上 下
2 / 42

第2話 逆ハーレムの当て馬女子

しおりを挟む
「その顔は、ダメだったみたいねエレノラ」
「えぇ。ダメだったわよ、リゼット。私も、婚約破棄を告げられたわ」
「フフフ。つまり、予定通りということね」

 部屋に入るなり、そんな言葉を投げかけられた私は、思わず嘆息して答える。私の反応をニヤニヤと笑みを浮かべて楽しんでいる女性は、次期宰相候補だった男の元婚約相手リゼットである。

 リゼットも、次期宰相候補であるトゥーサンも、私が記憶している乙女ゲームの登場人物だった。そして、記憶通りの結末を迎えている。

「でも、あんなに色々と予想して準備してきたのに、結局そうなってしまったのね」
「仕方ないじゃない。あの女の行動が、上手く行き過ぎてるのよ。それに、貴女も同じようなものじゃないの」
「私は違うわよ。次期宰相候補様は、見る目がなかっただけ。あんな女なんかに惚れ込んで、私の言葉なんて無視して婚約破棄だなんて。もう少し賢い人だと思ってたのにねぇ」

 リゼットと笑顔を浮かべながら軽口を叩きあう。私は自分が失敗したこと、そしてリゼットも上手くいかなかったことをあらためて確認した。

 そして、そんな私たちの様子を眺めながらため息を漏らしているのが、王国の外交官候補だった男に婚約を破棄されたフローラである。

「ねぇ、どうして2人はそんなに楽しそうにしゃべってるのよ? 私は今の状況が、不安で不安でしょうがないんだけど?」
「あら、不安なのは私だって同じだけど。ねぇ、エレノラ」

 言葉通り不安そうにしているフローラに、リゼットが答える。それから私に同意を求めるように視線を向けてきたので、頷いて答えた。

「そうね。起こってしまったことは仕方ないわよ。それよりも、今からどうするかを考えないと」
「まぁ、そうだけどね」

 私の言葉に頷くフローラ。そんな会話をしている横では、1人の女性がしくしくと泣いていた。

「うぅ、クロヴィスさま……。どうして、あんな女を……」
「もう、マリン。そろそろ、泣き止みなさいよ」
「だってぇ、ルシールぅぅぅ」

 泣いているのは、宮廷魔術師の次期長の地位を約束されていた男の元婚約者であるマリン。婚約破棄を告げられたのは、ずいぶんと前のこと。だけど心の傷が癒えず、今も引きずっている。そんな彼女のことを慰めている女性が、次の騎士団長の地位に就く予定である男の元婚約者ルシール。

 マリンもルシールも、ゲームの物語と同じように婚約破棄を告げられた。運命を変えることは出来なかった。特にマリンについては、どうにかしてあげたかったんだけどなぁ。

「ほら、そこの2人も。一緒に、これからのことについて話し合いましょう」
「……うん」

 マリンは、真っ赤な目で小さくうなずいた。ちゃんと立ち直れたら良いけど。心配だ。

「きっと、これから先は大変よ。それでも、みんなで協力すればなんとかなると思うわ」
「そうよね。私たちは、仲間なんだから」

 ルシールは前向きに考えようとしている。彼女の明るさは、とても頼りになる。

「婚約を破棄された者同士の仲間ってことかしら? なんだか、嫌な響きだわ」

 リゼットが不満そうに唇を尖らせる。それに対して、私は思わず苦笑いを浮かべた。

「それは否定できない事実ね。でも、それがあったからこそ私たちは仲間になれた。そうでしょう、みんな!」
「……それもそうね。それじゃあ、気を取り直して今後の方針について話を進めましょ」

 私の呼びかけに応えて、みんなが真剣な表情になる。

 この部屋には、未来を約束されている有望な男たちの婚約相手だった女性が集まっていた。しかし、全員が婚約を破棄されている。あのヒロインが男たちを虜にして、私たちは婚約破棄を告げられた。

 同じ境遇の彼女たちを集めたのは私。同じように、原作のストーリーによって人生を狂わされた彼女たちを、私は放っておけなかった。

 婚約破棄を告げられたという傷を持つ者同士で協力して、これから共に前を向いて歩んでいくつもりだ。幸せな人生を送れるように。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。

しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。 次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。 破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。

【完結】後妻は承認したけど、5歳も新しく迎えるなんて聞いてない

BBやっこ
恋愛
ある侯爵家に後妻に入った。私は結婚しろと言われなくなり仕事もできる。侯爵様様にもたくさん後妻をと話が来ていたらしい。 新しいお母様と慕われうことはないだろうけど。 成人した跡取り息子と、寮生活している次男とは交流は少ない。 女主人としての仕事を承認したけど、突然紹介された5歳の女の子。新しく娘うぃ迎えるなんて聞いてない!

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

処理中です...