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出会い
31話
しおりを挟む羽州のとある一角。蓮花は唖然とした表情で立っていた。
蓮花の前にあるのは宋家の羽州別邸。小鈴の邸とは違いゴテゴテ飾っている訳では無いのに上品さが溢れ出ている。本当に自分はこの邸に招待されたのかと自信が無くなりかけた蓮花だったが気を持ち直して前を向く。
正面扉にいる家人に取次をお願いすると、しばらくして優しそうな中年の侍女が出てくる。
「わざわざ遠い所からよくおいでくださいました。こちらへどうぞ、お嬢様がお待ちです」
笑顔で出迎えてくれた事に安心して、彼女の後をついて行く。しばらく歩くとある部屋の前で綉礼が立っているのが見えた。
「あらあら、綉礼様。私がお連れしますとお伝えしましたのに、部屋の外で待たれるなんて」
「ごめんなさい。つい待ちきれなくて……。蓮花さん、今日は来てくださってありがとうございます。こちらへお入りください」
女性にたしなめられた綉礼は恥ずかしそうな様子を見せたが、蓮花の姿を認めると笑顔になった。
綉礼に促されるまま部屋に入ると続けて先程の侍女がお茶を用意してくれる。蓮花がお礼を告げると嬉しそうに下がって行った。
「今日はお招きいただいてありがとうございます」
「こちらこそ、楽しみにしてました」
綻ぶような笑みを見せてお茶を飲む綉礼は一枚の絵画のような美しさがある。蓮花は忘れぬうちに、と持ってきた手土産を渡す。
「これお口に合うか分からないんですけど……良ければ頂いてください」
「いいんですか? 気を遣わせてしまったようで申し訳ないです」
「綉礼様が甘いものがお好きだと伺ったので、近所にある私が好きな艾窩窩を持ってきました」
「艾窩窩は地域によって色んな種類があるらしいですね! こちらのものはどんな味か楽しみです」
艾窩窩とはもち米の粉を蒸して柔らかくし丸めた中に、胡桃やこし餡、干し果実などを包んだお菓子だ。周りに椰子の実の粉をまぶしているので雪玉のような見た目をしている。
「よろしければ、一緒にいただきませんか?」
「綉礼様がよろしければ、ぜひご相伴にあずかります」
控えていた侍女に取り皿を持って来てもらい、包の中からそっと取り出す。
それを見つめる綉礼の目はキラキラしていて、蓮花の頭の中で弟妹にお土産を持って帰った時の姿と重なった。
「では、いただきます」
綉礼はそうっと楊枝で切り分け口に入れた。目を大きく開き頬が緩みきっている。蓮花は感想を聞かなくても綉礼が気に入ってくれた事が分かって嬉しくなる。
「気に入っていただけたようで嬉しいです」
「とても美味しいです! 中の餡子が白餡なのも斬新で……こんな美味しいものが食べられるなら羽州に引っ越して来たいくらいです」
それから二人は艾窩窩を食べながら交流を続けた。
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