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第1話 意味不明な婚約破棄
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「エレオノール、お前との婚約を破棄する!」
「え?」
王妃教育のため王宮に訪れていた私は、婚約者である王太子に呼び出されていきなりそんなことを言われた。突然のことに呆然としていると、王太子は更にこう続けた。
「お前は、私のことを愛していないだろう」
「……」
愛しているかどうかを問われたら、答えに窮してしまう。私と彼は政略結婚である。親同士が決めた相手だから、そこに愛はない。だけど、これから関係を深めていけばいい。そう思っていた。
平民のような恋愛なんて、貴族社会で出来るわけがないのだから。憧れはあるけれど、貴族令嬢である私には無縁。そう割り切っていた。この考えは、ジェラルド様も同じだと勝手に思っていた。
そんなに彼が、愛を求めていたとは知らなかった。
「答えられないということは、やはりッ!」
「ち、違います! 私は……!」
否定しようとした私の言葉を遮り、ジェラルド様は大きな声で叫ぶように言った。
「女は皆、愛してなどいないッ! 表面上は愛していると言っていたのに、その実私の事など見ていない! 私を見ずに、別の男を見るんだろう! そんな女など、もううんざりだッ!」
「え? どういう……」
この人は、何を言っているのだろう。意味が分からなかった。いきなり怒り出して、私のことを見ていないだなんて。愛していると言った覚えもないけど。困惑する私に、ジェラルド様は吐き捨てるように言った。
「お前も、浮気をしているんだろう! そうに違いないッ!」
「浮気!? そんなことしていません!」
身に覚えのない言葉に、つい大きな声が出てしまった。私が浮気をしているだなんて、そんな馬鹿なことあるわけない。だけど、ジェラルド様は私の言葉など聞いていなかった。
彼は、私を指さしながらこう言った。
「とにかく、お前との婚約は破棄する! これは決定事項だぞッ! 話は終わりだ、さっさと出て行け!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私の話を」
「問答無用! 出ていかないなら、兵士に命令して叩き出させるぞ」
「そんな……」
それだけ言うと、私は部屋から追い出された。脅されて、それ以上は部屋に留まることなど不可能だった。
バタンッと強く扉を閉められてしまい、しばらく呆然としていた私は扉の前から動けなかった。
部屋の中から、彼の怒る声が聞こえてくる。女なんて信じられない、どうせ裏切るんだ、とか。
ジェラルド様は、私が浮気していると思い込んでいた。一体なぜ、彼の態度が急変したのか。考えても答えは出そうになかった。
いつまでもここに立っていても仕方がないので、とりあえず王宮を後にした。この件について、両親に報告しないといけないだろう。とても憂鬱な気分だった。
家に戻り、両親に今日の出来事を話すと二人とも驚いていた。まさか、婚約破棄されるとは思っていなかったらしい。私と同じ気持ちだ。
「とりあえず、国王陛下に確認してみよう。エレオノールは、しばらく屋敷から出ないように。事態が落ち着くまで、大人しくしておきなさい」
「わかりました、お父様」
私の報告を聞いて、お父様は困惑している。怒られなくてよかった。事情も確認してもらえるようなので、とりあえずは安心する。父の言葉に頷き、自室へと戻る。
なんだか、どっと疲れが出てきた。今日はゆっくり休もう。そう思い、私はベッドに潜り込んだ。
「え?」
王妃教育のため王宮に訪れていた私は、婚約者である王太子に呼び出されていきなりそんなことを言われた。突然のことに呆然としていると、王太子は更にこう続けた。
「お前は、私のことを愛していないだろう」
「……」
愛しているかどうかを問われたら、答えに窮してしまう。私と彼は政略結婚である。親同士が決めた相手だから、そこに愛はない。だけど、これから関係を深めていけばいい。そう思っていた。
平民のような恋愛なんて、貴族社会で出来るわけがないのだから。憧れはあるけれど、貴族令嬢である私には無縁。そう割り切っていた。この考えは、ジェラルド様も同じだと勝手に思っていた。
そんなに彼が、愛を求めていたとは知らなかった。
「答えられないということは、やはりッ!」
「ち、違います! 私は……!」
否定しようとした私の言葉を遮り、ジェラルド様は大きな声で叫ぶように言った。
「女は皆、愛してなどいないッ! 表面上は愛していると言っていたのに、その実私の事など見ていない! 私を見ずに、別の男を見るんだろう! そんな女など、もううんざりだッ!」
「え? どういう……」
この人は、何を言っているのだろう。意味が分からなかった。いきなり怒り出して、私のことを見ていないだなんて。愛していると言った覚えもないけど。困惑する私に、ジェラルド様は吐き捨てるように言った。
「お前も、浮気をしているんだろう! そうに違いないッ!」
「浮気!? そんなことしていません!」
身に覚えのない言葉に、つい大きな声が出てしまった。私が浮気をしているだなんて、そんな馬鹿なことあるわけない。だけど、ジェラルド様は私の言葉など聞いていなかった。
彼は、私を指さしながらこう言った。
「とにかく、お前との婚約は破棄する! これは決定事項だぞッ! 話は終わりだ、さっさと出て行け!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私の話を」
「問答無用! 出ていかないなら、兵士に命令して叩き出させるぞ」
「そんな……」
それだけ言うと、私は部屋から追い出された。脅されて、それ以上は部屋に留まることなど不可能だった。
バタンッと強く扉を閉められてしまい、しばらく呆然としていた私は扉の前から動けなかった。
部屋の中から、彼の怒る声が聞こえてくる。女なんて信じられない、どうせ裏切るんだ、とか。
ジェラルド様は、私が浮気していると思い込んでいた。一体なぜ、彼の態度が急変したのか。考えても答えは出そうになかった。
いつまでもここに立っていても仕方がないので、とりあえず王宮を後にした。この件について、両親に報告しないといけないだろう。とても憂鬱な気分だった。
家に戻り、両親に今日の出来事を話すと二人とも驚いていた。まさか、婚約破棄されるとは思っていなかったらしい。私と同じ気持ちだ。
「とりあえず、国王陛下に確認してみよう。エレオノールは、しばらく屋敷から出ないように。事態が落ち着くまで、大人しくしておきなさい」
「わかりました、お父様」
私の報告を聞いて、お父様は困惑している。怒られなくてよかった。事情も確認してもらえるようなので、とりあえずは安心する。父の言葉に頷き、自室へと戻る。
なんだか、どっと疲れが出てきた。今日はゆっくり休もう。そう思い、私はベッドに潜り込んだ。
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