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14.門
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結局その後何も話すことがないまま、日は沈んでいった。
「遅くなったし送るよ」
「いいえ、前もこのくらい暗かったですし平気です」
「じゃあ、門まで送るよ」
流石にそれを断るわけにもいかず、ローマンに門外まで送ってもらった。
「それでは」
ローマンに一礼する。
「その、オレは本当に……」
コツン コツン
ローマンが何か言いかけた時、後ろから聞き覚えのある音がして思わず振り返る。
「ジョセフ様……」
私の声に気づいたのか、ジョセフ様と目が合った。
「ソフィア」
私の鼓動が早くなるのがわかった。
「偶然ですね。家に帰るところですか?」
少しの沈黙が流れ、私から切り出した。
「ああ、そうだが……彼は?」
ジョセフ様の目線がローマンへと移る。
「オレはソフィアの旦那さん候補」
「ちょっと!ローマン何言ってるの」
変なことを言い出すローマンを慌てて否定する。
「……へー」
ジョセフ様の視線が急に冷たくなった。
「ローマンはただの友人です!」
ジョセフ様はこんなつまらない冗談嫌いだよね。
「今のところはね」
「だからローマン!」
「君みたいな軽薄な男はソフィアには合わないんじゃないか」
ジョセフ様の普段より少し低い声に、空気が一瞬張り詰めた。
「冗談、冗談。そうだ!外は暗いしソフィアのこと送ってあげて、じゃあ」
ローマンは大袈裟に笑いながらこちらに手を振り向きを変えた。
「え!ローマン」
私の声に留まることもなく、屋敷の中へと消えていった。
「ジョセフ様すみません。1人で大丈夫なので」
「いや、送るよ」
「無理しなくていいですよ」
これだって無理にローマンが言ったから、送ってくれようとしてくれてるだけなんだ。
「夜道は危ない。俺が心配だから送らせてほしい」
「わかりました」
ただの親切心なのに、私なんかのことを心配してくれることだけで嬉しかった。
家までの道のりを歩きながら言葉を巡らせる。
聞きたいこといっぱいあるのに、それを言葉にするのが怖い。
「あの店の娘の家庭教師をしているんだな」
「はい。ハルさんから聞きましたか?」
「ああ、あの店の店主から聞いた」
「そうなんですね」
この街に来てからのことも話したい。でも……
「仕事大変か?」
「いいえ、教え甲斐もあって楽しくやらせていただいてます」
「そうか」
でも、本当に話したいことはではない。
私の家に着くまで当たり障りのないこと以外、何も話すことはできなかった。
「送っていただきありがとうございました」
「いや、いいんだ。……それでは」
ジョセフ様は私に一礼し、背中を向けた。
「お待ちください!」
私は慌ててジョセフ様の手首を掴んだ。
「どうかしたか?」
ジョセフ様は振り返り、少し屈んだ。
咄嗟に掴んでしまったけど、ここで何か言わないと私はずっと後悔する気がする。
「その……この間のことも含めてお礼をさせてください」
「大丈夫。この間、店でまけてもらったばかりだし」
「この間のもハルさんのご厚意で私は何もできていないのです」
結局、人に頼ってばかりで情けない。
「じゃあ……その、どこかに出かけないか?」
「へ?」
予想外の言葉に、素っ頓狂な声が出てしまった。
「嫌だよな。すまない、無神経だった」
「そんなことありません。行きたいです!」
ジョセフ様とのお出かけなんていつぶりだろう。
「本当か。じゃあ、次の休みは?」
「5日後です」
「5日後か……俺もその日は大丈夫だ。では、11時に停留所で待ち合わせでいいか?」
「はい」
声色から嬉しさが溢れ出さないように気をつけながら、返事をした。
「では、楽しみにしている」
「私も楽しみです」
ジョセフ様は再び背中を向け、帰っていった。
家の中に入り、広くもないのにスキップをしてしまう。
聞きたいことも話したいこともたくさんある。今度はしっかり聞かないと。
