12 / 114
出会い
12話
しおりを挟む「本当に来られるんですか?」
「もちろん、私の両親の事は気にする事はない。昔から困った人達なんだ」
恋人の蘭玲を心配させないように背中に手を当て歩を進めるよう促す。戸惑いつつも蘭玲は足を踏み出した。
「一応両親には今日来られるかもしれないとは伝えてあります」
「ありがとう、実は何日も前から緊張であまり眠れなくて……。変な事を口走ったらすぐ止めておくれ」
困ったように笑う王琳に蘭玲もつい笑ってしまった。いつでも蘭玲の心を落ち着けてくれる、そんな王琳の事が大好きだった。
蘭玲が店番の時に王琳が訪れた時、それが二人が初めて会った時だった。蘭玲は王琳と言葉を交わした時から何故か王琳の事が頭にへばりついて離れなくなってしまった。王琳の探していた品を出す時もいつもは完璧にこなせるのに、緊張して腕が違う箱にあたりばらまいてしまった。焦りと羞恥で真っ赤になって慌てる蘭玲に王琳は笑って落ち着くよう諭してくれた。
それから逢瀬を重ね、想いが通じ合い、とうとう王琳は蘭玲に求婚された。身分違いな恋人を連れてきた息子に王琳の両親はいい顔をしなかった。王琳は知ったことかと開き直っていたが蘭玲はそうもいかず、このまま結婚してしまって良いものかと不安になっていた。
王琳は蘭玲の両親に結婚の許可をもらおうと挨拶に行くと決め、今は彼女の家に向かっている。蘭玲は王琳の両親だけでなく、自分の両親にも反対されてしまったらどうすればいいのか――不安でたまらなかった。
着いて欲しくない時ほど早くついてしまうのは何故だろう。蘭玲はそう思いながら目の前にある見慣れた玄関を見つめた。――そして重い手を上げ扉を開いた。
「ただいま帰りました」
少しすると、奥から母の姿が近づいてきた。蘭玲も王琳も自然と背筋が伸びる。
「よくお越しくださいました。荒屋ではございますが、どうぞお上がりください」
王琳に口を開く隙を与えずそう言い、二人を促した。母は普段は穏やかな人だが、時折こうやってまるで別人の様に凛とした様子を見せることがあった。
「お邪魔いたします」
王琳も落ち着いた様子で家の奥に進んだ。蘭玲はその少し後ろを着いていく。
「こちらへどうぞ。お茶をお持ちします」
「ありがとうございます」
母は台所の方に向かったので代わりに蘭玲が扉を開く。その先の机の傍に立っていたのは父だった。程なくして母がお盆を持って戻ってきた。蘭玲も一緒にお茶を入れて両親と向き合って座る。
「どうぞ、粗茶ですが」
「ありがとうございます。いただきます」
王琳は茶器を手に取り軽く一口含んだ。恐らく両親は気付いていないが、隣にいる蘭玲には王琳の手が微かに震えているのがわかった。あの王琳でも緊張しているのだ。それなのにちゃんと両親の許可を取りに来てくれた。蘭玲はもし両親から縁を切られたとしても王琳について行く覚悟を決めた。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。柳王琳と申します。」
「こちらこそ、君ほどの官吏だと忙しいだろう。わざわざ御足労いただいて申し訳ない」
「――いえ、当たり前のことです」
それまで一言も発していなかった父が口を開いたことで、王琳の緊張が少し解けたようだった。んんっ、と咳払いをして彼が口を開いた。
「今日は――蘭玲さんとの結婚の許可を頂きに参りました」
とうとう決定的な一言を放った王琳の声を聞き、蘭玲は両親の反応を見るのが恐ろしかった。二人の顔を見れず、ずっと手元の茶器を見ていたが意を決して恐る恐る目線をあげる。
声も無く、母が立ち上がり退席する。その姿を見て蘭玲は落胆してしまった。やはり駄目なのか、と。ぎゅっと目を瞑り涙が出そうなのを必死で堪えた。
「二人とも、これを」
「――え?」
姿を消したはずの母が何かが乗った皿を持って戻ってきていた。どういうことか分からず王琳も蘭玲も困惑の表情を浮かべる。
「これはチョコチップクッキーと言って、セラム王国のお菓子よ」
「セラム王国の? でもなぜそんなものがここに?」
「そうね……。あなたには言ってなかったけど、お父さんとお母さんはセラム王国の出身なの」
唐突に告げられた真実に開いた口が塞がらなかった。今までそんなこと聞いたこともなかったし、素振りも見せなかった。名前だって天聖国の住民らしく漢字だ。
「色々あって二人で天聖国に移住したのよ。名前もその時に変えてね」
「商売が軌道に乗って、お前が生まれてセラム王国を思い出すことも少なくなったが――忘れたい訳ではない」
父も母と共に話をし始めた。父は懐かしむような顔でクッキーを手に取り一口含んだ。
「いつか、あなたが生涯を共に生きていく相手を見つけることが出来たら……。その時にその相手と一緒に私たちの国の物を食べて食卓を囲めたらってずっとお父さんと話していたの」
「それって――」
生涯を共に生きていく相手という言葉――そしてこのクッキーを出してくれたという事は。両親が言いたい事を察した蘭玲はさっきとは違う涙が溢れて来るのがわかった。
「王琳様も良かったら召し上がってくれるかしら?」
「是非いただきます。それから、どうぞ王琳とお呼びください。義父上、義母上」
そうして蘭玲は王琳の妻としての一歩を踏み出したのだ。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・
やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ
特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。
もう逃げ道は無い・・・・
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
山蛭様といっしょ。
ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。
和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。
不気味な恋を目指しております。
気持ちは少女漫画ですが、
残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。
表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと57隻!(2024/12/18時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。
毎日一話投稿します。
後宮で立派な継母になるために
絹乃
キャラ文芸
母である皇后を喪った4歳の蒼海(ツァンハイ)皇女。未来視のできる皇女の養育者は見つからない。妃嬪の一人である玲華(リンホア)は皇女の継母となることを誓う。しかし玲華の兄が不穏な動きをする。そして玲華の元にやって来たのは、侍女に扮した麗しの青年、凌星(リンシー)だった。凌星は皇子であり、未来を語る蒼海の監視と玲華の兄の様子を探るために派遣された。玲華が得意の側寫術(プロファイリング)を駆使し、娘や凌星と共に兄の陰謀を阻止する継母後宮ミステリー。※表紙は、てんぱる様のフリー素材をお借りしています。
お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。
父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。
そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる