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3 薄い彼女

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 なんにしても、今宮麗華の能力は俺の常識を超えていた。

「なぁ。なんで俺たち別れることになるんだろ?」

 俺は素直な気持ちを言ってみた。

「とりあえず、未来を見たのは認めるのね?」

「しょうがないだろ。あれだけ確実な証拠があるんじゃ」

 しかも、俺が体験したんだし。

「でしょ?」

「未来を見てきたことは信じる。でも麗華と別れたのは信じられない」

「そこなのよ、ポイントは」

「そうだよな」

「あの世界にあなたは行かないの。だから私もいない」

「ああ? 何言ってんの?」

「未来を見たあなたは、あの世界にいないのよ」

「ああ~。まぁ、そうなるよな」

「未来を見たあなたは、私と付き合っているあなた。つまりこの世界にいるの」

「よくわからんな。あの世界とこの世界は違うのか?」
「違うでしょ?」

「ああ、就職しないからか」
「そう」

「で、なんであの世界にお前がいないんだ?」

「これはね、この能力を持つ私の一族とも関係する話なの」

「ほう」

「あなたは、私の能力を使って未来へ行って来たでしょ?」

「そうだな」
「それでね。未来を知ったあなたのいる世界が限定されたの」

「よくわからんが」
「つまり、あなたがあの会社に行く世界とは決別したの」

「いや、決別って、もうその世界はないんだろ?」
「ううん、違うの。その世界は今でもあるのよ」

「なんだよそれ。並行世界か?」
「ええと。並行世界じゃなくて、多重世界」

「どう違うんだ?」

「簡単に言うと、並行世界は選択肢があるだけ世界が増えていくけど、多重世界は増えないの。少なくとも確率的にはね」

「並行世界は増えていく?」

「そう。例えば、あなたが就職する可能性のある会社の数だけ、並行世界は増えていく」

「俺が行く可能性があるだけで、世界が増殖するわけないだろ?」
「そう。ありえないわよね。だから並行世界じゃない」

「多重世界は違うのか?」

「多重世界は確率があれば全部存在するのよ。沢山の世界があるけど、全部合わせると存在確率が1になるわけ。つまり存在確率の分だけ存在するってこと。かすかでも存在確率があれば、その世界は存在するの」

「それは増えることと違うのか?」
「ああ、沢山の数の世界はあるけれど、存在確率は合計で1なのよ」

「なるほど。つまり、世界は1つ分あると」
「そうね」
「数が増えると、確率は減ると」
「そんな感じ」

「ほう」
「だから、あなたがあの会社に行く世界も、まだ存在するのよ」

「消えないんだ。じゃ、未来を知った俺はそうじゃない世界に行くわけか」
「そうね」

「でも、それとお前と俺が別れることとは、全然話が違うだろ?」
「それが、そうじゃないのよ。私は、どれか一つの世界にしか存在できないの」

「はっ?」なんだって~っ?

「私は、薄い存在なの」

「薄い存在?」
「私っていうか、私たちの一族はだけど」

「一族?」
「私たち、神海一族」

 ええっと、よくわからない話になってきたぞ。

「それは、あの能力と関係すると?」

「そうね」

 この世界は多重世界で出来ていて、色んな可能性の数だけ色んな世界が存在する。
 だが、彼女がいる世界は一つだけ。彼女の一族、神海一族のいる世界は一つだけ。
 薄い存在。なるほど、わからん。

「つまり、あの倒産する会社の世界にお前がいないのは……」
「その世界に行かないあなたと一緒にいるから」

「ほう。それって、運命共同体ってことか?」
「そうね、近いわね。ただ、今後のあなたの選択次第で私たちは消えることになるかも」

 なんだと~っ?

「ただし、かなり私たちの存在に近くなったけどね」
「それは、あの能力を使ったからか?」
「そう」

「あ、もちろん、このまま私と別れると、あの能力は使えないからね」
「うん、それはそうだろう」俺にこんな能力は無い。

「ただ、これ以上あの能力を使うなら一族に入ってもらう必要がある」

「なるほど」

 一族の奥義か?

「私とこれからも付き合うなら、ちゃんと付き合ってほしい。ちょっと覚悟が必要なのよ」

 彼女は、真面目な顔で言って帰っていった。
 世界から消える一族か。驚きを通り越しているよな?

 しかし、そうなると俺は将来失う可能性の高い女と付き合っていることになる。
 想い人が、突然目の前から消えてしまう可能性があるなんて恐ろしい話だ。
 ちょっと、背筋が寒くなる思いがした。
 彼女たちのことを知った俺はどうなるだろう?
 消えるのは俺だけのような気もする。
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