でも、それ以上にジョセフ様との休日に舞い上がるような気分だった。お礼だと言うのに、こんな気分でいいのだろうか。当日気持ちを隠せるか、少し不安になった。
「遅くなったし送るよ」
「いいえ、前もこのくらい暗かったですし平気です」
「じゃあ、門まで送るよ」
流石にそれを断るわけにもいかず、ローマンに門外まで送ってもらった。
「それでは」
ローマンに一礼する。
「その、オレは本当に……」
コツン コツン
ローマンが何か言いかけた時、後ろから聞き覚えのある音がして思わず振り返る。
「ジョセフ様……」
私の声に気づいたのか、ジョセフ様と目が合った。
「ソフィア」
私の鼓動が早くなるのがわかった。
「偶然ですね。家に帰るところですか?」
少しの沈黙が流れ、私から切り出した。
「ああ、そうだが……彼は?」
ジョセフ様の目線がローマンへと移る。
「オレはソフィアの旦那さん候補」
「ちょっと!ローマン何言ってるの」
変なことを言い出すローマンを慌てて否定する。
「……へー」
ジョセフ様の視線が急に冷たくなった。
「ローマンはただの友人です!」
ジョセフ様はこんなつまらない冗談嫌いだよね。
「今のところはね」
「だからローマン!」
「君みたいな軽薄な男はソフィアには合わないんじゃないか」
ジョセフ様の普段より少し低い声に、空気が一瞬張り詰めた。
「冗談、冗談。そうだ!外は暗いしソフィアのこと送ってあげて、じゃあ」
ローマンは大袈裟に笑いながらこちらに手を振り向きを変えた。
「え!ローマン」
私の声に留まることもなく、屋敷の中へと消えていった。
「ジョセフ様すみません。1人で大丈夫なので」
「いや、送るよ」
「無理しなくていいですよ」
これだって無理にローマンが言ったから、送ってくれようとしてくれてるだけなんだ。
「夜道は危ない。俺が心配だから送らせてほしい」
「わかりました」
ただの親切心なのに、私なんかのことを心配してくれることだけで嬉しかった。
家までの道のりを歩きながら言葉を巡らせる。
聞きたいこといっぱいあるのに、それを言葉にするのが怖い。
「あの店の娘の家庭教師をしているんだな」
「はい。ハルさんから聞きましたか?」
「ああ、あの店の店主から聞いた」
「そうなんですね」
この街に来てからのことも話したい。でも……
「仕事大変か?」
「いいえ、教え甲斐もあって楽しくやらせていただいてます」
「そうか」
でも、本当に話したいことはではない。
私の家に着くまで当たり障りのないこと以外、何も話すことはできなかった。
「送っていただきありがとうございました」
「いや、いいんだ。……それでは」
ジョセフ様は私に一礼し、背中を向けた。
「お待ちください!」
私は慌ててジョセフ様の手首を掴んだ。
「どうかしたか?」
ジョセフ様は振り返り、少し屈んだ。
咄嗟に掴んでしまったけど、ここで何か言わないと私はずっと後悔する気がする。
「その……この間のことも含めてお礼をさせてください」
「大丈夫。この間、店でまけてもらったばかりだし」
「この間のもハルさんのご厚意で私は何もできていないのです」
結局、人に頼ってばかりで情けない。
「じゃあ……その、どこかに出かけないか?」
「へ?」
予想外の言葉に、素っ頓狂な声が出てしまった。
「嫌だよな。すまない、無神経だった」
「そんなことありません。行きたいです!」
ジョセフ様とのお出かけなんていつぶりだろう。
「本当か。じゃあ、次の休みは?」
「5日後です」
「5日後か……俺もその日は大丈夫だ。では、11時に停留所で待ち合わせでいいか?」
「はい」
声色から嬉しさが溢れ出さないように気をつけながら、返事をした。
「では、楽しみにしている」
「私も楽しみです」
ジョセフ様は再び背中を向け、帰っていった。
家の中に入り、広くもないのにスキップをしてしまう。
聞きたいことも話したいこともたくさんある。今度はしっかり聞かないと。
でも、それ以上にジョセフ様との休日に舞い上がるような気分だった。お礼だと言うのに、こんな気分でいいのだろうか。当日気持ちを隠せるか、少し不安になった。
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