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第12話 外交担当任命 ※外交官の男視点
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「新しい配属先、ですか?」
ある日突然、上司から呼び出されて突きつけられた辞令に、私は呆然と聞き返した。事前に何も知らされていないし、本当に急な話だったから。
これまでに私は外交官として、色々な交渉でサポートとして入り、コツコツと辛抱強く実績を積み重ねてきた。ちゃんと成果を出し、かなりの信頼を得て役立ってきたと自負している。そろそろ一人前の外交官として交渉の仕事を任されるのではないかと期待していた。
もしかして、ようやく私の働きが認められたのか。これでちょっとは胸を張って、アルメルに会いに行けるのではないか。
「これから君は、アラムドラム帝国との交渉を担当することに決まった。前任の活動成果や詳しい内容については、その書類に記載してある。確認してくれ」
「はい」
上司から手渡されたのは、薄い数枚の書類だった。それを渡されただけで、詳細についての説明はない。
「って? アラムドラム、帝国?」
一瞬、聞き間違えたかと思った。アラムドラム帝国とは、私の知っているあの国のことなのか。もっと詳しく話を聞いておかないとマズいかもしれない。
「あの、その帝国との外交は」
「これは決定事項だ。まぁ、詳しいことは関係者に聞いてくれたまえ。心機一転がんばりなさい」
食い下がろうとする私に、上司は一方的に告げる。
「いえ、ですからアラムドラム帝国について、もう少し詳しく」
「話は以上だ。では、よろしく頼むよ」
私の言葉を遮り、上司が話を終わらせる。そして、さっさと部屋から追い出されてしまった。手元には、渡された数枚の書類だけ。普通ならもっと、引き継ぐべき内容があるはずなのに。
しばらく私は茫然としてしまった。その後、自分の部屋に戻って書類の確認を始める。どうして急に、こんなことになってしまったのかと不満を抱えながら。
どう考えても、急すぎるだろう。しかも、あのアラムドラム帝国を担当させられるなんて。こんなの、私ではなく他の奴らに任せるべき内容だと思うのだが。
書類の確認は、すぐに終わった。そこに記載されていた情報は、とても薄くて簡素なもの。本当にこれだけなのかと疑ってしまうような内容だった。
まさか、アラムドラム帝国との交渉を担当させられるなんて。
王国とアラムドラム帝国の関係は、かなり微妙だった。よくも悪くもない、中間。何百年も続く緊張状態で、ここ最近は国境付近で小規模な戦闘も起こっている。ただ、それも10年ぐらい膠着状態が続いているようだ。決着もつかずに、当たり前の光景になっていた。なので、何かのキッカケで一気に関係が悪化する可能性は低い。
このままずっと、今の状態が続く可能性のほうが高いだろうけれど。
交渉なんかで、アラムドラム帝国との関係を劇的に変化させるのは難しい。せいぜいが、緊張の緩和程度。これまでに何度か両国間で交渉が行われてきたようだけど、大した進展もなく終わっている。
やってもやらなくても何も変わらない、意味のない仕事。誰がやっても結果は変わらない仕事だ。そんな仕事を押し付けられるなんて。
このまま今の状態が続くだろうと、誰もが考えるはず。それを交渉で変えるなんて、至難の業。無理難題も良いところだ。
引き継ぎで渡された書類を確認しても、前任の外交官が行った仕事は、ほんの僅かだった。だから、渡された書類がこんなに薄かったのか。ほとんど仕事していない。頑張っても成果を得ることは難しく、意味がないから。
必要性は低い。ただ据え置いているだけの、お飾りの外交官。そんな場所に、私は配属されてしまった。つまり、そういうことだろう。
これでは、ここから先は実績を積み重ねることが難しくなる。これからどんどん仕事を成功させて、昇進を狙っていた。だが、そのチャンスが一気に減ってしまった。
「……はぁ」
どうして私が、アラムドラム帝国を担当することになってしまったのか。ため息が出てしまう。これから、どうしたものか。
