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第1話 聖女にふさわしいのは
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聖女は王族と結婚する。それが、この国のルール。
聖女になってしまった私の相手に選ばれたのが、第一王子のエリック様。彼が私の婚約相手になるのは、当然のことだった。
国のルールと、王国と神殿の偉い人たちが決めたこと。私たちは、言われた通りに従うだけ。エリック様と私の相性は良くなったみたいだけど、嫌とは言えない。残念ながら、好き嫌いで一緒になる相手を選ぶことは出来ない。
王国と神殿の未来と繁栄のため、付き合っていくしかない。そう覚悟したけれど、彼はそうじゃなかったみたい。
「俺は、聖女ノエラとの婚約を破棄する!」
ある日突然、なんの詳しい説明もなく呼び出された私。来てみると、そこでも説明されないまま強引に会場まで連れ出されて、これである。
パーティーの会場で高らかに婚約破棄を宣言するエリック様。
集まった参加者の貴族たちが、エリック様の話を真剣な表情で聞いていた。もう、取り返しのつかない状況。
「俺は、その女が聖女にふさわしくないと確信している! この姿を見てみろッ! こんなにみすぼらしい聖女が居るものか!」
「……」
そう言って、私を指さすエリック様。聖女の仕事を終わらせて、急いで戻ってきたばかりなのだけど。なんの説明もしてもらえないで、会場まで連れてこられたのよ。それで責められるなんて、酷いと思う。
そもそも、聖女の格好がどうとか言われても関係ない。聖女にふさわしいかどうか決めるのは、見た目だけじゃない。能力が大事なのに。魔力とか、コントロール能力とか。そういうのが大事でしょ。神官じゃなくてもわかる、当然の話なのに。
そう思ったけれど、私は何も言わずに黙って状況を見守っていた。
「俺が聖女にふさわしいと思う女性は、彼女だ」
「エリック様……!」
そう言って、エリック様は笑顔を浮かべると隣にいた女性の肩を抱いた。
美しい純白のドレスを着た、とても可愛らしい少女。彼女は頬を赤く染めながら、うっとりとした表情でエリック様を見上げていた。この状況が当然だというように、受け入れていた。
エリック様とは、配下や友人のような関係じゃない。男女の仲なのでしょう。
私は彼女を知っている。神殿で何度か見かけたことがある。覚えている。名前は、なんだったかしら。名前までは、覚えていない。それぐらいの関係。
「この子の名はエリーゼ! 神殿内でも非常に評価が高く、素晴らしい才能を持っている女神官の1人だ」
そうだったかしら。私が名前を憶えていない程度よ。もしかして、見落としていた実力者なのかしら。どれどれ。ちょっと集中して見てみる。内包する魔力はどうか。ちゃんとコントロール出来ているのか。
「うーん」
神官としての実力は、そんなに高いようには見えない。私が指導している神官たちよりも下だと思う。そんな人物を、聖女に据えようとするなんて。
神官でもなんでもないエリック様が選んだようだから、実力があるかどうかなんて見極められなかったんだろうけど。それにしても、これは……。
神殿には彼女以外に、もっと力があってふさわしい人物が居るはず。それなのに、なんで彼女なのかしら。エリック様は、彼女のどこを見てそう思われたのか。それが疑問だった。
ただ単純に可愛いから? 彼女のような子と結婚したかった? それだけの理由で、私との婚約を破棄したのかしら。国のルールも無視して?
なるほど。そのために、彼女を聖女に据えようと考えたのかしらね。だとしたら、愚かとしか言いようがないわ。国が大変なことになるのに。
まあでも、私との婚約を破棄するのは決定事項みたいね。それと、女神官エリーゼを聖女に指名したいと言っている。撤回することは出来ないでしょう。こうやって、貴族たちの目の前で宣言してしまったのだから。
ならば、エリック様が望む通りにしましょう。もう、私にはどうしようもないことだから。そこまで、私と結婚するのが嫌だったみたいだから。
でも、最後に一度だけ確認してみる。答えを聞いて、私はどう思うのか。
「エリック様、本気でその子を愛しているのですか?」
「あぁ。もちろん、本気だ。お前なんか、これまで一度も愛したことはない。俺にはエリーゼが居たからな」
即答された。何の迷いのない瞳で。本気で言ってるんだなってわかるわ。やっぱりエリック様は、その女性がいいみたい。私ではなく、彼女のことを。
少しでも気持ちがあったのなら、もしかしたら。でも、私もエリック様との関係は無理だと思っていた。こうなるのが当然だったのよ。
「わかりました。では、どうぞご自由になさってください」
私も、覚悟を決めることにする。今までに別れを告げる覚悟を。そして、これから新しい未来を生きる覚悟を。
「君に言われなくても、好きにさせてもらうさ」
「そうですか。それではエリック様。それから皆様も、さようなら」
「ん? なにを――」
私は聖女の力を使って、魔法を発動させた。光が私たちを包み込み、会場全体まで広がる光。
