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第03話 二人の話し合い
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「サインすれば、婚約関係は綺麗サッパリ解消される。さぁ、早く書くんだ!」
「……いえ、ですが」
「なんだ?」
テーブルの上に置かれた、一枚の紙。どうやら、レナルド王子との婚約破棄を私が認めた証明にする、ということが目的の書類らしい。
さっさとサインしろと、彼は膝を細かく揺り動かして苛立ちながら命令してくる。
だけど、どうしても聞いておかなければならないことがある。私は、片手にペンを持ちながらレナルド王子に尋ねた。
「こんなに大事なことを、私の意思だけで勝手に決めてもよろしいのでしょうか? 両親や、関係者の方々に相談しないと」
この婚約は、ラフォン家の当主と国王が決めたことだ。しかも王家の結婚だから、関わる人も多いだろう。なのに、私がこの書類にサインしてもいいのか。婚約破棄を認めても大丈夫なのか。
レナルド王子と私の二人が勝手に婚約を破棄した、ということにならないか。そうだとすると、色々と問題となる。私は、それが心配だった。
特に、国王は数ヶ月前に病死している。亡くなった人の遺した約束を、私が勝手に取り消してもいいのか。
レナルド王子は、私の疑問にあっさりと答えた。
「相談する必要など無い。婚約関係に関する問題は、既に話し合いが終わっている。ラフォン家の当主や、関係する者たちは全員ちゃんと把握しているぞ。後は、お前が書類にサインすれば全て終わる。だから、さっさとしたまえ!」
なるほど、そうだったのね。私は何も聞かされていなかった。けれど既に根回しは完了している、ということらしい。最近お父様が忙しくしていたことや、私に向ける刺々しい視線の理由が分かった。
私が知らなかっただけで、随分前から婚約を破棄することは決まっていたのね。
それなら、私はサインするのに躊躇いはない。ここでレナルド王子と話し合っても、この決定は覆らないだろうし。
書類に名前を書き終わった瞬間すぐ、テーブルの上に置かれた書類を奪い取るようにして取り上げるレナルド王子。サインをチェックすると、彼は私の顔を睨みつけて言う。
「もう用事は済んだ。早急に、この部屋から出ていきたまえ」
「はい。失礼しますわ」
椅子から立ち上がる私に、レナルド王子が手をシッシッと追い払うように振った。獣に向けるような仕草。屈辱的な行為。この人は、そこまで私のことを鬱陶しい存在だと思っていたのね。
私も表に出さないように必死に隠していたけれど、同じ気持ちよ。
「カトリーヌ、最後に言っておくが」
部屋から出る直前に、レナルド王子が話しかけてきた。無視して出ていくわけにはいかない、か。私は扉の前で立ち止まり、顔だけ振り返る。すぐ出ていけるように、扉の取っ手を握りしめながら。
「なんでしょうか?」
「お前、さっさと俺の国からも出ていけよ。お前が居ると不運に見舞われる。お前が近くに居るだけで困るんだよ」
こうして、私とレナルド王子の婚約関係は解消された。
「……いえ、ですが」
「なんだ?」
テーブルの上に置かれた、一枚の紙。どうやら、レナルド王子との婚約破棄を私が認めた証明にする、ということが目的の書類らしい。
さっさとサインしろと、彼は膝を細かく揺り動かして苛立ちながら命令してくる。
だけど、どうしても聞いておかなければならないことがある。私は、片手にペンを持ちながらレナルド王子に尋ねた。
「こんなに大事なことを、私の意思だけで勝手に決めてもよろしいのでしょうか? 両親や、関係者の方々に相談しないと」
この婚約は、ラフォン家の当主と国王が決めたことだ。しかも王家の結婚だから、関わる人も多いだろう。なのに、私がこの書類にサインしてもいいのか。婚約破棄を認めても大丈夫なのか。
レナルド王子と私の二人が勝手に婚約を破棄した、ということにならないか。そうだとすると、色々と問題となる。私は、それが心配だった。
特に、国王は数ヶ月前に病死している。亡くなった人の遺した約束を、私が勝手に取り消してもいいのか。
レナルド王子は、私の疑問にあっさりと答えた。
「相談する必要など無い。婚約関係に関する問題は、既に話し合いが終わっている。ラフォン家の当主や、関係する者たちは全員ちゃんと把握しているぞ。後は、お前が書類にサインすれば全て終わる。だから、さっさとしたまえ!」
なるほど、そうだったのね。私は何も聞かされていなかった。けれど既に根回しは完了している、ということらしい。最近お父様が忙しくしていたことや、私に向ける刺々しい視線の理由が分かった。
私が知らなかっただけで、随分前から婚約を破棄することは決まっていたのね。
それなら、私はサインするのに躊躇いはない。ここでレナルド王子と話し合っても、この決定は覆らないだろうし。
書類に名前を書き終わった瞬間すぐ、テーブルの上に置かれた書類を奪い取るようにして取り上げるレナルド王子。サインをチェックすると、彼は私の顔を睨みつけて言う。
「もう用事は済んだ。早急に、この部屋から出ていきたまえ」
「はい。失礼しますわ」
椅子から立ち上がる私に、レナルド王子が手をシッシッと追い払うように振った。獣に向けるような仕草。屈辱的な行為。この人は、そこまで私のことを鬱陶しい存在だと思っていたのね。
私も表に出さないように必死に隠していたけれど、同じ気持ちよ。
「カトリーヌ、最後に言っておくが」
部屋から出る直前に、レナルド王子が話しかけてきた。無視して出ていくわけにはいかない、か。私は扉の前で立ち止まり、顔だけ振り返る。すぐ出ていけるように、扉の取っ手を握りしめながら。
「なんでしょうか?」
「お前、さっさと俺の国からも出ていけよ。お前が居ると不運に見舞われる。お前が近くに居るだけで困るんだよ」
こうして、私とレナルド王子の婚約関係は解消された。
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