上 下
11 / 40

第11話 不安なまま

しおりを挟む
 両親と妹に別れを告げた後。すぐに家から出る準備を終えて、屋敷の外に出た。

 外には馬車が止まっていて、ナハティガル男爵家の御者とメイドが待機していた。その馬車で送ってくれるらしい。

「お待ちしておりました、ベリンダお嬢様。どうぞ乗って下さい」
「あ、ありがとう」
「お荷物は、私が受け取ります」
「お願いするわね」

 とても丁寧に対応してくれる彼ら。指示に従い、荷物を預けて馬車に乗り込んだ。すると、馬車の外から声が聞こえる。

「えっと……、お荷物はこれだけですか?」
「ええ、そうよ」

 部屋の物をまとめて持ってきた私の荷物を受け取ったメイドの女性が、困惑した表情で聞いてくる。たしかに、かなり少ないだろうと思う。

 私が物を持っていないから。今まで妹に色々と盗まれてきて、持たないようにしているので。私の持ち物は、かなり少ない。

 お気に入りの服やアクセサリー、思い出の品など何も無かった。唯一、大事だったパーティーに関する資料なども全て処分してしまった。だから、向こうに持っていく荷物も少ない。メイドの女性が驚くほど。

 荷物が少ないからこそ、移動が楽で素早く出来るというメリットがあったけれど、嬉しくはない。

「随分と少ないですね……」
「着替えとか化粧品とか、必要最低限しか持っていかないから」
「そうですか……」

 メイドと御者はそれ以上何も聞かずに、すぐに荷物の積み込みを終えた。

「では、出発します」

 メイドと御者も馬車に乗り込んだ。そして、すぐ出発する。走り出した馬車の中で私は、窓の外の景色を眺めて黙り込む。これから向かう先のことを考えていた。

 ナハティガル男爵家の情報は頭に入っている。1度、私の開いたパーティーに参加してもらったこともあった。その時に挨拶したことも覚えている。だけど、今までの関係はそれぐらい。スターム侯爵家と関係が深い、ということでもないはず。むしろ両家の関係は薄い。一緒に仕事をしたとか、商売で協力したとかもないはずだ。

 そんな両家が、なんで取引したのか。ナハティガル男爵家には他の候補がなかったのかしら。どうして、私を選んだのか。

 ナハティガル男爵家には、まだ跡継ぎの子が居ない。つまり、子供が欲しくて私を引き取ったのだろう。

 でも、それなら男子を引き取りたいと考えるはずだろう。なぜ女である私なのか。色々と事情があるのだろうと思うけれど、その理由は分からない。何の説明も聞いていないから。今は、いくら考えても分からない。

 歓迎されるなんて期待はしない方がいいのだろう。期待してしまったら、酷かった時の落胆が大きいから。私の人生なんて、期待するだけ損をするだけなんだから。

 王都の中央から、かなり離れた場所にある小さなお屋敷に到着した。考え事をしている間に、すぐ到着してしまった。私は、この屋敷の人達に引き取ってもらう。

 これから、どんな生活が待っているのか。私は覚悟を決めて、馬車から降りた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました

榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。 私と旦那様は結婚して4年目になります。 可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。 でも旦那様は.........

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

〖完結〗妹が妊娠しました。相手は私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
妹のデイジーは、全てを奪って行く。愛する婚約者も、例外ではなかった。 「私ね、キール様の子を妊娠したみたいなの」 妹は、私の婚約者との子を妊娠した。両親は妹を叱るどころか二人の婚約を祝福した。 だけど、妹は勘違いをしている。彼を愛してはいたけど、信じてはいなかった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

私が消えた後のこと

藍田ひびき
恋愛
 クレヴァリー伯爵令嬢シャーロットが失踪した。  シャーロットが受け取るべき遺産と爵位を手中にしたい叔父、浮気をしていた婚約者、彼女を虐めていた従妹。  彼らは自らの欲望を満たすべく、シャーロットの不在を利用しようとする。それが破滅への道とも知らずに……。 ※ 6/3 後日談を追加しました。 ※ 6/2 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございました。 ※ なろうにも投稿しています。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

処理中です...