上 下
10 / 34

10 遷移訓練3

しおりを挟む
「えっ? ちょ~早いんだけど!」

 遷移から戻って起き上がると、また驚いた顔の麗華が待っていた。

「そ、そうなのか?」

「だってほら、三分しか経ってないよ」

 麗華は時計を見てそう言った。

「嘘だろ? 五回遷移したんだぞ? それぞれ三分としても十五分は経ってると思うんだけど?」

「それでも早いけど」

「そうなのか?」

 とりあえず、共感遷移のレポートを書く俺。
 すぐに書かないと忘れてしまうからな。
 麗華はレポートを書く俺の手元を覗き込んでいたが、さすがに邪魔はしない。
 
「こんなもんか」

 書き終えて麗華を見た。

「私なら、三十分は絶対掛かる」
「いや、そんなにかかったら、それこそ忘れるだろ」

 そんなことを話しながら仮眠室から出た俺は、やっぱり驚いた顔の神海バディに迎えられた。

「お前! まさか、さっきの課題終わったのか?」
「あ、はい。ちょっと早いみたいですね」

「いや、ちょっとじゃないだろ。レポート見せてみろ」

 意次は俺の手からレポートを奪い取った。

「問題は無かった?」

 希美が心配そうに声を掛けてくれた。

「はい。お陰様で」
「そう。なら良かったわ」

 希美は、安心したように笑った。素敵な笑顔だ。

「なるほど。確かにな」

 意次は、ざっとレポートを読んで言った。

「目標の日時には飛べたと思いますが、分までは記憶していません」
「そこまではいい。これで十分だ。実際はミッションが成功すれば、細かいことは関係ない」

「そうなんですか?」
「ああ、そんなに正確に飛べる奴もいない。最初でこれは異常に正確だぞ」

「はぁ」
「ほんと信じられない。っていうか、未来で過ごした時間より短いってどういうこと?」

 麗華が驚きの声で言った。バディだから、尚更気になるようようだ。

「そうなのか? そういえば、就活で未来へ飛んだ時も、かなり長い間行ってた気がするな」

「えっ? そうなの?」

「だって、飲み屋に行ったり倒産の説明会に出たりしたんだし」おまけに上条絹にも会ったしな。思えば何時間も経ってるかも。

「そうか! そう言えばそうよね!」

 俺たちの会話を意次たちは神妙な顔で聞いていた。

「ねぇ、もしかして……」

 希美が何か気が付いたように言った。

「うん? いや、そんな筈はないだろ」
「でも、それ以外考えられないでしょ?」
「ううん」

 意次たちは何かを知っているようだ。

「なんですか?」

 どこかヤバそうな雰囲気に俺はビビりながら聞いた。
 麗華も心配そうに聞いている。

「いや、違うと思うが。『遡及現象』の可能性がある」

「遡及?」
「いや、違うとは思うんだ。だが、とりあえず情報だけは上層部に上げておく」
「それってなんですか?」

「ええとだな。中央研究所の人間しか詳しい話は知らないんだが、共感遷移でこういう遷移時間が極端に短いケースがあるんだ。それを『遡及現象』と言っている。稀にしかないそうだが」
「まんまですね。何が起こってるんです?」

「それが、よく分からんのだ」

 意次は、ちょっと考えをまとめるようにしてから続けた。

「共感遷移で未来の時間を経過して戻ると、同じ時間をこっちでも経過している。これが普通だ」

「そうですね」

「だが、お前の場合は、予想時刻より前に戻ってると思われる。つまり、帰ると同時に過去に遡っている訳だ。まぁ、最後に遡及するのか全体に時間が縮むのかは、まだ分かっていない」

「過去に遡及ですか」

「あ~、後で研究所から呼び出しが来るかも」

 意次は、そんな嬉しくないことを言った。
 俺って、その研究所でモルモットにされるのか?

「モルモットは嫌だな」
「いや、そんなことはしない。詳細は聞かれるだろうがな」

「詳細と言っても、レポートの通りですけど」

「ああ、それは報告する。まぁ、今はまだ案件を記録している段階だそうだから内容を確認するだけだろ」

「そうすると、龍一の場合は大体時間が十分の一になってるわけね?」麗華が言った。

「あ? ああ、そうとも言えるな」と意次。

「つまり、龍一は未来で十倍の時間を生きて来たってこと?」と麗華。

「そ、そうなるのか?」
「ほ~っ」と意次。
「まぁ!」と希美。
「お前、とんでもないな!」と意次。

 いやいや、そんなこと言われても俺、知らないし。
 てか、俺を誘った麗華のせいに違いない。
 麗華を見ると、『玉手箱はないのかしら?』とか言ってる

 ね~よ。未来は竜宮城かよ。ってか、乙姫おとひめ様に会ってね~し。あれ? 上条絹がそうってことはないよな?

 って、今回会ってね~し。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう
SF
 とある別世界の日本でごく普通の生活をしていたリュウは、ある日突然何の予告もなく違う世界へ飛ばされてしまった。  そこは、今までいた世界とは少し違う世界だった。  戸惑いつつも、その世界で出会った人たちと協力して元居た世界に戻ろうとするのだが……。

8分間のパピリオ

横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。 蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。 というSFです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~

まきノ助
SF
 高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...