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番外編1 これからが大事 ※マリン視点
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クロヴィス様から婚約破棄を告げられた私は、友人たちと一緒にアラムドラム帝国へ行くことになった。
ラドグリア王国を離れることは、とても辛くて苦しいことだった。
生まれた国、育った土地、暮らしてきたお屋敷とのお別れは、身を切られるように辛いものだった。
大切な友人たちが一緒ということだけが、唯一の救い。
それでも、アラムドラム帝国に辿り着いた当初は不安でいっぱいだった。ここで、新しい暮らしが始まる。私なんかが、上手くやっていけるのだろうか。そう考えると、怖くなって足がすくんだ。
不安や憂鬱で、この苦しい気持ちは一生続くんだと思った。人生に絶望した。
でも、そんな私を救ってくれたのが、新しい婚約相手の彼。
最初は、彼に対して申し訳ない気持ちがあった。私は深く考えもせずに、紹介してもらった相手とすぐ婚約することを決めた。私のような泣き虫女なんか選んでくれるチャンスなんて、今後は訪れないだろうと思っていたから飛びついた。
これを逃したら、ずっと一人ぼっち。それは、とても怖い。私は焦っていた。
でも、私みたいな女と婚約させられた相手の人はきっと迷惑に思っているはずだ。自分の都合を優先して、相手のことを何も考えていなかった。
だから、彼と会うのも憂鬱だった。会う前から嫌われていると思う。これから嫌な思いをさせてしまうかもしれない。そう思ったら、顔を合わせるのが怖かった。
「初めまして」
「は、はじめまして……」
婚約してから最初の顔合わせ。彼は優しく微笑んでくれた。それを見た瞬間、私の中に渦巻いていた不安な気持ちが一瞬だけ吹き飛んだ気がした。
だけど、すぐにまた心の中に暗い感情が広がっていく。私のことを気遣って、無理して笑顔を作ってくれているんじゃないかと思ったからだ。
また、涙が出そうになった。何も話せなくなって、私は黙ったまま。それなのに彼は、一緒に居てくれた。寄り添ってくれた。
お仕事が忙しいのに、彼は会いに来てくれた。そしてまた一緒に黙ったままの時間を過ごしてくれた。何度も、何度も。
ある日、彼がぽつりと言った。
「君の笑顔が見たい」
彼のお願いを叶えるために、私は笑おうとしてみた。上手くできたか分からないけど、頑張って笑ってみた。すると、彼は嬉しそうな顔をしてくれた。
「気にしなくて大丈夫だよ。今はゆっくりと、帝国の暮らしに慣れていければいい。君が、ここに来てよかったと思えるような日が、いつかきっと来るから」
そんな言葉をかけてもらえたことが嬉しくて、思わず泣いてしまった。すると彼は優しく抱きしめてくれて、「大丈夫」と言ってくれた。
不安な気持ちはもう、どこにもなかった。彼と一緒ならきっと、幸せな生活を送っていけると思ったから。
ラドグリア王国を離れることは、とても辛くて苦しいことだった。
生まれた国、育った土地、暮らしてきたお屋敷とのお別れは、身を切られるように辛いものだった。
大切な友人たちが一緒ということだけが、唯一の救い。
それでも、アラムドラム帝国に辿り着いた当初は不安でいっぱいだった。ここで、新しい暮らしが始まる。私なんかが、上手くやっていけるのだろうか。そう考えると、怖くなって足がすくんだ。
不安や憂鬱で、この苦しい気持ちは一生続くんだと思った。人生に絶望した。
でも、そんな私を救ってくれたのが、新しい婚約相手の彼。
最初は、彼に対して申し訳ない気持ちがあった。私は深く考えもせずに、紹介してもらった相手とすぐ婚約することを決めた。私のような泣き虫女なんか選んでくれるチャンスなんて、今後は訪れないだろうと思っていたから飛びついた。
これを逃したら、ずっと一人ぼっち。それは、とても怖い。私は焦っていた。
でも、私みたいな女と婚約させられた相手の人はきっと迷惑に思っているはずだ。自分の都合を優先して、相手のことを何も考えていなかった。
だから、彼と会うのも憂鬱だった。会う前から嫌われていると思う。これから嫌な思いをさせてしまうかもしれない。そう思ったら、顔を合わせるのが怖かった。
「初めまして」
「は、はじめまして……」
婚約してから最初の顔合わせ。彼は優しく微笑んでくれた。それを見た瞬間、私の中に渦巻いていた不安な気持ちが一瞬だけ吹き飛んだ気がした。
だけど、すぐにまた心の中に暗い感情が広がっていく。私のことを気遣って、無理して笑顔を作ってくれているんじゃないかと思ったからだ。
また、涙が出そうになった。何も話せなくなって、私は黙ったまま。それなのに彼は、一緒に居てくれた。寄り添ってくれた。
お仕事が忙しいのに、彼は会いに来てくれた。そしてまた一緒に黙ったままの時間を過ごしてくれた。何度も、何度も。
ある日、彼がぽつりと言った。
「君の笑顔が見たい」
彼のお願いを叶えるために、私は笑おうとしてみた。上手くできたか分からないけど、頑張って笑ってみた。すると、彼は嬉しそうな顔をしてくれた。
「気にしなくて大丈夫だよ。今はゆっくりと、帝国の暮らしに慣れていければいい。君が、ここに来てよかったと思えるような日が、いつかきっと来るから」
そんな言葉をかけてもらえたことが嬉しくて、思わず泣いてしまった。すると彼は優しく抱きしめてくれて、「大丈夫」と言ってくれた。
不安な気持ちはもう、どこにもなかった。彼と一緒ならきっと、幸せな生活を送っていけると思ったから。
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