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不運を振りまく存在

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 クライブ王子から婚約関係を破棄された後、私はロウワルノール家の当主である父親に報告するため生活している屋敷まで帰ってきた。婚約破棄については、どうやら王子は私よりも先に話をして当主である父親は知っていたようだったけれど。



「なんということだ! お前は、何も言わず婚約を破棄する書類にサインしたということか」
「はい」
「クソッ! 役立たずめッ! 王族との関係を築くために、今までどれだけの資金と労力を費やしてきたのか、お前は分かっておるのか!」
「ッ! 申し訳、ありません……」
「クソッ! クソッ! クソッ!」

 王子との婚約を破棄した件について報告すると、父親は荒れた。顔を真っ赤にして唾を飛ばし怒鳴りながら、私を叱った。どうやら、私が何とかして婚約破棄させないようにすることを望んでいたようだ。

 父親の願いは叶わず、怒っているらしい。

 それだけでは怒りが収まらなかったようで、椅子から立ち上がって家具を蹴ったり美術品を投げたりして物に当たって怒りを撒き散らしていた。

 私は、ひたすらに謝ることしか出来ない。立ったまま顔を伏せて身体を縮こまらせると、嵐が過ぎ去るのを待った。

「オ、オリバー様! 落ち着いてください……!」
「ふぅー! ふぅー! ックソッ!」
「……」

 肩で息をする父親。間近で待機していた執事の男性が、なんとか怒りを鎮めようと声をかける。

 おそらく、彼が居てくれたお陰で私は暴力を振るわれずに済んだ。父親は、体面を保つことにもの凄く気を使う人だったから。もし他に誰も居なかったとしたら、跡が残らない程度の強さで顔を打たれていただろうと思う。

「やはりお前は、災厄の存在だということか」
「……」
「お前が周囲に不運を振りまくせいで、ロウワルノール家は没落の一途をたどることになるッ!」

 そんなこと、私はしていない! そう訴えたかった。けれども、周りからは災厄の存在だと認識されてしまっている。

 悪いことが起きたり、運が悪いのは全て私のせいだと言われ続けてきた。

 運なんて、そんな不確かな存在。私のせいであるという証拠なんて何も無いというのに。今まで、全ての責任を押し付けられてきた。

「不愉快だ。さっさと、この家から出ていけ」
「……ッ! それは! 私は、生きていけない……」
「問答無用! クライブ王子の婚約者じゃなくなったお前という存在は、何の価値も無くなった! むしろ、ロウワルノール家にとって厄介だ!」
「……」
「今まで育ててやった恩義を感じているのなら、今すぐに我がロウワルノール家から出ていくんだな」

 そんな事、出来るはずがない。何の当てもなく家から追い出されるなんて。

 こうして私はその日のうちに婚約関係が解消されただけでなく、生まれ育った家も追い出されることになってしまった。
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