いたように言った。
「うん? いや、そんな筈はないだろ」
「でも、それ以外考えられないでしょ?」
「ううん」
意次たちは何かを知っているようだ。
「なんですか?」
どこかヤバそうな雰囲気に俺はビビりながら聞いた。
麗華も心配そうに聞いている。
「いや、違うと思うが。『遡及現象』の可能性がある」
「遡及?」
「いや、違うとは思うんだ。だが、とりあえず情報だけは上層部に上げておく」
「それってなんですか?」
「ええとだな。中央研究所の人間しか詳しい話は知らないんだが、共感遷移でこういう遷移時間が極端に短いケースがあるんだ。それを『遡及現象』と言っている。稀にしかないそうだが」
「まんまですね。何が起こってるんです?」
「それが、よく分からんのだ」
意次は、ちょっと考えをまとめるようにしてから続けた。
「共感遷移で未来の時間を経過して戻ると、同じ時間をこっちでも経過している。これが普通だ」
「そうですね」
「だが、お前の場合は、予想時刻より前に戻ってると思われる。つまり、帰ると同時に過去に遡っている訳だ。まぁ、最後に遡及するのか全体に時間が縮むのかは、まだ分かっていない」
「過去に遡及ですか」
「あ~、後で研究所から呼び出しが来るかも」
意次は、そんな嬉しくないことを言った。
俺って、その研究所でモルモットにされるのか?
「モルモットは嫌だな」
「いや、そんなことはしない。詳細は聞かれるだろうがな」
「詳細と言っても、レポートの通りですけど」
「ああ、それは報告する。まぁ、今はまだ案件を記録している段階だそうだから内容を確認するだけだろ」
「そうすると、龍一の場合は大体時間が十分の一になってるわけね?」麗華が言った。
「あ? ああ、そうとも言えるな」と意次。
「つまり、龍一は未来で十倍の時間を生きて来たってこと?」と麗華。
「そ、そうなるのか?」
「ほ~っ」と意次。
「まぁ!」と希美。
「お前、とんでもないな!」と意次。
いやいや、そんなこと言われても俺、知らないし。
てか、俺を誘った麗華のせいに違いない。
麗華を見ると、『玉手箱はないのかしら?』とか言ってる
ね~よ。未来は竜宮城かよ。ってか、乙姫様に会ってね~し。あれ? 上条絹がそうってことはないよな?
って、今回会ってね~し。
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