上 下
19 / 37

第19話 呼び出し依頼

しおりを挟む
「エリック王子からの呼び出し?」
「は、はい。ギルドから貴女たちへ必ず伝えるようにという上からの指示がありまして。……ごめんなさい」

 順調に冒険者活動を続ける日々。今日も何か仕事がないか探すためにギルドへ来てみると、伝えられたのは予想外の内容だった。

 私に伝えてくれたギルドの受付嬢は、申し訳なさそうな表情を浮かべている。彼女が悪いわけではないのに、謝らせてしまったわね。それから、ギルドの人たちはこの件を厄介事だと理解しているみたい。

 面倒そうだけど、断るわけにはいかない。

「わかったわ。わざわざ、伝えてくれてありがとう」
「よろしくお願いします。……お気をつけて」

 私の言葉にホッとした表情を浮かべた受付の女性は、深々と頭を下げて送り出してくれた。ということで、今回の件を拠点に持ち帰って皆で相談しよう。

「よろしいのですか?」

 ギルドの建物から出た瞬間、護衛として一緒に来てくれていたナディーヌが確かめるような口調で聞いてくる。

「まだ、どうするかは決めていないわ。とりあえず、皆と相談ね」
「わかりました」

 私の答えを聞くと、それ以上は何も言わずに隣を歩くナディーヌ。彼女の気遣いに感謝しつつ、私たちは帰路についた。



「ということで、呼び出しの件どうしましょう?」
「大丈夫なのでしょうか? あの男に関わると、また面倒なことになりません?」

 ギルドで伝えられた内容を皆にも知らせた。私がどうしようか問いかけると、心配そうに質問してくるエミリー。できることなら私も、あの男には関わりたくはないのよね。

「ノエラ様は、私の命に代えても守ります」

 覚悟を決めて言うのはナディーヌ。まだ、そこまで深刻な事態ではないんだけどね。

「相手の目的を知るためにも、話は聞きに行ったほうがいいだろうな」

 ジャメルは、どうするべきかを冷静に考える。そして、呼び出しを受けるべきだという判断。まぁ、そうなるわよね。

「無視して、王国から逃げ出すってのは?」
「それも、ありだろう」

 私の考えを伝えると、彼はすぐに肯定してくれる。王命ではなく依頼だから、どうするのかは私たちに委ねられている。その選択肢もありだと言ってくれる。けれど。

「その場合、ギルドとか他の冒険者に余計な圧力をかけられる、なんて可能性があるのよね……」

 エリック王子の指示で、面倒なことになるかもしれないわ。相手が王族となると、慎重に対応しなくてはならない。対応によっては、いろいろな方面に迷惑ががかる。それは避けたい。

 少し前なら気にならなかっただろう。けれど、私たちは知り合ってしまった。絆を育んでしまった。冒険者の知り合いたちを裏切ることは、したくない。

 冒険者同士の雰囲気も、いい感じに変わってきている。より良い方向へ進んでいる。今このタイミングで私たちがかき乱してしまうと、もったいないことに。

 当初は、適当に稼いでから別の国へ行く予定を考えていた。しかし、私がイメージしていたよりもギルドや冒険者の人たちは良い人たちが多かった。そんな彼ら彼女らと出会って、見捨てることは出来なくなってしまった。

 つまり、私は逃げ出せない状況になっているということ。

「ということで、呼び出しを受けることにするわね」

 私の判断に、皆が頷いてくれる。私が決めたら、それを優先して行動してくれる。もしかしたら危険かもしれないのに、それでもついて来てくれる仲間たち。本当にありがたいと思うし、嬉しいことだとも思う。

「万が一に備えて、色々と準備してから王城に乗り込みましょう」
「「「了解」」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」

まほりろ
恋愛
【完結済み】 若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。 侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。 侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。 使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。 侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。 侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。 魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。 全26話、約25,000文字、完結済み。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 他サイトにもアップしてます。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

処理中です...