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第10話 最後の望み
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国王陛下の意向を無視して、大勢の子息子女達が居る目の前で婚約破棄を告げた。彼の愚かな行為は、もはや隠すことは不可能。
王位継承権を剥奪されて、王室も除名されたことが皆に知られた。
一瞬にして王子の立場と、輝かしい未来を失ってしまったアンセルム元王子。
取り巻き達は元王子から距離を取り始める。彼を助けようとはしない。
アンセルム元王子の腕の中に愛するディアヌだけが残っている。彼は、ディアヌを守るようにして、あるいは逃さないように、強く抱きしめていた。
腕の中のディアヌは、悲しそうな表情。ちょっと迷惑そうな感じもする。そこから逃げ出したいのかもしれない。
彼女の表情には気付かずに、アンセルム元王子は周囲を見回していた。
誰か、味方になってくれる者を探している。今の状況を引っくり返してほしいと、助けを求めているのね。私は、彼の思考が手にとるように分かった。この状況なら、誰でも分かりそうね。
「エリオット、助けてくれッ! お前は、俺に忠誠を誓っただろう? なぁ!」
元王子が助けを求めたのは、赤ん坊から今まで一緒に過ごしてきた、天才魔法士のエリオットだった。
天才と呼ばれている彼ならば、今の状況を覆すことも可能かもしれないと期待して頼ったのだろう。
今まで沈黙を保ち、冷ややかな表情で状況を見守っていたエリオットが口を開く。
「無理です。私が忠誠を誓ったのは、王子だった頃の貴方ですから。今の貴方に従う理由がありません」
「なっ!?」
希望に満ちた表情のアンセルム王子は、返答を聞いて一瞬にして絶望の顔になる。エリオットが拒否するなんて、思っていなかったみたいね。
「何故だ! お前は、俺の!」
「私は今まで、この王国の未来のため貴方に仕えてきました。敬意を持って、貴方を支えようと努力しました。なのに貴方は、ディアヌとの関係を断たなかった。何度も忠告したのに、私の話を聞こうとしなかった」
エリオットは呆れたという表情で、アンセルム元王子に語る。そんなエリオットの話を聞いて、慌てて反論しようとする元王子。
「ち、ちがう! それは、忠告を聞かなかったんじゃない! それに、お前は認めてくれたんだろ? 最近は、ディアヌについて何も言ってこなかった! それで俺は、彼女のことを認めたんだと思って」
「見限ったんですよ。何を言っても聞き入れないから、忠告しても無駄だと思った。それだけです」
「だ、だが、お前だって!」
淡々と話し続けるエリオットに、焦りを募らせるアンセルム元王子。
「お前だって、ディアヌに惚れていたんだろう? だから、いつも俺たちと一緒に居た。それで、俺がディアヌと親しくなりすぎないように、あんな事を言ったと思っていたんだ! 俺と彼女の仲を嫉妬して!」
ディアヌに惚れていると言われて、とても不快そうな表情を浮かべるエリオット。かなり嫌そうね。気持ちは分かる。
「その女に惚れるなんて、ありえません。貴方のそばに居たのは、陛下からの指示で貴方達を監視していただけですよ。問題を起こすまでは、息子のそばに仕えてほしいという陛下からの言葉がなければ、とっくに離れていました」
「そんな……」
ようやく、アンセルム元王子の心が折れてくれたようだ。私は、婚約者だった彼の顔を見つめて、目に焼き付けた。苦しくて辛いけれど、絶対に忘れない。
王位継承権を剥奪されて、王室も除名されたことが皆に知られた。
一瞬にして王子の立場と、輝かしい未来を失ってしまったアンセルム元王子。
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アンセルム元王子の腕の中に愛するディアヌだけが残っている。彼は、ディアヌを守るようにして、あるいは逃さないように、強く抱きしめていた。
腕の中のディアヌは、悲しそうな表情。ちょっと迷惑そうな感じもする。そこから逃げ出したいのかもしれない。
彼女の表情には気付かずに、アンセルム元王子は周囲を見回していた。
誰か、味方になってくれる者を探している。今の状況を引っくり返してほしいと、助けを求めているのね。私は、彼の思考が手にとるように分かった。この状況なら、誰でも分かりそうね。
「エリオット、助けてくれッ! お前は、俺に忠誠を誓っただろう? なぁ!」
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天才と呼ばれている彼ならば、今の状況を覆すことも可能かもしれないと期待して頼ったのだろう。
今まで沈黙を保ち、冷ややかな表情で状況を見守っていたエリオットが口を開く。
「無理です。私が忠誠を誓ったのは、王子だった頃の貴方ですから。今の貴方に従う理由がありません」
「なっ!?」
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「何故だ! お前は、俺の!」
「私は今まで、この王国の未来のため貴方に仕えてきました。敬意を持って、貴方を支えようと努力しました。なのに貴方は、ディアヌとの関係を断たなかった。何度も忠告したのに、私の話を聞こうとしなかった」
エリオットは呆れたという表情で、アンセルム元王子に語る。そんなエリオットの話を聞いて、慌てて反論しようとする元王子。
「ち、ちがう! それは、忠告を聞かなかったんじゃない! それに、お前は認めてくれたんだろ? 最近は、ディアヌについて何も言ってこなかった! それで俺は、彼女のことを認めたんだと思って」
「見限ったんですよ。何を言っても聞き入れないから、忠告しても無駄だと思った。それだけです」
「だ、だが、お前だって!」
淡々と話し続けるエリオットに、焦りを募らせるアンセルム元王子。
「お前だって、ディアヌに惚れていたんだろう? だから、いつも俺たちと一緒に居た。それで、俺がディアヌと親しくなりすぎないように、あんな事を言ったと思っていたんだ! 俺と彼女の仲を嫉妬して!」
ディアヌに惚れていると言われて、とても不快そうな表情を浮かべるエリオット。かなり嫌そうね。気持ちは分かる。
「その女に惚れるなんて、ありえません。貴方のそばに居たのは、陛下からの指示で貴方達を監視していただけですよ。問題を起こすまでは、息子のそばに仕えてほしいという陛下からの言葉がなければ、とっくに離れていました」
「そんな……」
ようやく、アンセルム元王子の心が折れてくれたようだ。私は、婚約者だった彼の顔を見つめて、目に焼き付けた。苦しくて辛いけれど、絶対に忘れない。
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