これでは、私が愛しているアルメルに顔向けできない。
ある日突然、上司から呼び出されて突きつけられた辞令に、私は呆然と聞き返した。事前に何も知らされていないし、本当に急な話だったから。
これまでに私は外交官として、色々な交渉でサポートとして入り、コツコツと辛抱強く実績を積み重ねてきた。ちゃんと成果を出し、かなりの信頼を得て役立ってきたと自負している。そろそろ一人前の外交官として交渉の仕事を任されるのではないかと期待していた。
もしかして、ようやく私の働きが認められたのか。これでちょっとは胸を張って、アルメルに会いに行けるのではないか。
「これから君は、アラムドラム帝国との交渉を担当することに決まった。前任の活動成果や詳しい内容については、その書類に記載してある。確認してくれ」
「はい」
上司から手渡されたのは、薄い数枚の書類だった。それを渡されただけで、詳細についての説明はない。
「って? アラムドラム、帝国?」
一瞬、聞き間違えたかと思った。アラムドラム帝国とは、私の知っているあの国のことなのか。もっと詳しく話を聞いておかないとマズいかもしれない。
「あの、その帝国との外交は」
「これは決定事項だ。まぁ、詳しいことは関係者に聞いてくれたまえ。心機一転がんばりなさい」
食い下がろうとする私に、上司は一方的に告げる。
「いえ、ですからアラムドラム帝国について、もう少し詳しく」
「話は以上だ。では、よろしく頼むよ」
私の言葉を遮り、上司が話を終わらせる。そして、さっさと部屋から追い出されてしまった。手元には、渡された数枚の書類だけ。普通ならもっと、引き継ぐべき内容があるはずなのに。
しばらく私は茫然としてしまった。その後、自分の部屋に戻って書類の確認を始める。どうして急に、こんなことになってしまったのかと不満を抱えながら。
どう考えても、急すぎるだろう。しかも、あのアラムドラム帝国を担当させられるなんて。こんなの、私ではなく他の奴らに任せるべき内容だと思うのだが。
書類の確認は、すぐに終わった。そこに記載されていた情報は、とても薄くて簡素なもの。本当にこれだけなのかと疑ってしまうような内容だった。
まさか、アラムドラム帝国との交渉を担当させられるなんて。
王国とアラムドラム帝国の関係は、かなり微妙だった。よくも悪くもない、中間。何百年も続く緊張状態で、ここ最近は国境付近で小規模な戦闘も起こっている。ただ、それも10年ぐらい膠着状態が続いているようだ。決着もつかずに、当たり前の光景になっていた。なので、何かのキッカケで一気に関係が悪化する可能性は低い。
このままずっと、今の状態が続く可能性のほうが高いだろうけれど。
交渉なんかで、アラムドラム帝国との関係を劇的に変化させるのは難しい。せいぜいが、緊張の緩和程度。これまでに何度か両国間で交渉が行われてきたようだけど、大した進展もなく終わっている。
やってもやらなくても何も変わらない、意味のない仕事。誰がやっても結果は変わらない仕事だ。そんな仕事を押し付けられるなんて。
このまま今の状態が続くだろうと、誰もが考えるはず。それを交渉で変えるなんて、至難の業。無理難題も良いところだ。
引き継ぎで渡された書類を確認しても、前任の外交官が行った仕事は、ほんの僅かだった。だから、渡された書類がこんなに薄かったのか。ほとんど仕事していない。頑張っても成果を得ることは難しく、意味がないから。
必要性は低い。ただ据え置いているだけの、お飾りの外交官。そんな場所に、私は配属されてしまった。つまり、そういうことだろう。
これでは、ここから先は実績を積み重ねることが難しくなる。これからどんどん仕事を成功させて、昇進を狙っていた。だが、そのチャンスが一気に減ってしまった。
「……はぁ」
どうして私が、アラムドラム帝国を担当することになってしまったのか。ため息が出てしまう。これから、どうしたものか。
これでは、私が愛しているアルメルに顔向けできない。
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