上 下
8 / 31

第8話 酷く醜いやり取り ※とある使用人視点

しおりを挟む
 貴族の子息と、その関係者の女をライトナム侯爵家の屋敷に送り届けるという任務を与えられた俺たち。少し面倒な仕事だと事前に説明を受けたのだが、本当に面倒な仕事だった。

 これでシャロット様からお給料をもらっている。だからやらないといけない。だが、断れるのなら絶対に断っている。それぐらい面倒だと思うものだった。

「貴方のせいよ! なぜもっと、ちゃんと詳しい事情を教えてくれなかったのよ!」
「なんだと! 君が、シャロットに婚約破棄を受け入れろ、なんて言い出さなければ、こんな面倒な事にはならなかったんだ!」

 シャロット様の婚約相手だったデーヴィスという貴族の子息と、その男に寄生している幼馴染らしいローレインという傲慢な女が、馬車内で揉めている。俺たちは、その様子を黙って見ていた。巻き込まれないように。

 本当なら、奴らに黙れと言ってやりたい。そうすると面倒なのはわかっているので、口には出さない。

 早くライトナム侯爵家の屋敷に到着しないかな。騒がしい2人を目的地に届けて、とっとと帰りたいと思いながら。

「私は、貴方のためを思って行動したのに! なんで、褒めてくれないのよッ!」
「俺のため? そんなこと頼んでいないのに君は、余計な行動をしてくれた。それで、カナリニッジ侯爵家の次期当主になるはずだった地位が失われてしまったんだ! 君のせいだ!」
「そんなの最初から無理だったのよ! あの女の話を聞いてなかったの? アイツは最初から次期当主の座を譲るつもりは一切なかったのよッ!」
「それは仮定の話だよ。この先どうなるかなんて、わからなかったのに。上手くやれば、次期当主の座は俺が」
「無理よ!」

 お互いに罵倒して、責任を押し付け合う2人。しかも、シャロット様を貶すような言葉も聞こえてくる。

 自分たちが乗っている馬車が、カナリニッジ侯爵家の馬車だと認識していないのか。俺たちがカナリニッジ侯爵家の使用人であることを、2人は理解していないのかな。醜いやり取りを、今も見られている状態なのに。

 ここであった話は、もちろん後でシャロット様に全て報告する。元婚約相手が、次期当主の座を狙っていたことを。

 しかし、シャロット様がこんな愚かな男と結婚しなくて良かったと、俺は思っていた。他の使用人たちも、同じ気持ちだろう。

 貴族ってのは本当に大変だよな。家柄や血筋、他の家との関係を守るために、結婚する相手を自分で選ぶことが出来ない。家の利益のために結婚する相手を決めいないといけない。それが、どんなに愚かな男だったとしても。



 後継者の問題やライトナム侯爵家との関係で、デーヴィスという貴族の子息と婚約していたシャロット様。デーヴィスという貴族の子息は、色々と問題のある人物だった。

 婚約相手の屋敷に愛人を一緒に連れてくるなんて、あまり聞かないような話。本人たちは、ただの幼馴染だからと説明していた。しかし、そんな馬鹿な話を信じる者は居ない。それでも、シャロット様は、そんな男と結婚する予定を進めていた。色々と事情があったから。

 使用人の多くが反対していたけれど、その意見を言うことは出来ない。俺たちは所詮、使用人だから。貴族の世界は大変だと、見守ることしか出来ない。シャロット様はカナリニッジ侯爵家の存続ために婚約破棄は出来ないと、健気にも行動されていた。

 だが今回の件で、シャロット様がデーヴィスと結婚する必要がなくなった。彼らの愚かな行為によって、破談になった。俺たちが望んでいた展開である。

 シャロット様には幸せになってほしい。デーヴィスみたいな愚かな男と、結婚なんてしてほしくない。この婚約が破談になったことに、使用人たちは安堵していた。

 後継者問題で頭を悩ましているシャロット様には都合の悪い展開かもしれないが、それでも婚約が破談になったことは喜ばしい。

「ライトナム侯爵家に戻されたら、俺はどうすればいいだよ……」
「知らないわよ、そんなこと! それより、私はどうなるの。もちろん、ライトナム侯爵家に私の居場所はあるのよね?」
「それこそ、知らないよ」
「ほんと、頼りにならない男ね。楽しかった、カナリニッジ侯爵家での生活に戻りたいわ」

 すぐに、この2人をライトナム侯爵家に突き返してやろう。そして俺たちは、さっさと戻る。それで、この面倒な仕事は終わりだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

【完結】最低な婚約者と何でも欲しがる妹。私から婚約者を奪うのは止めた方がいいと言っているのに妹はまったく聞きません。

西東友一
恋愛
私の妹、クリスティーヌは何でも私の物を欲しがる。 私のお気に入りの服も。 私のお気に入りの傘も。 私のお気に入りの靴も。 亡くなった祖母からもらった大切なブローチも。 けれど、私から婚約者を奪うのは止めた方がいいと思うの。 だって・・・・・・

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。

はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」 「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」 「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」 「ああ…なるほど。わかりました」 皆が賑わう昼食時の学食。 私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。 マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。 全くこの人は… 全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。

義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!

新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…! ※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります! ※カクヨムにも投稿しています!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...