まだまだ留まることなく広がり続けて、街から国中まで広がっていく。どこまでも、遠くへ余すところなく届くように。
聖女になってしまった私の相手に選ばれたのが、第一王子のエリック様。彼が私の婚約相手になるのは、当然のことだった。
国のルールと、王国と神殿の偉い人たちが決めたこと。私たちは、言われた通りに従うだけ。エリック様と私の相性は良くなったみたいだけど、嫌とは言えない。残念ながら、好き嫌いで一緒になる相手を選ぶことは出来ない。
王国と神殿の未来と繁栄のため、付き合っていくしかない。そう覚悟したけれど、彼はそうじゃなかったみたい。
「俺は、聖女ノエラとの婚約を破棄する!」
ある日突然、なんの詳しい説明もなく呼び出された私。来てみると、そこでも説明されないまま強引に会場まで連れ出されて、これである。
パーティーの会場で高らかに婚約破棄を宣言するエリック様。
集まった参加者の貴族たちが、エリック様の話を真剣な表情で聞いていた。もう、取り返しのつかない状況。
「俺は、その女が聖女にふさわしくないと確信している! この姿を見てみろッ! こんなにみすぼらしい聖女が居るものか!」
「……」
そう言って、私を指さすエリック様。聖女の仕事を終わらせて、急いで戻ってきたばかりなのだけど。なんの説明もしてもらえないで、会場まで連れてこられたのよ。それで責められるなんて、酷いと思う。
そもそも、聖女の格好がどうとか言われても関係ない。聖女にふさわしいかどうか決めるのは、見た目だけじゃない。能力が大事なのに。魔力とか、コントロール能力とか。そういうのが大事でしょ。神官じゃなくてもわかる、当然の話なのに。
そう思ったけれど、私は何も言わずに黙って状況を見守っていた。
「俺が聖女にふさわしいと思う女性は、彼女だ」
「エリック様……!」
そう言って、エリック様は笑顔を浮かべると隣にいた女性の肩を抱いた。
美しい純白のドレスを着た、とても可愛らしい少女。彼女は頬を赤く染めながら、うっとりとした表情でエリック様を見上げていた。この状況が当然だというように、受け入れていた。
エリック様とは、配下や友人のような関係じゃない。男女の仲なのでしょう。
私は彼女を知っている。神殿で何度か見かけたことがある。覚えている。名前は、なんだったかしら。名前までは、覚えていない。それぐらいの関係。
「この子の名はエリーゼ! 神殿内でも非常に評価が高く、素晴らしい才能を持っている女神官の1人だ」
そうだったかしら。私が名前を憶えていない程度よ。もしかして、見落としていた実力者なのかしら。どれどれ。ちょっと集中して見てみる。内包する魔力はどうか。ちゃんとコントロール出来ているのか。
「うーん」
神官としての実力は、そんなに高いようには見えない。私が指導している神官たちよりも下だと思う。そんな人物を、聖女に据えようとするなんて。
神官でもなんでもないエリック様が選んだようだから、実力があるかどうかなんて見極められなかったんだろうけど。それにしても、これは……。
神殿には彼女以外に、もっと力があってふさわしい人物が居るはず。それなのに、なんで彼女なのかしら。エリック様は、彼女のどこを見てそう思われたのか。それが疑問だった。
ただ単純に可愛いから? 彼女のような子と結婚したかった? それだけの理由で、私との婚約を破棄したのかしら。国のルールも無視して?
なるほど。そのために、彼女を聖女に据えようと考えたのかしらね。だとしたら、愚かとしか言いようがないわ。国が大変なことになるのに。
まあでも、私との婚約を破棄するのは決定事項みたいね。それと、女神官エリーゼを聖女に指名したいと言っている。撤回することは出来ないでしょう。こうやって、貴族たちの目の前で宣言してしまったのだから。
ならば、エリック様が望む通りにしましょう。もう、私にはどうしようもないことだから。そこまで、私と結婚するのが嫌だったみたいだから。
でも、最後に一度だけ確認してみる。答えを聞いて、私はどう思うのか。
「エリック様、本気でその子を愛しているのですか?」
「あぁ。もちろん、本気だ。お前なんか、これまで一度も愛したことはない。俺にはエリーゼが居たからな」
即答された。何の迷いのない瞳で。本気で言ってるんだなってわかるわ。やっぱりエリック様は、その女性がいいみたい。私ではなく、彼女のことを。
少しでも気持ちがあったのなら、もしかしたら。でも、私もエリック様との関係は無理だと思っていた。こうなるのが当然だったのよ。
「わかりました。では、どうぞご自由になさってください」
私も、覚悟を決めることにする。今までに別れを告げる覚悟を。そして、これから新しい未来を生きる覚悟を。
「君に言われなくても、好きにさせてもらうさ」
「そうですか。それではエリック様。それから皆様も、さようなら」
「ん? なにを――」
私は聖女の力を使って、魔法を発動させた。光が私たちを包み込み、会場全体まで広がる光。
まだまだ留まることなく広がり続けて、街から国中まで広がっていく。どこまでも、遠くへ余すところなく届くように。
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