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朝議
97話
しおりを挟む渧淳は先程までの浮上していた気分が一気に霧散した。頭が目の前に起こっている。
自分の計画によりこの世から消えたはずの泰龍と飛龍が平然とこちらに歩いてきているではないか。
「どうした、渧淳。まるで幽霊でも見たような表情じゃないか。それは無理もないか、先程死んだと聞いたばかりだものな」
「こ、皇帝陛下」
「先程まで何やら楽しそうな話をしていたようだな。誰かが我々の命を狙っていた、とか」
「飛龍皇子……」
狼狽えているのは渧淳だけでなく、先程まで笑いを浮かべていた高官も同じだった。
「どこから話すべきか。――まずは私の食事に毒を盛ったところから聞かせてもらおう」
「な、なにを仰います。皇帝陛下のお食事に毒を盛るなどしておりません」
渧淳は背筋に流れる冷や汗を感じながら、皇帝に立ち向かう。
「確かにお前は毒を盛っていないだろう。しかしこいつはどうか」
ちらりと背後を振り向き、武官に連れられた宇民が入ってくる。渧淳はさっきとは比にならない程なく焦りが生まれた。
「なぜ貴様が生きている!!」
「そんなに大声を出さずとも聞こえている」
渧淳は武官を買収してまで口封じをしたはずの宇民が現れて混乱する。
「その様子からすると渧淳と宇民は知り合いのようだな?」
「いえ、知り合いというわけでは……。飛龍様に毒を盛ったと捕縛されていた所を見ておりました。てっきりもう処刑されていると思っていたので驚いただけでございます」
「お前が買収した武官にか?」
「――っ! そんなことはしておりません」
渧淳は下手なことを言うと、どう追い込まれるか分からず否定するに留めた。
「この男は飛龍の給仕係のみならず、私の食事の毒見役もこなしていたと言うではないか。ちょうど私の食事に毒が入り始めた頃にな」
「その男を毒見役に推したのは私ではありません。その男がいくら私の名前を出したとて、勝手に罪を私に被せようとしているだけにございます」
「ではこちらはどうか」
そういい、飛龍が懐から出してきたのは宴で酒を注ぐ際に宇民が使っていた道具だった。
「なぜ同じ入れ物で注いでいたにもかかわらず、飛龍だけが毒に倒れたのか。それが不思議で仕方なかった」
周りにいた尚書で宴に出席していた者も同じ酒器で注がれていたのに、毒に倒れるどころか健康そのものだ。
あからさまに酒器が変わっていればさすがの飛龍も警戒をせざるを得なかっただろう。
しかし他の者は同じ容器で注いだ酒を飲んでもなんの変化もなかった。
それゆえ飛龍は自分に注がれた酒を疑うことなく飲み干した。
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