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第8話 中央から来た令嬢 ※スタンレイ辺境伯視点
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中央から送られてくる命令は、いつも突然だった。今回も唐突に、婚約した相手を送るという話が来た。
こちらの返事も聞かず勝手に、俺はとある令嬢と婚約した。つまり結婚することが決まったらしい。
たしかに俺は独身だった。結婚を約束している相手も居ない。だが、どうするのか意見を言う機会ぐらいは与えてほしいものだ。
こちらの事情なんて、何も気にしていない。いつもの通り中央の、頭に来る対応。辺境だからって舐めているんだろう。こちら側の要請など常に無視するくせに、勝手すぎる。
さらに俺を困らせたのは、相手の女性について。
この国でも指折りの貴族の娘で、ルブルトン家のご令嬢らしい。そんな、普段なら絶対に関わらないような娘と俺が釣り合うわけがない。
しかも、ルブルトン家の令嬢はフィリベール王子の婚約者だったはず。その令嬢がなぜ、辺境の地に送られてくるのか。
王子との婚約は破棄されたのか。それほどの、とんでもない事件を起こしたのか。厄介者だから、辺境に送られてくるのか。嫌な想像が次々と、頭の中を駆け巡った。
とりあえず、一番ありそうな可能性としては、その令嬢が他の男と浮気したから、王子との婚約関係が破棄されたとか。罰として辺境の地へ送ろう、というような流れかな。
だとしたら、その令嬢は面倒な人物の可能性が高い。ルブルトン家の令嬢が、一体どんな人物なのか詳しくは分からない。何もかも情報不足である。
辺境に居ると、中央の事情なんて分からない。興味も無いから、関わらないようにしていた。中央の面倒な政治に巻き込まないでほしい、というのが俺の本音だった。
ただ、今回の件で問答無用に巻き込まれてしまった。こんな事になるのであれば、少しぐらいは調べておくべきだったかな。今更後悔しても、もう遅いが。
こちらに送られてくるという令嬢は、俺の噂を聞いているはず。どうやら俺は有名らしいから。
令嬢が、どういった反応をするのか予想してみた。だが、おそらく駄目だろうな。特に中央にいる紳士淑女なんて、見た目を一番気にしているだろうから。俺のような顔の男を受け入れるはずがない。それは、わかりきったことだ。
数日後には到着するという、ルブルトン家のご令嬢。出来ることなら会いたくないけれど、無理だろう。しばらく俺は、憂鬱な日々を過ごすことになった。
「ブレイク様、例の女性が到着なされたようです」
「……そうか。部屋まで通してくれ」
「かしこまりました」
部屋に入ってきた執事の報告を聞いて、俺はため息を吐きながら指示する。部屋を出ていく執事を、不安な気持ちで見送った。
到着が遅れるという先触れがあったが、とうとう来てしまったか。このままずっと来るのが遅れてくれたなら助かったのにな。しかし、現実は無情だ。
椅子から立ち上がり、外の景色を眺める。あー、憂鬱だ。
最近ようやく領民たちが、俺の見た目に慣れてくれた。見た目を気にしない人達が増えてくれた。だから俺も、そんなに気にしなくてよくなっていた。
それなのに、中央からやって来た人間ならば間違いなく反応するだろう。まだ見ぬ女性の反応を予想して、俺はショックを受ける。嫌だなぁ。顔を合わせたくないな。顔を見て驚かれるなんて、本当に嫌なんだ。
ガチャッと、部屋の扉が開いた音が背後から聞こえてくる。人が入ってくる気配を背中に感じた。
「初めまして、レティシア・ルブルトンと申します。遅れて申し訳ありません」
心地いい澄んだ声で挨拶と謝罪の言葉が聞こえてくる。声を聞いてみると、事前にイメージしていた面倒で厄介な人物じゃないみたいだ。到着が遅れたことを謝罪する礼儀もあるらしい。
覚悟を決めて振り返ると、彼女は頭を下げて謝っていた。振る舞いを見るだけでも分かる、しっかりと教育されている淑女のよう。
なぜ彼女のような人物が辺境に送られてきて、俺の婚約相手にされたのだろうか。まだ分からない。これは本人から直接、詳しい事情について聞くしかないかな。
そう考えながら俺は、彼女に返事をした。
「いえいえ、王都から辺境まで来るのに予定が狂ってしまうのは仕方ありませんよ。それより、遠路はるばるご苦労さまでした。俺がブレイク・スタンレイです。どうぞよろしく」
