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21.尋問と処刑 ※エレーヌ視点

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 これは一体、何なのよッ!

 平民が暮らすような狭くて粗末な部屋に押し込められて、私は自由を奪われた。

 一人きりにされて、部屋の外に出ることも出来ない。何度繰り返しお願いしても、ここから出してくれなかった。

「ねぇ、ここから出しなさい! 私は、モリエール家の娘よ! ジョセフ様の婚約者なのよ!?」

 バンバンと扉を叩いて叫ぶが、外にいる兵士たちは私の声を無視する。



 かと思えば急に、鎧を着た見知らぬ男たちが部屋に入ってきてきた。一人の男が、私の許可も得ずに部屋の中央に置いてあった椅子に座った。

「な、なによ! アンタたち!」
「そちらの席に座って。話を聞きたい」
「ハァ?」

 話を聞きたいという。私のことを無視するくせに、向こうは話を聞きたいなんて。そんなの不公平だわ。

 だから私は最初、壁際に立ったまま黙った。彼らの質問には絶対に答えない。そう思って、口を閉じ続けた。

「屋敷で何があった?」
「……」
「正直に話さないと、痛い目を見るぞ!」
「ひっ!」

 一人の男が乱暴に机を叩き、大きな音で私を威嚇する。酷い脅迫だ。そんなことをされたら、黙り続けることが怖くなった。

「わ、わかったわよ。何があったか、話すわ」

 男の指示に従って、聞かれたことについて答える。

 今回のことは後でジョセフ様に報告して、乱暴な彼らを叱ってもらう。女性を脅迫するなんて、酷い兵士だから。そう考えて、怒りを抑え込んだ。

 お父様が屋敷に盗賊団を招いたこと。彼らが急に怒って、暴れだしたこと。屋敷で働く執事や侍女たちを斬って、私まで殺そうとした酷い奴らだったこと。

 襲われたのは私達で、盗賊の奴らが悪いのだ。

 私の発言を、いちいち記録していく兵士の男。これを話せば、この部屋から出してもらえるのか。

「そもそも、なぜモリエール家の当主は盗賊なんかを屋敷に招いたんだ?」
「そうです! 悪いのは全部、お姉様なんです! あの人が悪いんですよ!!」
「は?」

 そうだった。こうなったのも、お姉様が原因だった。ジョセフ様を奪って私を悲しませて、その姿を見て笑っていた。あんな酷い女は、痛い目を見るべきなんだ。

 私は、モリエール家の長女がどんなに卑劣で極悪な女なのかを彼らに説明した。

 どれくらい話しただろうか。ようやく満足したのか、彼らは部屋から出ていった。そしてまた、私は一人にされる。早く、この部屋から出たいのだけれど。

 いつになったら、ここから出してくれるのかしら。



 この部屋に入れられてから、どのぐらいの時間が過ぎただろうか。もしかしたら、もう出れないのかもしれない。不安になってきた頃に再び、見知らぬ男たちが部屋に勝手に入ってきた。

「君の死刑が決定した。陛下より、モリエール家令嬢のエレーヌに毒杯を下賜する」
「な、なんで? 私、何も悪いことなんてしてない!?」

 突然言われたことに、私は混乱する。死刑だなんて、そんなのおかしい。

「感謝しながら、頂戴せよ」

 禍々しい色の液体が入った金色の杯が、目の前に差し出される。こんなもの、受け取るわけない。だが、男たちが左右から私の身体を掴んだ。

「やめなさい! 離しなさいよっ!」
「安心しなさい。これを飲めば、痛みもなく終わる。陛下の温情と心得よ」
「くっ! んっ。う、ぐうっ!?」

 顎を掴まれて、私は無理やり口を開かれた。
 
 こんなの間違っている。こうなるのは、絶対に姉の方。そして、ジョセフ様も役に立たない。あんなに慕っていたのに、なぜ助けてくれないのか。ちゃんと私のことを守ってくれないと、困るのに!

「んっ! ぐっんっ!」

 舌や唇がピリピリと痺れて、喉が焼けるように熱くなった。

 吐き出そうとしたけれども、液体が口の中に入った後は無理やり顎を押されて口が閉じる。息も吸えなくて、苦しい。どんどん視界が暗くなっていく。そして、私は。
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