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4.帰り道
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エミリーの家庭教師を初めて数日が経った。いまだにエミリーとの距離は縮まらない。
私は人とは仲良くなるのが得意だと思っていたが、気を遣われていただけなのかもしれない。
働きはじめて少しだけ自由に使えるお金もできた。帰り道に気になっていた家具屋があったので、寄ることにした。
「可愛い」
ドレッサーに目が留まる。まだ自分の部屋に鏡がなく、窓ガラスを見ながらなんとなくで過ごしてしまっていた。
いくつか吟味していると、ふと値段が目に入る。思ったよりも高くてそそくさと店を出た。
まだ買えるような代物ではないな。1年後……いや3年後くらいまでに買えるといいな。
店にいた時間は思ったより長く、陽が沈んでいた。街の中心部から離れると、街灯もなくこの時間になると真っ暗だった。
「そこの嬢ちゃん、いいものつけてるね」
横から現れた誰かが声をかけてきた。
「相当な上質なもんだ。これは」
男はヒョイっと私の髪につけていた髪留めを奪った。
「お願い、返してください!」
私は髪留めを取り返そうと手を伸ばすが、盗人は揶揄うかのように腕を動かした。
私にとって大切な宝物。
「しつこいな、この女!」
「痛いっ」
私は盗人に突き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
何とか取り返さないと……
コツン コツン
「女性に対して暴力とは人がすることではない」
起き上がろうとすると、どこからともなく男性が現れた。
暗くてよく見えないが、杖をついているようだった。
「何だお前」
「お前みたいなのに言う義理はない」
「はっ!お前みたいな杖つきに何ができるんだよ!」
盗人は杖をついた男性に掴み掛かろうとする。
「危ない!」
しかし私の心配をよそに、男性は盗人の足を杖で掬い上げた。
ドッシーン
盗人は顔から大きく転け、その拍子に手から離れた髪飾りは宙を舞った。
「ひっひぇぇぇ」
情けない声を出しながら、盗人は消えていった。
コツン コツン
「大丈夫かい、お嬢さん」
男性が手を差し伸べる。暗くて顔はよく見えない。
「ありがとうございます」
手を借りて起き上がり、男性に一礼する。そして私は周りを見回す。
「どうかしたのかい?」
「ええ、髪留めをなくしてしまって」
この暗闇では何も見えない。
「目はいいものでね。一緒に探そう」
男性はそう言うと、私と一緒に探し始めた。
絶対になんとか見つけないと。
「ん?あったぞ……」
道の反対側から声がした。私は近づいて確認する。
「これです。ありがとうございます!……どうかされましたか?」
「いや、なんだか懐かしいものに似ていて……そんなわけないのにな」
似たようなデザインのものを見たことがあるのだろうか。
「ありがとうございました」
「では、気をつけて」
コツン コツン
杖をついた男性はそのまま、どこかへと消えていった。
声がとてもジョセフ様に似ていた。彼がこんなとこで、しかも杖なんてついてるはずもないのに。どこまでもこの幻想は消えないのだろう。
私は人とは仲良くなるのが得意だと思っていたが、気を遣われていただけなのかもしれない。
働きはじめて少しだけ自由に使えるお金もできた。帰り道に気になっていた家具屋があったので、寄ることにした。
「可愛い」
ドレッサーに目が留まる。まだ自分の部屋に鏡がなく、窓ガラスを見ながらなんとなくで過ごしてしまっていた。
いくつか吟味していると、ふと値段が目に入る。思ったよりも高くてそそくさと店を出た。
まだ買えるような代物ではないな。1年後……いや3年後くらいまでに買えるといいな。
店にいた時間は思ったより長く、陽が沈んでいた。街の中心部から離れると、街灯もなくこの時間になると真っ暗だった。
「そこの嬢ちゃん、いいものつけてるね」
横から現れた誰かが声をかけてきた。
「相当な上質なもんだ。これは」
男はヒョイっと私の髪につけていた髪留めを奪った。
「お願い、返してください!」
私は髪留めを取り返そうと手を伸ばすが、盗人は揶揄うかのように腕を動かした。
私にとって大切な宝物。
「しつこいな、この女!」
「痛いっ」
私は盗人に突き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
何とか取り返さないと……
コツン コツン
「女性に対して暴力とは人がすることではない」
起き上がろうとすると、どこからともなく男性が現れた。
暗くてよく見えないが、杖をついているようだった。
「何だお前」
「お前みたいなのに言う義理はない」
「はっ!お前みたいな杖つきに何ができるんだよ!」
盗人は杖をついた男性に掴み掛かろうとする。
「危ない!」
しかし私の心配をよそに、男性は盗人の足を杖で掬い上げた。
ドッシーン
盗人は顔から大きく転け、その拍子に手から離れた髪飾りは宙を舞った。
「ひっひぇぇぇ」
情けない声を出しながら、盗人は消えていった。
コツン コツン
「大丈夫かい、お嬢さん」
男性が手を差し伸べる。暗くて顔はよく見えない。
「ありがとうございます」
手を借りて起き上がり、男性に一礼する。そして私は周りを見回す。
「どうかしたのかい?」
「ええ、髪留めをなくしてしまって」
この暗闇では何も見えない。
「目はいいものでね。一緒に探そう」
男性はそう言うと、私と一緒に探し始めた。
絶対になんとか見つけないと。
「ん?あったぞ……」
道の反対側から声がした。私は近づいて確認する。
「これです。ありがとうございます!……どうかされましたか?」
「いや、なんだか懐かしいものに似ていて……そんなわけないのにな」
似たようなデザインのものを見たことがあるのだろうか。
「ありがとうございました」
「では、気をつけて」
コツン コツン
杖をついた男性はそのまま、どこかへと消えていった。
声がとてもジョセフ様に似ていた。彼がこんなとこで、しかも杖なんてついてるはずもないのに。どこまでもこの幻想は消えないのだろう。
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