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出会い
44話
しおりを挟む蓮花は自分の手を包んでいた飛の手に空いている方の手を重ねる。飛は蓮花の行動に驚き彼女を見る。
「あの、私……大したこと出来ないかもしれないんですけど。それでも何か出来ることがあったらいつでも言ってください。飛様の助けに少しでもなることが出来るなら全力でお力になります」
「こんな素性の分からない男のためにか?」
「私の勝手な想像ですけど、きっとそれは安易に正体を知ってしまうと良くないってことなんですよね。飛様が抱えている何かに私が巻き込まれないようにって考えてくれてるのかなって……。都合のいい解釈かもしれないですけど」
「蓮花……」
蓮花の考えを聞き飛はなんとも言えない表情をする。蓮花はそんな彼に笑いかける。
「それにこうやって実際に飛様とお話したりして、私は飛様が悪い方だなんて思えません。もしそうだとしたら自分の見る目がなかったんです。だから私は飛様がどんな方だろうと自分の感じた気持ちを信じます」
飛が蓮花に何か言おうと口を開いた時――。
「わん!」
大きな白の鳴き声が聞こえた。自分だけ除け者にするなと言いたいのかいつの間にか二人のそばに戻ってきていた様だ。
白の声に驚いて蓮花は飛の手を離す。そして白に向き直って驚いた。
「白ったら泥んこじゃない! 随分やんちゃしたのねえ」
「これじゃ白じゃなくて黒だな」
二人で白の姿を見て笑う。白は自分が笑われているのに気付かずに笑顔の二人を見て楽しそうにわんわん!と鳴いている。
蓮花は白の元へ跪き、掌をかざす。しばらくすると淡い光が白を包む。
次第に白の毛に付いた泥が浮き上がり光が蓮花の手の元に集まると同時に泥も一緒に一塊になる。
白に再びつかないように少し離れた所で力を抜くと泥も地面へと崩れ落ちた。
白は仕上げとばかりにブルブルと体を震わす。蓮花は落とし残しがないか簡単に確認して白の頭を撫でる。
「前も見せてもらったが、見事だな」
「あまり使い所はないんですけど、弟妹達が目一杯遊んだ後は助かります」
「物を浮かせるのが能力か?」
「きちんと調べたことはありませんが、自分で認識しているものを取り除けると思っています。豆の選り分けなんかに大役立ちです」
「蓮花らしいな」
ふ、と息を漏らす飛に力説した蓮花は少し恥ずかしくなったが、出してしまった言葉は戻せないので咳払いで誤魔化しておく。
「飛様は何か異能はお持ちなんですか?」
「いや――私は何も持ってないな」
「まあ、あまり異能持ちに頻繁に会うことはないですもんね」
蓮花は変に間があった様な気がしたが、自分の気のせいかと思い直す。蓮花自身もまさか自分に異能があるとは小さい頃は思わなかった。
飛はお腹を見せてくつろぐ白を優しい手つきで撫で始める。
官吏たちが行き交う宮廷から少し離れたこの場所には喧騒は聞こえない。小さな子鳥のさえずりがたまに耳を震わせるくらいだ。
柔らかな日差しに包まれながら飛と白と穏やかな時間を過ごす。些細だが幸せな時間だと蓮花はしみじみ思った。
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