女男の世界

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
28 / 50
第2章 学園編

閑話08 鏡桜の場合

しおりを挟む
 約束の時間まで、もう間もない。

 どの服を着ていこうか、朝から迷いに迷っている。女らしくするためにジーパンとシャツというラフな格好は、優君に受けるだろうか。

 それともビシッと決めるスラックスにワイシャツで、余裕っぽさを醸し出した服装のほうが良いだろうか。

 学園に行くから、単純に制服を着て行くか。でも今日は、休日だから。それとも、それとも……。

 あぁ、もう時間がない! 時計を見て焦る。約束した時間に絶対、遅れないようにしないと。1時間ほど迷った結果、一番最初に思いついたらラフな格好で行くことに決めた。

 ズボンのポケットに財布だけを入れて、家を出る。財布の中には、預かった部費も入っている。なので、絶対に落とさないようにしないと。

「母さん、ちょっと学園に行ってくるから」
「あれ? あんた、今日は休みじゃないの?」
「部活だよ」
「そう。わかった、行ってらっしゃい」

 母さんの適当な返事を背に受けながら家を出る。学園に行く前に、ちょっと用事がある。けれど、それは母さんには言わない。言う必要もない。

 電車に乗って、待ち合わせの場所へと到着する。予定の時間より5分ぐらい早めに来たというのに、既に優君は約束の場所で待っていた。

「おはようございます。鏡さん」
「ごめんなさい。遅れちゃったわね」
「いいえ、気にしないで下さい。僕が約束の時間よりも早く来ていただけですから。それに、僕もさっき来たばかりなので大丈夫ですよ」
「そうなの」

 優君が私に笑いかけてくれる。待たせてしまったのに彼はなんて優しいのだろう。しかも、漫画でよくあるようなシチュエーションに感動している。

 まさか私が、男性とこんな会話を交わせるなんて。嬉しすぎる。

「桜でいいよ、佐藤さん」
「それじゃあ僕も優って呼んでください、桜さん」
「う、うん。優君」
「はい」

 なんて幸せな時間なのかしら。休日の朝から私が、こんなに男性と会話するなんて想像していなかった。

「じゃあ、行きますか」
「えぇ。行きましょう」

 優君に促されて、学園近くにある商店街へ行くことになった。


***


「これとこれを買うんで、これとかオマケしてもらえませんか?」
「いいよぉ、これとこれをおまけしてあげる。ついでにこれもあげちゃう」
「ほんとですか? ありがとうございます」

 優君は先ほどから、八百屋の女主人と楽しそうにお話しながら買い物をしている。すごく楽しそうにしているので、見ているこっちも嬉しい。意外と女性と話すことに慣れている優君。

「あれ、桜じゃん。何してるの、こんなところで?」

 嫌な奴に出会ってしまった。同じクラスに所属している陽キャの美人に分類される女子生徒。肉付きがよくて、髪型もショートが似合うので非常にモテていた。学園の男子生徒からも人気だった。既に彼氏が居るという噂を聞いたことがある。

 本当に羨ましい。

 そんな彼女は、よくクラスメートの女子たちをイジっていた。私も、ターゲットにされてしまい苦手だった。休日には絶対に会いたくなかった人物。

 こんなところで、会ってしまうなんて不運だった。

「……」

 話したくない。無視して離れようとしたのに、彼女はちょっとムッとしてこちらに詰め寄ってきて、言う。なんで、わざわざ来たのか。今は放っておいてほしいのに。

「おい、無視すんなよ。ブス」

 すると、そこに買い物を終えた優君が戻ってくる。あぁ、なんてタイミングなの。彼女に会わせたくはなかったのに。早く離れるべきだった。

「あっ、佐藤さん。こんなところで出会えるなんて、奇遇ですね!」

 すぐに猫を被る彼女に、イラッとする私。それに騙されている男子生徒を、何人か見たことがある。そして、彼女は優君の事を知っていた。彼も、学園で有名だから。もしかしたら、2人は知り合いなのかしら。

 だけど彼女に話しかけられた優君は、とても不安そうな表情だった。

「えっと、……こんにちわ」
「どうしたの? せっかく休みの日に会えたのに、そんなに遠慮して」

 彼女は勘違いしている。遠慮しているんじゃなくて、彼は怖がっている。ここは、私が助けないと!

「彼、怖がってるでしょ。離れなさいよ」

 馴れ馴れしく手を伸ばして、優君に触れようとする彼女の前に立ちふさがる。

「何よ、桜のくせに。用があるのは佐藤さんの方。邪魔しないで」
「……」

 睨んでくる彼女に、視線を返す。

「ねぇ、佐藤さん。これから私と遊びに行かない?」
「え、無理です」
「えっ……」
「この後、用事があるので」
「……そ、そうなの」

 優君を遊びに誘うが、断られしまう彼女。まさか断られるなんて思っていなかったのか、優君の答えを聞いて少し呆然としていた。

「……フン!」

 そして彼女は、不機嫌そうに去っていく。後ろで、ふぅとため息を吐く優君。

「迷惑でしたか?」
「えっ、いえ全然。むしろ、見知らぬ女性から急に迫られて、ビックリしてました。だから、とても助かりました」
「そう、よかった」

 もしかしたら、迷惑がられるかもしれないとちょっと不安になっていた。だけど、助けに入って良かった。優君が、彼女の誘いを断ってくれた事も本当に嬉しかった。料理部を復興するために、本気で取り組んでくれているのが分かった。

「あっ、買った食材は持ちますよ。貸してください」
「えっ、いいですよ。これは、自分で持ちますよ、これでも男ですから」

 いやいや、男だから重い荷物は持っちゃだめなんですよ優君。

「いいから、貸してください。女の私が荷物を持たないで男性の横を歩いていると、私が責められちゃいますから」

 まだ悩んでいる優君の手から、無理やり袋を取り上げる。

「……じゃぁ、お願いします」

 優君は観念して、私に荷物を預けてくれた。少し重いが、これぐらいなら大丈夫。学園まで頑張って運ぼう。

「それで、さっきの人は誰ですか? クラスメート?」
「うん。彼女は、学園でも人気の美人。優君も、あんな女性が好み?」

 聞いてしまった。異性の好みを聞くなんて、少し踏み込みすぎた質問だったかも。質問した後に、ちょっと不安になった。だが彼は、すぐに答えてくれた。

「いや、全然。僕は、桜さんの方が好きですよ」

 私の目を見て、真剣にそう言ってくれる。彼はなんて、優しいんだろう。私なんて女性を好きと言ってくれるなんて。人生で初めての経験に、私は全身が痺れるような幸せを感じていた。生きててよかった!

 そんなよう会話をしながら、休日の午前中の買い出しは楽しく終わった。そして、私達は学校へ向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

処理中です...