ゆっくりと落ち着いた優雅な動きで、頭を上げるレティシア嬢。
さて、彼女はどんな反応をするかな。俺の顔を見て驚くか、怖がるか、怒るのか。
こちらの返事も聞かず勝手に、俺はとある令嬢と婚約した。つまり結婚することが決まったらしい。
たしかに俺は独身だった。結婚を約束している相手も居ない。だが、どうするのか意見を言う機会ぐらいは与えてほしいものだ。
こちらの事情なんて、何も気にしていない。いつもの通り中央の、頭に来る対応。辺境だからって舐めているんだろう。こちら側の要請など常に無視するくせに、勝手すぎる。
さらに俺を困らせたのは、相手の女性について。
この国でも指折りの貴族の娘で、ルブルトン家のご令嬢らしい。そんな、普段なら絶対に関わらないような娘と俺が釣り合うわけがない。
しかも、ルブルトン家の令嬢はフィリベール王子の婚約者だったはず。その令嬢がなぜ、辺境の地に送られてくるのか。
王子との婚約は破棄されたのか。それほどの、とんでもない事件を起こしたのか。厄介者だから、辺境に送られてくるのか。嫌な想像が次々と、頭の中を駆け巡った。
とりあえず、一番ありそうな可能性としては、その令嬢が他の男と浮気したから、王子との婚約関係が破棄されたとか。罰として辺境の地へ送ろう、というような流れかな。
だとしたら、その令嬢は面倒な人物の可能性が高い。ルブルトン家の令嬢が、一体どんな人物なのか詳しくは分からない。何もかも情報不足である。
辺境に居ると、中央の事情なんて分からない。興味も無いから、関わらないようにしていた。中央の面倒な政治に巻き込まないでほしい、というのが俺の本音だった。
ただ、今回の件で問答無用に巻き込まれてしまった。こんな事になるのであれば、少しぐらいは調べておくべきだったかな。今更後悔しても、もう遅いが。
こちらに送られてくるという令嬢は、俺の噂を聞いているはず。どうやら俺は有名らしいから。
令嬢が、どういった反応をするのか予想してみた。だが、おそらく駄目だろうな。特に中央にいる紳士淑女なんて、見た目を一番気にしているだろうから。俺のような顔の男を受け入れるはずがない。それは、わかりきったことだ。
数日後には到着するという、ルブルトン家のご令嬢。出来ることなら会いたくないけれど、無理だろう。しばらく俺は、憂鬱な日々を過ごすことになった。
「ブレイク様、例の女性が到着なされたようです」
「……そうか。部屋まで通してくれ」
「かしこまりました」
部屋に入ってきた執事の報告を聞いて、俺はため息を吐きながら指示する。部屋を出ていく執事を、不安な気持ちで見送った。
到着が遅れるという先触れがあったが、とうとう来てしまったか。このままずっと来るのが遅れてくれたなら助かったのにな。しかし、現実は無情だ。
椅子から立ち上がり、外の景色を眺める。あー、憂鬱だ。
最近ようやく領民たちが、俺の見た目に慣れてくれた。見た目を気にしない人達が増えてくれた。だから俺も、そんなに気にしなくてよくなっていた。
それなのに、中央からやって来た人間ならば間違いなく反応するだろう。まだ見ぬ女性の反応を予想して、俺はショックを受ける。嫌だなぁ。顔を合わせたくないな。顔を見て驚かれるなんて、本当に嫌なんだ。
ガチャッと、部屋の扉が開いた音が背後から聞こえてくる。人が入ってくる気配を背中に感じた。
「初めまして、レティシア・ルブルトンと申します。遅れて申し訳ありません」
心地いい澄んだ声で挨拶と謝罪の言葉が聞こえてくる。声を聞いてみると、事前にイメージしていた面倒で厄介な人物じゃないみたいだ。到着が遅れたことを謝罪する礼儀もあるらしい。
覚悟を決めて振り返ると、彼女は頭を下げて謝っていた。振る舞いを見るだけでも分かる、しっかりと教育されている淑女のよう。
なぜ彼女のような人物が辺境に送られてきて、俺の婚約相手にされたのだろうか。まだ分からない。これは本人から直接、詳しい事情について聞くしかないかな。
そう考えながら俺は、彼女に返事をした。
「いえいえ、王都から辺境まで来るのに予定が狂ってしまうのは仕方ありませんよ。それより、遠路はるばるご苦労さまでした。俺がブレイク・スタンレイです。どうぞよろしく」
ゆっくりと落ち着いた優雅な動きで、頭を上げるレティシア嬢。
さて、彼女はどんな反応をするかな。俺の顔を見て驚くか、怖がるか、怒るのか。
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